【感想・ネタバレ】差別感情の哲学のレビュー

あらすじ

差別とはいかなる人間的事態なのか? 他者に対する否定的感情(不快・嫌悪・軽蔑・恐怖)とその裏返しとしての自己に対する肯定的感情(誇り・自尊心・帰属意識・向上心)、そして「誠実性」の危うさの考察で解明される差別感情の本質。自分や帰属集団を誇り優越感に浸るわれらのうちに蠢く感情を抉り出し、「自己批判精神」と「繊細な精神」をもって戦い続けることを訴える、哲学者の挑戦。

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Posted by ブクログ

差別感情という人間の奥底に潜んでいるものを徹底的に炙り出している力作。

著者の中島義道に関しては、社会不適合である自意識のある人に寄り添い、励ましてくれるような言葉を投げかけてくれるような印象を勝手にもっていたが、概ね間違ってはいなかったようだ。本書でも中島義道は「常識」や「普通」といった言葉の危険性を訴え、違和感を実直に書き連ねることで、同じような経験をした読者との間に共感の橋を架けている。

一般的に疎まれる「高慢」や「驕り」などの否定的感情と「誇り」や「高邁」などの肯定的感情を対置させ、どちらにも差別感情は含まれていると説く。
自分自身を肯定する感情のそばには、他者を蹴落とす精神も必ず付いて回るという。相手が社会的弱者である、ということを無意識にでも認識した時点で差別感情は必ず発生しているともいう。

ただ、筆者はすべての差別感情をなくすことは難しく、むしろ無くそうといった偽善的な行為はますます社会を窮屈にしていき、そういった(強い)差別反対の意思表示は逆説的に差別を助長しているとまで説く。
どうすれば良いのかといった問いに対しては、解決策を具体的に提示するわけではない。ただ、どんな些細な事象であれ、必ず差別感情は発生するので、その感情と自分が向き合えるか、意識できるかどうかというのがポイントなのだろう。

文中に出てきた「パレーシア」という概念が気になるので、その発案者のフーコーもかじってみたいと思った。

昨今の群集化した怒りの感情や、過激な差別反対主義に違和感を感じる人は読んでみても良いかもしれない。

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2019年08月31日

Posted by ブクログ

人間の心のうちに潜む差別感情について、哲学的に考察した一冊。差別問題を考えるにあたって、必読である。

外形的制度による差別が廃されて尚、差別問題が一向に解消しない要因を人間の心に求め、「不快」「嫌悪」「軽蔑」「恐怖」などの感情を丹念に分析する試みが興味深かった。他者への否定的感情及び自己への肯定的感情が絡み合い、差別感情が作り上げられていくということが理解できた。

著者は、人間が差別感情を抱くこと自体は自然であり、寧ろそうした感情の統制に走るべきではないと示している。それを前提とした上で、如何に差別感情に自己が向き合うかを問うているスタンスに共感した。

著者が差別感情への対処において、カントの最高善を持ち出している点が白眉である。誠実性を基盤とした他者の幸福追求という立場を目指すことが、問題解決の一助になると感じた。

最後に、著者が再三言及している「自己批判精神」と「繊細な精神」を併せ持ち、物事を理解し判断する姿勢が肝要である。

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2025年09月11日

Posted by ブクログ

昨今、「差別」を巡る言説はその数を増やし、社会は差別を根絶する方向へ(徐々に、時には逆行しつつも)向かっているように感じる。政治的、社会的な運動はその顕著な例だろう。こうした傾向に対して、例え保守的なイデオロギーを内面化しておらずとも、違和感を感じるものは少なくないのではないか。すなわち、そうした運動によって差別は本当に解消されるものなのか、寧ろそうした耳障りの良い言説の中で排除されている者がいるのではないか、という問題がここで浮かび上がる。
差別とは、制度的な改革によって完全に解消されることはなく、ともすれば我々の認識、ひいてはあらゆる行為にまで根付いたものではないか。
筆者は、このような忌まわしくも根源的なものである「差別」に対し、仕方のないものであるとして温存せざるを得ないと考えるのでなく、我々の認識から「差別的」なものを機械的に排除するディストピア的な世界を描くわけでもなく、また「差別」の根深さに絶望して社会から逃れ隠遁することを説くわけでもない。そうではなく、我々が「差別」と本質的に結びついていることを認めた上で、それでも我々がこの社会で少しでも善く在るためにはどのようにすべきかを真摯に捉えようとしている。
本書は、差別の問題に関心がある者だけでなく、差別の問題を巡る議論に違和感を覚える者にも勧めたい良書である。

(なお、本書を読み進める中で筆者の用いる具体例や表現に違和感を感じる者もいるかと思われるが、そうした場合は、なぜ自分がそれに対して違和感を感じるのかを本書の議論に関連させて考えると良いかと思われる。)

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2025年06月25日

Posted by ブクログ

生きてるだけで、目線を送るだけで、"誰かを踏み付けてるかもしれない"という繊細な心を持つことが必要、との主張。
障害を持った友人、知人らと接する時や、自身が主催している社会問題の勉強会の時にあったどこか"モヤモヤ"した、スッキリしない部分をハッキリ言語化してもらった感覚。
日々、もっと繊細に生きようと強く思えた。

仏教はなんでこんなに『苦』にフォーカスするんだろうとモヤモヤしていたのだが、確かに著者の視点で世の中を見渡したら『苦』ばかりだなと、論点はズレるが、後書きを読んで、別の納得感も得られた。

