あらすじ
「日産・ルノー提携」の特ダネを1999年にスクープして以来、カルロス・ゴーンを見つめてきたジャーナリストが、その栄光と墜落の軌跡、そして日産社内の権力闘争の実態をあますところなく描いた経済ノンフィクション。
倒産寸前まで追い込まれた日産にルノーから送り込まれたゴーンは、トップ就任からわずか1年半後、過去最高益を叩き出す。
だが、ゴーンには別の顔があった。寵愛する「チルドレン」で配下を固め、意見する者は容赦なく飛ばす。部下に責任を押しつけて更迭し、自分は地位にとどまった。
そして、私物化。ゴーンは私的に購入した金融商品がリーマンショックで18億円もの損失を出した際、一時的にそれを日産に付け替えた。約20億円もの報酬のうちの約半分を退任後に受け取ることにし、有価証券報告書には10億円分しか記載してこなかった。会社のカネで購入した豪華邸宅を私的に利用するなど、公私混同は枚挙に暇がない。
いったいなぜ、ゴーンは道を誤ってしまったのか?
ヒントは「歴史」にある。
日産は創業以来、ほぼ20年周期で大きな内紛を起こしてきた。そのつど、「独裁者」と呼ばれる権力者があらわれ、制御不能のモンスターと化した。その独裁者を排除するために新たな権力者を必要とし、新たな権力者がまたモンスターと化していった。
そうした構図が繰り返される背景には、日産が抱えるガバナンスの問題点、そして独裁者をのさばらせた側にも大きな責任があることが浮かび上がってくる。
企業ドキュメントとしての魅力もさることながら、人物ドラマとしても抜群に面白い。
フィクションをしのぐ驚愕の展開!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
自動車業界に詳しい上司から借りた一冊。思ったより面白い。ほんとに長年筆者が取材してきたのがわかる。
一言でいうと「今の日産では働きたくない」。
創業から今まで、内部抗争を繰り返してきた会社。ゴーンはその潮流の一例でしかない。
社内政治ばっか考えてほんとに大事なものづくりや技術をないがしろにして会社として大丈夫なのか。
ゴーンさんはハゲタカ的リストラクションは得意でも、サスティナブルな会社づくりには向いていない。有事と平時に向いているトップの気質は違うということの最たる例。
最後の章、「これからの自動車産業」が業界知識として面白かった。
中国やアメリカ、列強が国を賭けた戦略で攻めつつある自動車産業において、今まさにパラダイムシフトが起こりまくり。果たして日本のお家芸はどうなっていくのでしょうか。
Posted by ブクログ
【栄華と綻びと】「ゴーン・マジック」とも呼ばれた経営手腕で不振に喘いだ日産を立ち直らせた一方,2018・19年には金融商品取引法違反容疑等で逮捕されたカルロス・ゴーン。栄光と転落の両極端を味わった経営者は,日産とどのように関わり,同社に何を残していったのか……。著者は、1999年に日産とルノーの提携という特ダネをスクープした井上久男。
日産とゴーン氏に関するドキュメントとしても楽しめる作品ではありますが,何よりも本書の魅力は,日産という一つの企業を通して組織運営論までが提示されていること。ゴーン氏の逮捕についても日産の歴史を踏まえた上で解説がなされており,表層的にとどまらない理解に役立つと感じました。
〜クルマは社会を豊かにするものでなければならない……この発想が、ゴーン氏には決定的に欠けていたのではないか。多くの従業員に充実感を与え、生産拠点がある地域を潤わせ、ユーザーを楽しませるという視点がなかったのではないか。片山氏の言葉を借りれば、ゴーン氏はおカネをつくることが得意な経営者だった。〜
高評価が相次ぐのも宜なるかな☆5つ
Posted by ブクログ
財務の建て直しと大規模グローバル企業の安定維持はまったく別のスキルなのだと分かった。経営というのも色々要素あるので、プロ経営者というのもまるっとさせすぎなのだなと。
