【感想・ネタバレ】ネットと愛国のレビュー

あらすじ

【第55回 日本ジャーナリスト会議賞受賞・第34回 講談社ノンフィクション賞受賞】 「弱者のフリした在日朝鮮人が特権を享受し、日本人を苦しめている」。そんな主張をふりかざし、集団街宣やインターネットを駆使して在日コリアンへの誹謗中傷を繰り返す"自称"市民保守団体。現代日本が抱える新たなタブー集団に体当たりで切り込んだ鮮烈なノンフィクション。「ヘイトスピーチ」なる言葉を世に広め、問題を可視化させた、時代を映し、時代を変えた1冊。

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Posted by ブクログ

在特会のルポ。単行本は2012年の刊行。ポストトゥルースな2025年の現状はすでにこの頃にはすっかり準備されていたんだなという驚きの連続だった。

彼らは愛国の名のもとに差別する。しかし彼らの活動には思想も地域社会との共生もない。まるで「愛国に名を借りた鬱憤晴らし」のようなのだ。ある朝鮮学校のOBは語る。「朝鮮人がバカにされるのは今に始まったことじゃないしな。それにあの人たちだって、楽しくてしかたないって人生を送ってるわけじゃないんやろ?」

在特会はインターネット上で似た意見を持つ者たちが集まって結成された。平成22年には活動資金として年1800万円ものカンパが集まった事実から、彼らの活動がその程度には市井で支持されていると考えられる。もっとも、有力な支援者だった資産家女性を失った今はどうなのかは知らない。動画配信で支持者を集める手法のため内容が過激化していき、やがてついていけなくなった一部のメンバーが離脱する事態に至っているのは昨今のYouTuberの動向を予告しているかのよう。テレビは捏造ばかり、真実はネットにあるとのネットde真実な人たちへの言及もある。

在特会が目の敵にする在日特権について一章が割かれている。特権なんてデマだけど、彼らは事実には興味なさそう。暴れるために都合よく特権を持ち出しているように見える。外国人が生活保護を受給する一方で日本人は「水際作戦」で受給させてもらえず餓死する人まで出ている、と彼らは主張する。一方で彼らが年越し派遣村などで行政から切り捨てられた人々に寄り添ってこの問題に取り組んだ事実はない。ただ「「外国人にも生活保護が受給されている」事実を批判し、「日本で生きていけないのならば祖国へ帰れ」と叫び続けているだけである」。

「在日特権とかね、あまり関係ないように思うんです。盛り上がることができればいいだけで」「朝鮮人を叩き出せという叫びは、僕には『オレという存在を認めろ!』という叫びにも聞こえる」と元メンバーは語る。地域に根付いた活動もせず、地域社会に居場所もない人間でも在特会に参加して日の丸を持つだけで仲間から認めてもらえる。それが居心地いいから彼らは活動しているのではないか。
「連中は社会に復讐してるんと違いますか? 私が知っている限り、みんな何らかの被害者意識を抱えている。その憤りを、とりあえず在日などにぶつけているように感じるんだな」

フジテレビ抗議デモは在特会ほどの過激さはない、普通の人々(幼児を抱えた母親や若いカップルたち)が、何となくの不快感や「奪われた感じ」を表明しただけの「上品な」デモだったが、そこに6000人もの人々が集まった事実。「日本が貶められている」「何かを奪われた」と感じる人々の憤りは水面下で広がりつつ、ナショナルな気分を醸成していく。2015年に書かれた文庫版あとがきで、著者は3年前ほどの勢いを失った在特会について、今や彼らは用済みになった、在特会は差別のハードルを下げ、彼らを拒まなかった結果、社会が在特会化したと書いている。先だっての参院選での特定政党の驚異的な躍進は、まさにそれを証明するものだろう。

ただ、個人的には社会がリベラルな方向へ強く振れたがために保守への反動が起きているのが(日本のみならずアメリカやヨーロッパも)現状なのかなという気がしている。しばらくは世界的に保守的な傾向が続くのではないだろうか。

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2025年07月27日

Posted by ブクログ

在特会のことがよく分かる本。
在特会の街頭演説がありのまま書かれているので、出てくる言葉がかなりキツい。気分が悪くなるレベル。

10年前くらいからインターネットに触れていたからこういう特定の民族に対しての差別的な情報は触れてきたし、そうなのかと信じてた時期があったのも思い出した。
学生だった当時はなんとなく近寄りがたいと思い、深く調べず忘れていったが、生まれる時代や環境が違ったら心酔してたかもしれないと思うと怖い。

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2022年06月26日

Posted by ブクログ

タイトルや帯だけを見れば在特会を論駁する著書なのかと勘違いするかもしれないが決してそうではない。メディアが写さなかった在特会側の人間のリアルと被害者側の在日韓国人のリアルを見事に書かれている。日本人と在日韓国人の間でも必ずわかりあえる事ができるはずという著者の誠実な気持ちがものすごく感じた。

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2015年12月12日

Posted by ブクログ

読み終えるのに意外と時間がかかった。文量があるのだから、当然ではあるが、それだけが理由ではない。
一つ一つのインタビューが、生きた人間による、熱量のある生の声であるから、流し読みができないのだ。「ちゃんと向き合って話を聞かなければ」という気になってしまう。

私は右寄りでも左寄りでもない。そのような思想のないボンクラなのであるが、この本の中に登場する人物は、私のような「思想のない人間」にも共感ができる部分がある。生きていく中で、私も経験したことがある、同様の「弱さ」や「迷い」を抱えている。

右翼や在特会について興味関心がなくても、読み物として面白い。また、ライターさんならではの文章表現も堪能できる。

全体を通して、著者は在特会に対して否定的であるように私には感じられた。理解は示しているが、納得はいっていない感じ。

しかし、「世間一般の根底にも同じ気持ちがあり、その上澄みが在特会」というならば、決して無視はできないだろう。

昨今、「日本人ファースト」という言葉が共感を得ているが、はたしてどう転がっていくか。その行く先を追っていくのに、本書は十分参考になる。

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2025年11月15日

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