あらすじ
「若い方にぜひ読んで欲しい」
著者初の電子書籍化作品!
「肺がこんなきれいな空気で満たされた恋愛小説、初めて読んだ気がする」と書評家・温水ゆかりさんが絶賛した傑作恋愛小説!
【あらすじ】
1980年、大学のキャンパスで弘之と悠子は出会った。せっかちな悠子と、のんびり屋の弘之は語学を磨き、同時通訳と翻訳家の道へ。悠子は世界中を飛び回り、弘之は美しい日本語を求めて書斎へ籠もった。二人は言葉の海で格闘し、束の間、愛し合うが、どうしようもなくすれ違う。時は流れ、55歳のベテラン翻訳家になった弘之に、ある日衝撃的な手紙が届く。切なく狂おしい意表をつく愛の形とは?
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Posted by ブクログ
大学時代に英語を学び、ロゴスの世界にのめり込んでいった男女、主人公の男は翻訳家になり、ヒロインの女は同時通訳家になった。彼らは大学生の頃から、お互いに対し恋心を抱いていたが、2人ともそのことを打ち明けることはなかった。それぞれの仕事が順調に躍進する一方、会う時間も減り、お互いの人生がすれ違い始める。しかし、心の中にはいつも存在していた。
翻訳家と通訳家の仕事の喜びと苦悩を知ることができ、この本に表現された美しい言葉の旋律を読んで小説家の言葉の尊さを感じた。
言葉が深く、美しい文章も何度も噛みしめるように読み返した。
最後の衝撃の結末は涙腺を崩壊させた。
最後に第三者から手紙で語られる女の本当の想いと、衝撃の事実。
視点を変えて読んだ時、主人公の妻の視点など少し複雑な気持ちになる。
最後の結末を読み、この本にはさまざまな伏線は張り巡らされていると気づく。
もう一度、再読したらきっと新たな発見があると思う。
何度も読み返したいと思えるような構成であり、美しい文章が書かれた物語だった。
Posted by ブクログ
タイトルと素敵な表紙に誘われました。
知らなかった言葉、メモしたくなるような表現にワクワクしました。
読後、悠子の人生に思いを馳せたりしてしまいます。
冒頭から読み返すと、最初に読んだ時と違う物語が見える。
芝木好子さんの本も読んでみようと思いました。
Posted by ブクログ
『ロゴスの市』 乙川優三郎さん
2年前に一度読み、再読。
英語と日本語、翻訳家と通訳の対比表現、そしてそれらを弘之と悠子へ当てはめていく描写が素晴らしいです。
恋愛模様だけでなく、翻訳家事情についても非常に詳しく描かれていると思います。日本語は美しい、しかし用い方によっては醜くもなる…そう、母語は時に敵になるんですね。。
言葉を紡ぐことがどれだけ日常を豊かにするか、再度学びました。
ドイツのブックフェアのシーンは、読書好きにはたまりません。会場で弘之が興奮している描写は、私の琴線に触れました。
帯にある通り、切ないです。しかし、最後の一ページでぽっと明かりが灯ります。「読書の喜びがここにある」ーまさにその通り!
Posted by ブクログ
昨年読んだ「太陽は気を失う」がなかなか良かったので買ってみたが、新年早々、良いお話を読んだ。
学生時代に出会い、惹かれあって、しかし仕事と生活の狭間で苦悩し、すれ違う男女の切なくなるような愛情模様。
結婚という枠から外れても、こういう事情の情事なら…。
直截的な表現はなくても艶めかしく、互いの精神の中に巣食うような表現に情愛の深さを思う。
とても端麗な文章で、初めて触れるような言葉の使い方もあり、作中、翻訳家が英語から日本語を絞り出すのに呻吟する様が描かれているが、日本語を紡ぐだけでもどれほどのことかと思い知る。
向田邦子、芝木好子、ジュンパ・ラリヒも読んでみたいと思った。
Posted by ブクログ
男は翻訳家、女は通訳。二言語の間を取り持つという果てのない世界に、少しだけ違うアプローチで魅せられた二人の運命を、長い年月にわたるがほんの短い交流で描いている。
とにかく暖かく重みがありながら、エッジを失わない文体で綴られている。翻訳という作業も、こういう選びぬかれた言葉でじわじわと積み上げていく苦行なのかと思わせる。
Posted by ブクログ
ロゴス愛に溢れた一冊。
翻訳という仕事のことがよくわかりました。まるで異業種交流したような気分です。
恋愛については…昭和感が味わえると思います!
