【感想・ネタバレ】トランプのアメリカに住むのレビュー

あらすじ

ハーバード大学客員教授として一年間、ライシャワー日本研究所に滞在した著者が、この社会を中心近くの崖っぷちから観察した記録。非日常が日常化した異様な政権下、この国が抱える深い暗部とそれに対抗する人々の動きをリアルタイムで追う。黄昏の「アメリカの世紀」とその未来について考察する、『世界』好評連載の書籍化。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

著者がハーバード大学で教えるためにアメリカはマサチューセッツ州ケンブリッジに滞在した、2017年9月から2018年7月までの間の滞在記である。時はトランプ大統領の就任1年目から2年目にあたる。当初の滞在目的は「あくまでハーバードの教育システムを内部に入り、それがどのように廻っているかを体験」することであったが、トランプ政権誕生で事情が変わった。この書もハーバードの教育システムにも触れるが、アメリカで次々と発生した「ポスト真実」「ラストベルト」「人種差別」「セクハラ」「銃乱射」といった問題に向き合い、アメリカの今を映し出すルポとなっている。
興味深かったのは、ハーバード大学を扱った第3章、ラストベルトを扱った第5章、北朝鮮問題を扱った第6章。
まずはハーバード大学の事情を知り、大学制度が日米でここまで違うのかと思い知らされた。大学システムが根本的に異なる。日本の大学はやはり肩書き重視で、有名大学に入学し、無事に単位を取り終えることが肝要となっている。片やアメリカでは何をどのように学ぶのかが追求されている。日本のように満遍なく学ぶことより、選考した授業をどこまでも深く学ぶことが求められている。
大学の優れたシステムとは対照的に白人労働者階級の生活は荒廃している。著者自身が日本の郵便局から船便で送った書物が見るも無惨な形で手もとに届く(実際には半分以上行方不明)。アメリカの公共システムが崩壊していることを如実に示している。90年代の人気テレビ番組「ロザンヌ」が復活して大人気である(その後あっけなく放送打ち切りとなるのだが)。主人公ロザンヌはトランプ支持を公言して憚らない。その姿に視聴者は何を見ているのだろうか。白人労働者階級が不動産で巨大の富を積み上げたトランプを支持する捻れの謎を問いかけている。
第6章では、ヘレン・ミアーズの「アメリカの鏡・日本」を引用しつつ太平洋戦争前の日本とアメリカがともに相手への憎悪を掻き立て、相手を「世界の脅威」とみなしていく姿を見て、両者が合わせ鏡のようであったことを見る。そして戦後日本は高度経済成長の中でずっとアメリカの背中を追ってきた。それに対して北朝鮮といえば、休戦協定は結ばれても未だ平和条約が結ばれていない状態が続いていて、「核攻撃を含むあらゆる事態を想定し」て核開発を進めている。しかしその一方で金正恩はNBAの大ファンであり、その父金正日はハリウッド映画がお気に入りであった。「核」と「ソフトアワー」は現代世界におけるアメリカの力の二つの源泉である。その二つの源泉を追いかける北朝鮮にはアメリカと敵対し憎悪しながらも、アメリカに憧憬を抱く姿がある。北東アジアの国々とアメリカの関係はこの後どのように変遷していくのだろうか。

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2018年11月04日

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