数十年経ったら古典として、多くの人に読まれ継がれそう。

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2022年03月30日

Posted by ブクログ

自分や他人の汚さ...という地獄からの脱出法が書いてあった。
物事の底が見えると、それはそれで安心してそれなりに過ごせる気がしてくる。
不思議だ。

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2021年07月05日

Posted by ブクログ

差別感情はどこから生まれ、育っていくのか。
偏った者が差別感情を生み出していると考えられがちではあるが、所謂ふつうの人こそが差別の温床である。ふつうの人が、差別などしていないという意識でいるからこそ、無意識に差別が起こるのだ。
ナチスドイツがその最たる例である。
私たちはあらゆる行為に差別感情が付随していることを意識し、「他人」を自分の目線から外すことのないよう行動しなければならない。そのために、差別する自分と向き合わねばならない。

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2020年07月27日

Posted by ブクログ

-非権力的が権力に立ち向かい自らの理念を実現するためには、それ自身が権力を持たねばならないという自己矛盾に陥る。
SNSでだれかが悪を糾弾しあっというまに炎上、忘却を繰り返す世間。正義とは善とは、わからなくなる今日に読みたい本。新聞で引用されていた、フランス文学者の渡辺一夫の”寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容たるべきではない”という言葉を思い出す。

寛容は寛容にしか守れない。
難しいけども、常に繊細な自己批判を行うこと。いかなる理論もそれを欠如していて、無条件に自らを正しいとするならば、背を向けてよい、というメッセージ。

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2019年07月22日

Posted by ブクログ

現実的かどうかはわからない。しかし、どうだろうか? と考えることは大切だと思う。綺麗事かもしれない。しかし、一面的な綺麗事とは一線を画すと思う。加えて、必要になるであろう景色も著者は提示している。どこまで添えるかは各人それぞれだと思うけれど個人的には、こういう率直な議論が一番、響くように思う。有意義な読書だった。

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2017年12月18日

Posted by ブクログ

あなたの差別意識についての本。私達が差別と聞いてまず思い浮かべるのは黒人差別、障害者差別などだと思う。しかし差別意識は遠い場所にあるものではなく、ふとした会話や態度など日常生活に深く根ざしているものなのだ。という事を読みやすい文章と構成で書いた本。

個人的に本書で最も重要なのは、人間のあらゆる文化には差別意識が内包されており、差別意識と人間は切り離せないものだという考え方だと思う。誰かを褒める時、その価値観に適応していない人に対して無意識的に差別的になっているし、自らの何かを誇るとき、それを持たない人に差別的になっている。あらゆる価値判断は比較の上に成り立ち、だからこそ差別意識が含まれてしまう。

脱構築され全てが相対化された現代社会において正義とは、正義を自認する人による絶対のものではなく、常に自らの正しさを疑い、修正していく姿勢の事だ、的な内容に感銘を受けた。SNSでは正義の名を関した私刑がまかり通り、それは私から見て正しいと言えるものではなく、しかし彼らは自らの正しさを疑わないという状況に対する不快感の説明をしてくれた。「そうだそうだ」と思いながら読み進められた。

帰属意識や誇り、自尊心といったものは差別意識の温床であり、健全とされる向上心にすら差別意識は存在しているといった所や、差別語はそれ自体が消えても直ぐに代替の言葉が生まれるから本質的解決をしない限り、言葉狩りには大した意味がない。いじめ問題の解決にはいじめダメ絶対と馬鹿の一つ覚えで言うのではなく、構造的な視点を持ち込む必要がある、といった内容が個人的にお気に入りだった。

努力は平等ではないという所や正義に関してはマイケル・サンデルや橘玲的なものを感じた。

本書の結論は、(自らの行為を含め)すべての行為には差別感情が多少なりともこびりついていることを認め、常に自分自身に対して問題意識を持ち続けることで差別意識を減らしていこうというものだと思う。(ただそうする事で差別意識を持つ人に対して差別的になっていしまうから、いよいよどうしようもないなぁ)
この結論には誠実さがあると思うし、極めて重要な姿勢だと思うけど、実際に今激しい差別を受けている人達に対しての即効性は薄い思う。例えば黒人が奴隷として扱われている時には、黒人にも差別意識があるという論よりも前に、まずは物理的な不平等を解消するのが先なように、本書で書かれている内容を何に対してもすぐ適用するのは適切じゃないと思う。

総合的に自分は満足の行く内容だった。ただ本書の性質として、論理的に差別の構造を分析するというより、筆者の問題提起に偏っている所がややあるため、そこには注意。あと筆者の女性観にも若干の偏りがあるからひっかかる人は結構嫌かも。

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2024年06月15日

Posted by ブクログ

ウーマンリブや障害者解放運動については、言いたいこともあるが、最後の息子を誤って引きこ…してしまった母親が自責に耐えながら自死せずに生きているとしたら、どんな勲章もこれに及ばないという考察は本当にその通りやと思った!

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2021年12月27日

Posted by ブクログ

 差別感情を軸に「繊細で自己批判的な精神を常に持ち続けること」を一貫して主張している。なお、本書の主張は殆どが著者の経験に依るので、評論というよりかはエッセイに近い。(もっとも、感情という極めて主観的なものを対象としているので仕方ないことではあるが)
 そうなると必然的にこの主張は納得できる/できないがより顕著になるので、そこから自身の「差別感情」を追求れば理解が深まると思われる。

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2021年01月24日

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ネタバレ

誠実でありながら、他人が幸福であるように行動するという主張で締められる。要は、差別に関しては怠惰に考えることをやめてはダメで、差別に敏感であり続ける必要がある。

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2016年05月28日

Posted by ブクログ

普段から差別について考えていると、あまり目新しい感は受けないと思う。内容は格別に革新的ということもない。不快や嫌悪の情を根本から否定することはできないという論にはまったく同意するが、その依拠するところが「人間らしさ」の喪失であるのはいささか心許ない。学術書というよりはエッセイに近い印象をうけた。

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2020年03月07日

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