【感想・ネタバレ】自殺論のレビュー

あらすじ

自殺は個人的気質の結果か、それとも社会的事実か?

十九世紀ヨーロッパにおける自殺率の統計を仔細に分析し、自殺を「自己本位的」「集団本位的」「アノミー的」「宿命的」の四タイプに分類。
生の意味喪失や疎外感など、現代社会における個人存在の危機をいち早く指摘した、近代社会学の礎となる古典的名著の完訳。

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Posted by ブクログ

何事も自明とせず、あらゆる観点から分析命題を立てて、統計を駆使して解明していく緻密さ、社会の集合的傾向を安易に個人の価値観や精神論に帰さず実在するモノと同等に捉えて科学的に追究する姿勢など、近代社会学の古典としての偉大さを感じる内容。
それに加えて、解説で言われている、
「近代社会における個人の存在条件とこれをめぐる道徳意識の変化にかんする透徹した認識」「統合的個人の存立の危機の諸相についての指摘」「危機にある近代社会の再組織化にむけての情熱をこめた訴え」、さらに加えて細かくは、宗教の個人にとっての意義・影響とその変遷、女性の社会進出や男女平等に関する先見性のある将来展望など、幅広い観点で著者の深い見識に触れることができ、非常に読み応えのある圧巻の内容。

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2025年09月15日

Posted by ブクログ

初版から40年も経過した書物に、これほど現代に通ずる普遍的な事実の気づきや共感が得られると思っていなかった。データという事実をベースに、起こりうる事象を満遍なく回収し思考することで、読者の疑問を払拭しながら、自殺を①自己本位的自殺②集団本位的自殺③アノミー的自殺の3種類に見事に分類していた。(背表紙では④宿命的自殺も含めていたが、本書からは読み取れず。)


正直、回りくどい言い回しや難しい表現も多く、読み解けていない部分も存在していると思う。しかし、個人と社会(家族、戦争、宗教、政治、同業組合などに絡めて)の関係性がもたらす自殺への結末を、宗教、哲学、道徳的な要素と一緒に考えることができたのは、興味深いところであった。
これからの社会や死に対する視点が2つも3つも変わると感じさせる学問であった。

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2025年01月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

社会科学の原点のような本で、自殺率の高い国と低い国の違いは一体何なのかを解明していく本。

結論から言ってしまうと「宗教の違い」で同じキリスト教でも自己責任論の強いプロテスタントのほうがカトリックよりも自殺率が高い傾向があるとのこと。

自殺率と宗教には強い相関性があって自殺を明確に禁じるイスラム教は低く、無宗教が最も高いというデータもあるそう…

日本は閉鎖的な社会だから自殺率が高いんだ!と言われますが原因はそこだけじゃなくて日本人の宗教観の薄さにもあるのもしれませんね…

とても面白かったです! 

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2021年11月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自殺って何なんだろうと、この度、読むことにした。


19世紀末のヨーロッパに増加した自殺について、社会現象として各国各都市のデータをもとに、考察している。
なんで昼間に自殺が多い?なんで都市に多い?なんでプロテスタント教徒に多い?なんで離婚した男性に多い?殺人との関係から言えることは?

120年以上前のヨーロッパなんて、全然違う社会だと思っていたけれど、今の状況についての説明ともなる部分が多く、興味深かった。自殺、という行為が、人間の生と死という時代や文化を超えた普遍的なものであるからでもあると思った。これまでの人間社会の中で「自殺」の持つ社会における意味や価値がどのように変化してきたか、という点にも触れられている。つまり、社会が近代化するにつれて、個人主義が広まり、一人ひとりの人格の尊重という観点から人の命は終わらせられるべきでない、という議論になる。

一方、(私の理解では)より多くの人びとは、社会とのつながりが薄れ、生きる意味を見出しにくくなる、あるいは、縛りの無い自由を前に逆に現実と理想のギャップや周りとの相対的剥奪感や恨みを募らせることから自殺が起こりやすくなっているという。これは今にもつながるところがあると思った。

そして、デュルケームさんが自殺の研究をしている当時、日本は近代化が始まったところ。日本は19世紀末の時代から、「自殺」が大きく変化を遂げ、また今の状況にいたっている、そんな国であると知り、私たちが考えるべき重要なテーマだと改めて感じた。

また今、産業革命後の社会が世界的な危機に直面している。今、人が自分の生を断つという行為は何を意味するのか、それは今私たちはどのような社会に生きているのか、ということ。他人事ではなく考えるきっかけにしたい。

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2020年08月01日

Posted by ブクログ

19世紀末に書かれた社会学の教科書的存在。今ならこのレベルの統計分析を用いての論文は大学生でも書き上げられるような気もするが、その時代に手法として確立させ、実証に基づく今日の社会学の基礎を築いた功績は大きい。

本書は社会構造的に〝必ず一定の自殺者が存在する“という点に着目し、自殺の定義から、死に方、性別、年齢、時期、宗教、エリアや職業による違い、犯罪との相関や文化的背景など多様な分析を試みて、社会現象としての自殺を明らかにすると同時に、自殺を通して社会を明らかにした。

自殺をすれば、当然ながらその人は社会から消える。しかし、また違う個人が同じように自殺する事で、同じ社会の同じ属性であれば、ほぼ似たような人数が毎年自死していく事が分かる。8対2の役割が固定されるという、働きアリやパレートの法則みたいだ。日本では年間2万から3万人の自殺者。90年代末のアジア通貨危機やその影響も受けての証券会社や銀行の倒産、非正規雇用や失業率の増加が自殺を増やした。斯様に、自殺から、社会状況が覗き見える。

またデュルケームの論説からデータはある程度事実を示せるが、その要因は個人の主観を含む推論に頼らざるを得ない、という事も分かる。ミステリーの犯人でもなく古典ゆえネタバレとは言わないと思うが、ここでその結論を具に書くのは避ける。一例だけ挙げれば、女性の自殺率の低さを社会参加の低さと結び付けて解説しているが、今の日本の女性就業率との相関を見ればこれは当てはまらない。女性差別的な口ぶりも気になる所。

アノミー的とも言っているが、言わば、社会的紐帯から切り離された時に「死の決意」は強まる。離婚、破産、リストラ、希望の挫折、貧困などが主因となり、これらと同じ状況に直面した時、人はふつう同じようなことを考えるものである。今後、果たして、質感なきネットの紐帯やAIとの交流は自殺率にどう影響するだろうか。

ちなみに、離婚をすると男性の自殺は増えるが、女性は逆に減るらしい。これを見て『自殺論』を読みながらニヤける私は、既にアノミー状態なのかも知れない。一方、これを年末年始の集まりに持ち歩きニヤニヤするくらいの社会との繋がりもあり、案外たくましいのだ。

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2025年01月03日

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