あらすじ
陸軍将校による幻の座談会が蘇る。和平か開戦か。太平洋戦争開戦直前に陸軍は何を考えていたのか。中堅将校たちが明かした本音とは。雑誌『偕行』に掲載された「大東亜戦争の開戦の経緯」が初の書籍化。なぜ無謀といわれるアメリカとの戦争に突入したのか、陸軍中枢にいたエリートが真実を語り尽くす。昭和史の第一人者、半藤一利氏による書き下ろし解説付き。
【戦争の導火線に火をつけたのは陸軍か海軍か? 本書で議論される7つのテーマ】
●ヒトラーと手を組みたがったのは誰か
●陸海軍の戦略観の違い
●想像を超えたアメリカの厳しい経済制裁
●日本の国力のピークは昭和13年だった
●陸軍より強硬だった海軍の将校たち
●東条首相誕生の意味
●アメリカとの戦争をどう終わらせようと考えていたか
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
中枢に近い陸軍将校たちの言い分だが、他人事のように語っているのがどうも気にかかる。結局現実を注視しようとせず、願望が前提になって戦争に突き進むことになったことがよくわかる。
Posted by ブクログ
本書はなかなかユニークな構成です。
話は「偕行社」という陸軍将校の集会所の説明から始まります。
この組織は戦前から存在し、現役・OB問わずにメンバー制で構成され、親睦や研究などの集会から冠婚葬祭の援助など多方面で活動しています。終戦時に解散しましたが、戦後しばらくして再開されたとのこと。
本書は偕行社の機関紙である『偕行』にて掲載された「大東亜戦争の開戦の経緯」と題する座談会の内容をまとめたものです。内容は戦争に至るまでの陸軍内の動向をまとめているが、戦争に至ってしまったことを「反省」する趣旨が強い内容となっている。
著者は早くからこの ”陸軍反省会” の資料を手に入れておきながら長らく書籍などのアウトプットにつなげてこなかった旨が冒頭で述べられています。しかし、書籍化を決意した理由は語っていながら、なぜ今まで長らく手を付けてこなかったのか、その理由は述べられていない。
おそらく著者は、この反省会で語られる内容に少なからず首肯できない点があり、しかし表立って反論をして偕行社とのコネクションが失われることを懸念したのではないか。というのも、本書では反省会でのやり取りの合間に、著者による解説や座談会参加者たちの誤認への指摘、そして当時彼らの上司であったろう開戦時の陸軍主要メンバーたちへの皮肉や批判が述べられているからです。
座談会参加者たちはすでに全員この世を去っているということで、それを待って、と言っては何ですが、これを機に書籍化を決意したのではないか、というのは穿った見方でしょうか。
本書の特徴としては、三国同盟や南部仏印進駐、対英米開戦決意など歴史的なイベントに際して陸軍内がどのような状況だったのか、当事者たちがその生々しい状況を語っているという点が挙げられます。
座談会参加者はいずれも当時の佐官級の高級将校たちです。そのため配属していた各部署の内実が克明に語られています。例えば座談会参加者の杉田一次氏(参謀本部員(欧米課)/最終階級は大佐)がアメリカ出張を経て米国陸軍内が戦争を意識しだしてきた状況を上司に報告した時のドライな反応など、陸軍内の「雰囲気」を垣間見れる。これはなかなか他の書籍ではお目にかかれない情報です。
ただ、本書は以下の点を割り引いて読む必要があると思います。
一つは、座談会の発言をまとめたものなので、内容が整理されて記述されていないという点。そのため話の内容に脈絡がなかったり、質問に対してピントのズレた回答が行われたり、といった箇所が散見されます。しかしピントずれの回答がなかなか含蓄があったり、著者が個別に補足を差し込んでくれているので面白く読むことができます。
もう1つは、旧陸軍将校たちの座談会なので、陸軍びいきと思われる発言が散見されるという点。
これは致し方ないでしょう。自己弁護は人間の常です。本書では三国同盟の主導者は松岡洋右の一択で共通しています。しかし長引く日中戦争の調停役としてドイツに期待をした、という意味で陸軍内にも三国同盟を強力に主張した人間はいました。
私は『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)の著者である加藤陽子さんほど松岡びいきではありませんが、それでも松岡にも弁解の余地があると考えています。
また本書では対米戦を強硬に主張したのは海軍であり、陸軍はそれに引きずられた、という内容の論調です。その上で海軍に恨み節な個所も多々あります(ただ、これらも彼等からすれば真実なのでしょう)。
しかし上記内容であっても自身の置かれた当時の状況や、その胸の内を虚心坦懐に語っているからこそ本書の面白みが増しているとも思います。
個人的に対米開戦においては陸軍に少し同情しています(対中戦においては弁解の余地はありませんが)。
単純に考えて対米戦を主唱したのは陸軍ではありえません。陸軍が米国を干戈を交える場合、戦場はアジアにおける米国領フィリピンだけであり、軍事的に日本の大きな脅威ではありません。よって南進するにしても米国に宣戦布告する必要性はありません。
また実際に対米開戦で遂行された作戦(真珠湾攻撃)は海軍の作戦です。真珠湾攻撃ほどの決戦主義的作戦では人員、弾薬、その他膨大な軍事リソースを消費します。海軍が犬猿の仲の陸軍のためにそれらリソースの消費に承諾するわけがありません。なので対米開戦は海軍が「前のめり」でなければ実現しないのです。
本書では陸軍将校たちから見た海軍の「前のめり」の姿勢が垣間見れます。
私は、日本人は「その場の空気」に流されやすい民族だと考えています。だから歴史的決断においてはその時々の雰囲気を知ることが大切だと考えます。
本書は割り引いて考えなければならない部分は多いものの、当時の陸軍内がどのような雰囲気だったのかが当事者たちの口から語られているという点で貴重な資料だと思います。