【感想・ネタバレ】ゼウスガーデン衰亡史のレビュー

あらすじ

これはSFなのだろうか、歴史のパロディなのだろうか。
90年にわたるテーマパークの歴史の物語なのである。
双子の天才的な若者によって創設された[下高井戸オリンピック村]は奇抜なアイディアのアトラクションが人気を呼び、次第に大きなものとなっていく。
組織としての基礎も固まった時に双子は突然その才能を失い、その上、異常な科学者によって連れ去られてしまう。
残された幹部たちは集団指導体制で組織を運営することになる。
様々な才能が現れ、以前にもまして巨大で、奇抜で、危険で、グロテスクなアトラクションやモニュメントが次々と作られ、[村]は[ゼウスガーデン]と名称を変え巨大化する。
果ては国家をも超える存在にまで成長する。
反面、内部の抗争は激しくなり、腐っていくことになる。
元老院だ、執行部だ、皇帝派だと、さまざまな勢力が構想を繰り返す。そして次第に衰退をしていく。
1984年に兄弟によって作られたテーマパークは2075年内部から派生したテロ組織によって壊滅させられ、そのご細々と営業は続けられるが2089年過激派グループによって徹底的に破壊され、その歴史を閉じることになった。

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Posted by ブクログ

 20数年ぶりに再読した本。


 ロス五輪が開催された年、華やぎとは縁のない下高井戸の地にうらぶれた遊技場がオープンした。メインアトラクションはペンキの剥げた錆だらけの回転木馬。他の施設も倒産した地方の遊園地の不要品ばかり。客は全く入らない。好景気に湧き、バブルへと世の中が絶頂へ向かおうとしているときに、ひっそりと産声をあげたこの廃墟のような遊技場。しかし、この遊技場こそ、後に日本中を狂乱の渦に巻き込み、内乱へと導いたゼウスガーデンの前身だった。


 子供の夢を形にした遊園地は数あれど、大人の欲望を実現させる遊園地はかつてなかった。プリンセスになりたいとか、ヒーローになりたい、なんて夢は長ずれば覚める。そんな夢をテーマにするのは三流だ。ジャンヌ・ダルクになりたいとか、チェーザレボルジアになりたいとかの夢をかなえることができる場所、それがゼウスガーデンだ。


 ヒーロー体験もできれば、臨死体験もできる。疑似恋愛もできるし、疑似心中もできる。創造主になって数々の奇蹟を起こす体験もできれば、ゾンビになって人を食べることもできるし、ゾンビに食べられる体験もできる。際限のない人間の欲望をすべてを飲み込み巨大化するゼウスガーデン。


 地方の弱小遊技場を次々とその配下におさめ版図拡大する。その予算規模はアフリカや中南米の小国の国家予算を凌駕し、遂には日本国からも自治権を獲得する。その中枢で各地方の運営方針を決定する機関が元老院だ。元老院は僭主の登場を拒否する。ゼウスガーデンはあくまで共和制下での発展を目指した。しかし肥大化した組織には必ず腐敗が蔓延る。各派閥の抗争、地域間の主導権争い。硬直化した元老院体制では事態を打開できない。そして遂に皇帝が誕生する。はたしてその栄枯盛衰の結末やいかに。


 はまる人にはドツボにはまる圧巻の500ページ。

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2017年08月15日

Posted by ブクログ

これは、是非みなさんに読んで欲しい本です。 小林恭二氏は小説の人ではないのですが、この一発だけでもう充分に小説のお仕事を果たしました。はい

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

壮大な法螺話。500ページあるが、すいすい読める。アトラクション・イベントの紹介という形をとりながら、著者の奇想を次々と披瀝しつつ、「快楽」について哲学する。比較するのは適当でないかもしれないが、乱歩の『パノラマ島奇談』を思い出した。『ゼウスガーデン』の方がクールだが、『パノラマ島』の方がねっとりして印象的だ。それぞれの作品が背景としている時代が違うからだろうが。

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2012年03月06日

Posted by ブクログ

東京・下高井戸に造られた、
アミューズメントパークを巡る、
皮肉で壮大な偽歴史物語。

大人向けの快楽を追求したアトラクションは、兎に角振り切れている。
自分の顔がどんどん変形して、自殺や同性愛を体験できるアトラクションや、巧妙な心理作戦によって、最後は発狂するまで追い詰められるホラーアトラクション
個性豊かでニヒル、あるいは芸術に取り憑かれたアトラクションデザイナーたちが生まれ、アトラクションを生み出し、スターになり、時代を彩る。
私利私欲にまみれた政治家たちが危うげにそれらを運営する。
その中にも、時折カリスマや覇者が現れ、パワーバランスが変化する。

まさに民主主義の成り立ちの経緯と、衰亡を、アミューズメントパークという、エンターテイメントでキッチュな舞台で描くという究極の皮肉。

そんな狂った世界で起きるエピソードは、あまりにもリアル。
今この瞬間にも社会や地域のコミュニティや、友人知人、TVのニュースの中などで、頻繁に目にするような、ごくありふれた出来事ばかり。
(それは、政治的なことから、恋愛に至ることまで)。
なのに、現実の日本とは似ても似つかない「日本」がこの本の中に存在する。
壮大で、イテリジェンスで、大真面目なブラックジョークを、延々と聞いたような気分。

ちょっと長い。

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2012年08月21日

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