Posted by ブクログ
今となっては、だってゴーンだもの、ですべてが片付けられてしまう風潮。
荷物に隠れて逃亡しちゃうようなやつだもの、でおしまい。
でも、そんなゴーンに頼るほか無かったのも、そんなゴーンでリバイバルしたのも、日産。
晩節を汚す羽目になった遠因には、日産の社風のどうしようもなさもあったのでしょうとしか言えなくなる。
川又・石原・塩路・ゴーン・西川、次から次に生まれては蹴落とされる「天皇」。
そうこうしているうちに、仏・チャイナに技術を根こそぎ持っていかれて終わるぞ、と。
日本のだめな部分を凝縮させたような企業で悲しい。
Posted by ブクログ
2018年11月、日産自動車のトップ、カルロス・ゴーン逮捕。それはゴーンの部下である日産幹部たちのクーデターだった。そして、ゴーン氏による日産の私物化が明るみになる。
当時の日産とゴーン氏の不祥事ニュースに驚いた記憶がある。が、著者の取材によれば、すでにゴーン氏は経営に興味を持たず、私腹を肥やすことに専念していたようであり、それは日産内部で周知の事実だったようだ。
本書は、ゴーン氏の日産をV字回復させた手腕の評価よりも、彼の裏の顔を暴くことに注力。さらに、ゴーン失脚を計画した中心人物、西川廣人氏への評価はゴーン氏よりひどい。まるで彼がゴーン氏と同じように失脚することを予言しているかのよう。
結局、どうして日産とゴーン氏がこうなってしまったのか。ゴーン氏は倒産寸前の会社に乗り込み、リストラを中心とするコストカット経営についての能力はあるが、その後の安定かつ長期的な経営をできるタイプではなかった。そんな彼が20年もトップに君臨したことが、ゴーン氏にとっても日産にとっても不幸なことだった。「日産vsゴーン」とは組織トップの交代の難しさを知るモデルケースにも当てはまる。
Posted by ブクログ
そもそも日産てのはこんな会社だったのかって感じ。
権力闘争に明け暮れて、外資導入せずにいられず。
やって来たのは短期業績回復請負のコストカッター。
それでV字回復したのは良いけど、要は、カンフル剤を栄養剤と間違えた。
長期安定経営は無理だった。
んで、本人が、名誉は金で買うものだという信念のお方だった。そこの仏政権の思惑とか色々絡んで来てるわけだが。
おんぶ抱っこで来たくせに、クーデターは良いが、自分たちで出来もせず、国家権力に頼った。
そんな図式ですか。
この後楽器ケースで海外逃亡したおじさんの話はまだないわけだけど、つまり、そんな道化の果てに日本が失うものは国益なのか、あるいは、「正しい」司法を手に入れるのか。
NOTE買わなくて、本当に良かったよ。
Posted by ブクログ
昨日も新しい弁護団の組成のことがニュースになっていて、どんな裁判になるんだろう?と全く見えない中で開いた新書です。朝日新聞で日産を長年担当してきた記者ならではのインサイドストーリー。失われた20年の中でカリスマとなった経営者カルロス・ゴーンの功罪を時期に別けて生々しく描いていきます。倒産するかもしれない日産の再建に力を発揮した最初と、カリスマ化した後、私欲に落ちていく過程を別々に評価しているのが、なるほど…でした。人って100%正しい、とか100%間違っているとか言えない、という当たり前の定理を感じました。また、彼の暴走を追従、黙認した西川社長を始めとする現・経営陣に対する断罪もなされています。さらには、日産という創業者、創業家が会社を去ったサラリーマン企業のクーデターの歴史も描いていて、今回の事件の要因に、その下克上体質をあげています。まったく持って人間の欲と嫉妬が織りなすシェイクスピアの戯曲のような一大絵巻。親を葬ろうとするゴーンチルドレンの物語は、日産vsゴーンではなく、日本vsフランスという戦いの中で、道化的なものになるような予感。まだ、最終幕にも差し掛かっていません。