あらすじ
都市の繁栄の陰で荒廃する農村。農業だけでは暮らせない人々が出稼ぎにゆき、ほとんど帰らない。老人は残された孫の世話で疲弊し学校教育も衰退した。子供は勉強に将来の展望をみない。わずかな現金収入を求めて出稼ぎに出る日を心待ちにする。著者は故郷の農村に帰り、胸がしめ付けられるような衰退ぶりを綴った。孤絶した留守児童が老婆を殺害強姦。夢はこの世で最も悪いものと自嘲する幼馴染。夫の長期出稼ぎ中に精神を病む妻。「農村が民族の厄介者となり…病理の代名詞となったのはいつからだろう」。希望はないのか。著者は農村社会の伝統にその芽をみる。底辺の声なき人々の声を書きとめようとする知識人のジレンマに、著者も直面する。しかし敢えて自分に最も近い対象を選び、書くことの困難にうろたえる自身の姿を読者に隠さない。こうして紡がれた語りに、農民も都会人も没頭した。第11回華語文学伝媒大賞「年度散文家」賞、2010年度人民文学賞、2010年度新京報文学類好書、第7回文津図書賞、2013年度中国好書受賞。
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Posted by ブクログ
中国の農村の現状。若い両親は出稼ぎに出て正月の十数日しか戻らず、祖父母が子供たちをみている。以前は大学に行こうという希望もあったが、近年は大学に行っても良い仕事があるわけでもなく、子供たちは向学心を失いネットやゲームに興じている。十数歳になれば親同様に出稼ぎに行けばいいと思っていると。かつて村人が希望を込めて建設した村の小学校も、費用負担を嫌って廃校になってしまっていた。
邦訳にあたって割愛された部分があると、訳者の後書きにあったが、どういう内容が割愛されたのだろうか。
Posted by ブクログ
「忘れられた日本人」という名著があるが、これはまさに「忘れられた中国人」(そうしたタイトルの小見出しもある)。我々のイメージする中国と重なりながらも全く異なる農村の実相を著者自身の故郷を通して濃厚に描く。風景描写や日本語訳も秀逸。
Posted by ブクログ
とても良い本だ。
中国の農村の近代化におけるジレンマが炙り出される。
作家による定性的調査の基づく論なので、わかりやすく説得力があり、無茶な結び付けもない。
しかし同じアジアだからか、もしくは日本文化は中国の影響を多分に受けているからか、登場人物がインタビューで語る思いは、アメリカの文化や精神を語るものを読むよりも、すんなり理解できた。