【感想・ネタバレ】「白村江」以後 国家危機と東アジア外交のレビュー

あらすじ

663年、倭国大敗。国家存亡の秋(とき)。後進性を痛感した倭は、国家体制の整備を急ぐ。対唐防衛網の構築、亡命百済人による東国開発、官僚制整備。律令国家「日本」完成へといたる、古代の「近代化」を描き、あわせて現代におよぶ、無策、無定見の日本外交の問題点を抉る。(講談社選書メチエ)

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Posted by ブクログ

本書の面白さは、白村江敗戦を"軍事的事件"で終わらせず、外交・防衛・制度改革を束ねて国家のOSを書き換えていく「国家危機」の連鎖として描くところにある。唐・新羅という強大な秩序の再編が、倭(日本)側に「次に何が来るか」を強烈に意識させ、その結果として遷都、防衛施設の整備、動員や兵制の転換、律令的統治技術の更新が同時並行で進む――この同時駆動の感覚が、通史的説明よりも具体的に伝わってくる。

この本の特色は、出来事の羅列よりも「論点→背景→因果」の流れを重視しているところ。政治・制度・外交が、どう噛み合って動いたかを見取り図として整理してくれる。天智期を「近江遷都=安全保障の意思決定」として描く導線が得やすく、さらに亡命百済人の厚遇と知識受容が、単なる善政・合理性ではなく、旧来勢力の反発や政治的緊張を呼び込む火種になりうる点が強い。外圧に対応するための"正しさ"が、国内の感情や利害に摩擦を起こしていく構図は、そのまま人物ドラマになる。

情報密度は高めだが、章ごとの狙いが明確で迷子になりにくい。通史を一度読んだ後に視点を更新したい人、制度や外交のつながりを整理したい人、背景条件や選択肢の制約まで掴みたい人に向く。一方で、超入門として人物相関と事件だけを軽く追いたい人や、読み物的なドラマや逸話中心で楽しみたい人には重く感じるかもしれない。外交の圧が国内をどう変えるかを、外側から内側へと追いかけたい人に確実に刺さる一冊。

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2025年12月22日

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