【感想・ネタバレ】裁かれた命 死刑囚から届いた手紙のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年11月09日

それはまだ「永山基準」と呼ばれる死刑基準が出来る前の
ことだ。1966年に強盗殺人事件の容疑で逮捕されたのは
長谷川武、22歳。

ほとんど弁明もせずに、彼は一審での死刑判決を受け入れた。
しかし、母には受け入れがたい判決だった。母からの熱心な
懇願で、小林健治弁護士は二審の弁護を引き受ける。

...続きを読むが、一審の死刑判決が覆ることはなかった。1971年11月9日、
9時32分。28歳になった長谷川武は「従容として」刑場に消えた。

本書は、別件の取材で検事・土本武司の元を訪れていた著者に
獄中から届いた手紙を見せられたことから始まった、死刑制度を
問う作品だ。

それは、一審で死刑求刑を書いた土本へ、獄中の長谷川が
書き送った手紙だった。恨みつらみが書かれているのではない。
手紙には土本への感謝が綴られていた。

彼はどうしてこれを書いたのだろう。

既に長谷川本人はこの世にいない。世間を騒がせた重大事件では
ない。悪い言い方だが、ありふれた強盗殺人事件だ。多くの
資料が残されている訳もない。

それでも著者は関係者を探し出し、長谷川の生い立ち、彼に影響
を与えたであろう母のルーツを探し当てる。そして、幼くして
養子に出された長谷川の弟さえ探し出した。

長谷川が手紙を送っていたのは土本だけではなかった。二審を
受け持った小林弁護士、事件直前まで勤務していた会社社長の
元へも手紙が送られて来ていた。

本書には長谷川が残した手紙全文が多く引用されている。そこ
には自分の犯した罪を自覚し、罰を受け入れることで強盗殺人
事件の犯人とは思えないほどの心の穏やかさがあった。

人は、変われる。長谷川の手紙を読んでぼんやりと感じていた
ことが確信に変わった。

勿論、古い事件だけに著者の取材でもはっきとは分からない
部分もあり、もやっとした気持ちになることもあったが根気よく
綿密に取材が行われたのが分かる良書だ。

死刑囚の待遇も、今よりは緩かったこともわかる。人間的に
接することで何かが変わることがあるのではないかな。

「悪い事をしたら罰を受ける、人を殺したら命で償うという
のは分かりやすいロジックではあるけれど、死刑は法律が
認めた、いわば国家による殺人と言ってもいい。目の前で
動いている、生きている人間を殺すことなんですから。
死刑は本来、究極の選択でなくてはならないんですがね……」

死刑維持派と言われる土本の言葉だ。究極の選択をしなければ
ならなかった検事の苦悩から、もう一度、日本の死刑制度を
見直してみてもいいのではないか。

死刑は、命ばかりか更生の可能性さえ奪ってしまうのだから。

骨太のノンフィクションはやっぱり読みごたえがある。

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購入済み

上質なミステリーのようです

2018年05月21日

世の中に「死刑」の是非をめぐる論争は数多ありますが、この本はそうした枠を超えて、読むものに命の大切さや人を裁くことの難しさを訴えていると思います。堀川惠子さんの作品は4作目ですが、どの本も取材が行き届き、著者の切なさや温かい心が込められています。これからもどんどん書いてください!

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Posted by ブクログ 2021年08月05日

社会の課題を見つめる新たな視点をもらえた。
取材力が凄まじい。
構成も素晴らしく、寝食を忘れて読んだ。

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Posted by ブクログ 2023年04月17日

この記者の、取材対象への執念にはいつも驚かされる。
検事の葛藤がよくわかった。
昔の東京拘置所の寛容な対応や、教誨師の存在、立ち会った人たちによる処刑についての証言など興味深い。
私自身はどちらかというと廃止かな、くらいで死刑に対して強い意見を持っているわけではない。
ただ、本書は、長谷川武が死刑判...続きを読む決を受けた後に更生している様子を見せていたことを受けて「あんなふうに変わってくれたのに死刑執行してよかったのか」と葛藤するということが描かれているが、私は、そもそも長谷川武があんなに澄み切った気持ちになれたのは死刑判決を受けたからなのではないか?と感じた。
生への諦念が生まれて初めて悟りを得たような心境になり、自分の罪と真摯に向き合えたのではないかなと。
たらればになってしまうし実際のところは分からないけど、難しいな。

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Posted by ブクログ 2022年06月26日

苦しい、苦しく切ない死刑囚の話だ。
いつだって貧困やいじめはこのような悲しい事件を引き起こしてしまう。

28歳で執行された長谷川武死刑囚
貧しい生活の中で高級な腕時計をローンを組んで買っていた、贅沢すぎると怒られた時に自分はこの腕時計が欲しかったわけじゃない、いつも貧乏な生活で我慢ばかりして引け目...続きを読むを負って生きてきたけど、この高価な品を持っているだけでなぜか心が安らいだ、安心できたと。
自分もみんなと同じ一人前の人間なんだと確認できたと。
ただ、ただ普通でいたいだけだったのにと思うと胸が締め付けられる。

最後の夜に食べたいと求めたラーメンとお寿司
寝ずに書いた手紙たち、28歳の彼の魂が切ない。
しかし、したことの罪は償わなければいけない現実に読んでいて苦しくなった。

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Posted by ブクログ 2016年02月16日

この本の感想は難しい。
いまから30年ほども前に死刑執行された長谷川を追っていく。長谷川が死刑判決後に検察官や弁護士、関係者に書いた手紙を元に進んでいく。その過程で被害者がひとりだけ、生活態度真面目なのになぜ死刑になったか裁判官達が珍しく覚えていない、とまるで誤って死刑になったかのような描写がされる...続きを読む
ここに強い違和感を感じる。被害者はたったひとり、だけどごく普通の主婦で、家に居る所を押し込み強盗にあった。発見者は小学生の娘。この本を被害者側から書いたら当然だが全く違う内容になっただろう。だって長谷川の犯行は冤罪ではなく、例えば防衛のためでもなく、生活のためでもない。贅沢な暮らしをしたいという欲のため。
作中、長谷川が小鳥を可愛がっていた描写など「心優しい青年」を強調する。それを読んだ私は「本当は良い人だったんだ」と思う。しかし顔を上げると被害者がいることを思い出す。その揺さぶりの繰り返しだった。
加えて死刑囚を巡る多数の人々の感情(ただし登場しない被害者を除く)は胸に迫るものがあった。

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Posted by ブクログ 2015年12月26日

死刑制度と、それに関わる人々の姿を描き出しており、大変意義のある取材であることに異論はない。
が、やはり冤罪でもない、多くの犯罪を犯し、最後には殺人に及んだ長谷川に対し、どんなに反省し、悔悟の念を持つようになっても、全く心を寄せる気になれなかった。
それだけに、被害者側の取材が意図的であるにせよ不足...続きを読むしていることに強い違和感を感じた。
早い段階で少しでも被害者側の取材をしていれば、この本のような取材や立論の流れになっただろうか。

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