【感想・ネタバレ】吃音の世界のレビュー

あらすじ

吃音は、最初の語を繰り返す「連発」(ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは)と、最初の言葉を引き伸ばす「伸発」(ぼーーーくは)と、言葉が強制的に発話阻害される「難発」(………ぼくは)の三種類がある。吃音症の人は100人に1人の割合で存在し、日本では約120万人、世界では約7000万人いると言われているが、近年、時代の変化の中で吃音者をめぐる状況にも変化が生じている。幼少期から吃音に悩み苦しんできた医師が綴る「吃音の世界」とは。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

小説じゃなくて、新書を読んで感動して泣いたのは初めてかもしれない。興味深く、心を揺さぶられながら、二時間ほどで一気読みしてしまった。
文学好きな人なら吃音になんとなく興味を持っている人は多いのではないかと思う。私はもちろん、村上春樹の「ノルウェーの森」に出てくる突撃隊で興味を持ち、小島信夫の吃音学院も読んだ。
この本、タイトルからして「吃音」には「世界」があると思わされて良い。著者ご本人の体験から始まって、吃音のある人がどのように苦労しているか、親がどんなに悩むものか共感できる。どんな言語でも世界中に1%程度吃音の人がいるというのも興味深いデータだ。原因や治療法など、これまでの国内外の研究や治療の歴史も紹介してある。日本で「どもっている人を真似しているうちにうつる」とか、「親の接し方の問題」とか、「吃音を指摘することで意識してしまい、余計にひどくなる」というような認識が一般的だが間違っていることも指摘。
4章では、著者ご自身の外来に来られた幼児から大人までの事例を紹介。どんな小さな子供にも、「きみが言葉に詰まってしまうのは、”きつおん”というんだよ」と優しく説明し、「意識させない」ではなく、はっきりと意識をさせ、からかわれたり、真似されたりしたらいやだよね、と共感し、時には学校の担任の先生宛に配慮を促す診断書を書く。成人男性で、会社を解雇されそうになっているという切羽詰まった状態の方に対しては、障がい者手帳を取得する手続きを取るなど親身になって”医師”としてできることをする。学校現場に関わる場合はいじめに関する法律、解雇をめぐる問題では障碍者福祉に関する法律など、法律についても勉強されて対処されている。
悩んでいるお母さんとのやり取りのくだりで涙が出ました。
ご自身が吃音で悩まれた経験から、「医師になって耳鼻咽喉科を専攻すれば吃音についてなにかわかるのではないか」という純粋な思いで努力され、そのような研究・医療が現時点でないという事実に直面してもあきらめず、同じ悩みを抱える人達に寄りそって臨床を続けてこられた。とても尊敬します。
私は教職に携わっているが、入学時に緘黙や吃音、その他身体的な特徴や、糖尿(注射や捕食が必要)やアトピーなどの持病を抱え、周りからの誤解やからかいを心配して事前に相談される例は数多い。そんなとき、入学時にカミングアウトして周りから理解を得ておくべきだ」と私自身は考えるのだが、ほぼ100%、隠しておきたい、周りには言わないで欲しいと言われる。保護者がそのように要望されれば、教員が無理にカミングアウトを勧めることはできない。でも、本書を読んで、私ももっといろいろなことを勉強し、上手にカミングアウトできる方向にもって行くか、そうでなくても周りの子どもの理解を得られるようにしなければ、と思った。なによりも、吃音に限らずいろいろな不安を抱える子供たちそれぞれに対して、自分ではどうしようもないことを「もっと努力しなさい」とか「それじゃだめ」というようなメッセージを与えず、自分に自信をもって好きなことを頑張れたり、出来ないことや苦手なことがあっても自分が好きだと思えるように接していきたい。
吃音をテーマにしながら、人としての成長や、これからのバリアフリー社会のあり方についても考えさせられる素晴らしい内容でした。

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2021年05月16日

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