翻訳には明確なルールがなく、訳者のセンスに任されるところが大きいことから〈翻訳という作業も創作〉といえるそうです。
そういった意味で、個人的に一番気になるのはタイトルのつけ方です。
たとえば本書にもでてくる『若草物語』。
原題は『Little Women』(直訳: 小さな婦人たち)だったそうですから、つけた人のセンスに脱帽です。
有名な『レ・ミゼラブル』は黒岩涙香氏によって『ああ無情』となりますし、世の中には素晴らしい邦題がたくさんあることに気付きます。
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以下、蛇足ながら…映画の素晴らしい邦題(ネット情報より)
『天使にラブソングを』
(原題:「Sister Act」、直訳:「修道女の演目」)
『スタンド・バイ・ミー』
(原作原題:「THE BODY」、 直訳:「(死)体」)
タイトルの訳し方一つで売り上げも変わるそうですから翻訳の世界は深い!
Posted by ブクログ
はじめて恋愛小説を読んだ。
なかなか面白いもんだ。
ストーリーを追うのが楽しくて、読めない漢字をそのままにしてしまったことが少し後悔。
漢字が読めたらもっと楽しめたかも。
Posted by ブクログ
通訳者の悠子と翻訳家の弘之の恋愛を描いた作品。すれ違いを重ねながらも心の奥底でお互いの仕事や生き様を理解し合い、結局一番互いを必要としている数十年が描かれていた。使われている表現が綺麗で読んでいる中で心が洗われるような作品。御宿にもドイツのブックフェアーにもにも行ってみたくなる。
なぜ通訳をすることは好きなのに翻訳が苦手なのかを悩んでいるときに読んだので、すごく腑に落ちた。
全体的に切ないが、特に最後は切ない。しかし美しく、なんだか清々しくもある。
私は悠子のように同時通訳を頑張ろうと思った。でも生き急ぐことなくたまには立ち止まることが大事。
Posted by ブクログ
小説を選ぶ際、主人公の年齢と読み手である自分自身の年齢が近いかどうかが、ひとつの基準になっている。10代の頃に読んだ小説は、明治に編まれた小説であっても青春小説であれば好んで読んだし、高校時代、あの「竜馬がゆく」でさえ幕末を舞台にした青春小説として読んだ。それが今や、10代の甘酸っぱい青春小説には手は伸びない。かつて通った道の話よりは、やがてゆく道の生々しく現実的な話に読書の関心は向かっている。
さて、この小説は55歳の男性翻訳家が主人公。1980年大学で知り合った同級生。長年にわたる恋愛を縦軸に、「翻訳家」と「同時通訳」という外国語の海での互いの格闘ぶりを横軸にした大人のロマンス小説。恋愛小説にカテゴライズされる本作。僕は「職業小説」として読んだ。とりわけ翻訳家を志す人にとっては必読の書となるんではないかな。著者は純文学作家であって翻訳家ではない。にもかかわらず「翻訳家の生態-思索・思考・葛藤-」を見事に写し取る、小説家の凄みを否応なく知らされた。
ストーリー自体には起伏は少なく、淡々と進行する。最後にドラマティックなラストシーンが用意されているが、その設定に無理矢理さは微塵も感じない。主人公は35年余りの長きにわたりひとりの女性を深く想い、これからもその想いと共に生きることは容易に想像できる。
男の恋愛は「別名保存」と揶揄されるが、主人公の場合、別名どころではない唯一無二の存在と過ごした時間という思い出とともに生きることになる。はたして、それは幸せなことなのか。
ストーリーテリングの巧さと、さらりと紡ぎ出された格調高い美文に綴られた小説に、暮れの慌たゞしさをしばし忘れ、愉しい時間を過ごせた一冊であった。