【感想・ネタバレ】濃霧の中の方向感覚のレビュー

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Posted by ブクログ 2021年11月26日

グローバル化に伴う均質化やイノベーションの加速の中で感じる違和感について、鷲田清一の滔々とした語りをまとめた本。1年半ほど塩漬けにしていたけど、今になって一気に読めた。
思索集なので特定のテーマについて語られる訳ではない。
しかしその語りの根底には「共通の対価を稼ぎ、対価を持ってサービスを買う」こ...続きを読むとに慣れたため自らの「いのちの世話」が出来なくなった現代人への不安と、「難民化」を想起させその脆弱性を浮き彫りにした東日本大震災の経験がある。
各々が当たり前のように肩代わりをしあい互いの「いのちの世話」を成立させていたコミュニティが機能を停止し個人の「自立」が進んだ現代では、ヒト同士の対話、摩擦の機会が失われた。自立したはずのヒトは摩擦による方向感覚を失い、自己の足元が覚束無い不安に苛まれるとする。
伝えたいという気持ちがないのであれば「対話技術」などは意味を持たない。そして伝えたいという気持ちは「分かり合えない」という痛い経験の最中にあり、その経験が今の子どもには不足している。という教育信念を紹介しているのだけど、個人の自由が何よりも優先されてしまう今の世界には強く刺さる。

自分が広く広くと人と関わろうとするのは、他者の価値観を浴びる事で自己輪郭を自分に感覚させるためなのだけど、止まらぬリベラル化の波の中で自分の輪郭を失わず顔を上げて歩き続けられる人がどれほどいるのかとはもう何年も不安に感じているところであり、かなり共感がある本だった。

鷲田清一の本って難解で「なに言っとんねん…」みたいなのが多いんだけど、この本は縁側でおじいちゃんの語りを聞いているような感覚だった。語りの根底には経験があり、それを押し付ける訳でもなくボヤいているような。
世の無機質さに嫌な感覚がある人は、読むと腑に落ちるものがあるかもしれない。

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Posted by ブクログ 2021年08月08日

哲学者 鷲田清一先生がせんだいメディアテークの館長として体験した東日本大震災がもたらした変化、京都芸大の理事としての学生たちとの触れ合いから紐解く芸術とは。私たちの社会に蠢く哲学について書かれています。「濃霧の中の方向感」、まさに。

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Posted by ブクログ 2020年03月09日

対話をするために必要なのは、伝える能力ではなく、価値観を摺り合わせていく能力だという言葉に納得した。正確に伝える技術ばかり意識していた自分にとって、自分の対話の仕方を見直そうと思った。折に触れてぱらぱらと読み返したくなる本だった。

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Posted by ブクログ 2021年03月25日

鷲田先生のような碩学が紡ぎ出す言葉は、とかく自分たちが置かれている状況を見失いがちになるところへ、確かな道しるを示してくれている。

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Posted by ブクログ 2019年12月22日

エッセイ詰め合わせなので細切れだし重複もあるが読みやすい。
自らのいのちの世話ができなくなってしまった(消費者に成り下がってしまった)ことについてがとても重く響いた。自分の不安を言い当てるものに感じた。

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Posted by ブクログ 2019年11月17日

1つ1つが短く、新聞などの連載が多かったので、とても読みやすかった。でも、何度も何度も途中で考えながら読むので、速く読めたわけではない。
内田樹先生の本より、ずっと前から鷲田さんの本に親しんでいたなぁと改めて思い出した。いつからか出版点数の違いからか、ブログやTwitterの影響からか、ワッシーから...続きを読むタッツーに流れて行ったのだった。内田先生のものをたくさん読んで、鷲田さんの本に戻るとき、共通の考え方が書かれていることに気づき、この考え方は内田先生、鷲田さん独自の考えというより、哲学界?の基礎知識みたいなものなのかなと気づくことも多い。
哲学を身近なものにしてくれた、日常遣いにしてくれた、私自身を生きやすくしてくれたお二人だとしみじみ感謝する。


"わたしたち一人一人が、できるだけながく、答えが出ない、出せない状態のなかにいつづけられる肺活量をもつこと、いってみれば、問えば問うほど問題が増えてくるかに見えるなかで、その複雑性の増大に耐えうる知的体力をもつこと。いま一つは、迷ってもいつもそこに根を下ろし直すことのできるたしかな言葉、そこから別のさまざまなことばを紡いでゆける明らかな言葉と出会うこと。" 7ページ

"自立というのは、他人の助けが必要でなくなることではなく、むしろ、いざとなっとら「助けて」と声を上げれば、だれかがすぐに駆けつけてくれるようなネットワークが編めているということだ。" 64ページ

"デペイズマン。居心地の悪いこと、異郷にあること、立ち位置をずらされること。見晴らしの良い場所に出るためには、さしあたってここが確かな場所でなくなることが前提となります。" 240ページ

"以前、岸和田の知人から「別に声に出さんでもいいんですけど、文章を読むとき、関西弁のイントネーションで読んではりまっか」と聞かれたことがある。即「あたりまえでしょ」と答えたのだが、知人は「やっぱり・・・。東京の人がそんなん考えられへんていわはりますねん」という。" 241ページ

こんなこと考えたことなかったが、意識してみると、関西弁のイントネーションで読んでたことにビックリ!そりゃそうか。


"病気、事故、被災、失職、事業の行きづまり、大事な人の死・・・。そういう思いがけない出来事に遭遇するたび、ひとは人生の語りなおしを迫られる。それまで人生の前提となっていたものが崩れるからだ。
 人生の語りなおしとは、別の言葉でいえば、希望の書き換えでもある。じぶんが生きるうえで軸とするものを
これまでとは少し違うものに移し変えるということである。
 そのとき必要になるのが新たの学びである。これまで考えもしなかったが、世の中にはこんな問いもある、世界にはじぶんが知らない領域が想像をはるかに超えて広がっている・・・。それを知ることが、じぶんが生きるべき世界を拡げる。ふんづまりになっていたじぶんを助けるのである。生き延びるために、学びはそれほど大切なのである。" 250ページ

あとがき冒頭
"人と人のあいだには、性と性とのあいだには、人と人以外の生きもののあいだには、どれほど声を、身ぶりを尽くしても、伝わらないことがある。思いとは違うことが伝わってしまうこともある。〈対話〉は、そのように共通の足場をもたない者のあいだで。たがいに分かりあおうとして試みられる。そのとき、理解しあえるはずだという前提に立てば、理解しえずに終わったとき、「ともにいられる」場所は閉じられる。けれとも、理解しえなくてあたりまえだという前提に立てば、「ともにいられる」場所はもうすこし開かれる。"
347ページ

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Posted by ブクログ 2019年04月27日

数ページずつのエッセイ風のような、独り言のような短編集。変わらず読みやすい文章で、ちょっと世の中のことを哲学的に捉えたくなったときに手に取るのにほどよい。

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