【感想・ネタバレ】夏空白花のレビュー

あらすじ

敗戦翌日。誰もが呆然とする中、朝日新聞社に乗り込んできた男がいた。今こそ、未来の若者のために「高校野球大会」を復活させなければいけない、と言う。 ボールもない、球場もない、それでも、再び甲子園で野球がしたい。己のために。戦争で亡くなった仲間のために。 「会社と自分の生き残り」という不純な動機で動いていた記者の神住は全国を奔走するが、そこに立ちふさがったのは、GHQの強固な拒絶だった……。

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Posted by ブクログ

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戦争による高校野球の中止。終戦後に再開させたくてもなかなか目処が立たないなかなんとしてもという決意のもと動き出す神住。野球に対する強い想いと元球児としての願い。GHQの壁。困難なことがたくさんある中で日本の復興のひとつのシンボルとして野球を、それも高校野球の復活。アメリカ側とのやりとりで見えてくる日本のこれまでとこれから。野球とベースボールの違い。戦争の悲惨さと立ち直ることの難しさ、全てを受け入れて進むこと。その大変さ、苦悩、悲しみがある。だけど野球に願いを乗せて、球児に未来を見て、そしてタイトルの意味がわかるラストにある希望。とても素晴らしい物語。

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2018年08月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

戦後間もなく、疲弊した日本の若者たちのために高校野球を復活させようと奔走した、朝日新聞記者の物語です。
正直最初はこの作品中の多くの人々と同じく、「なんでこの大変な時期に野球なんぞ…」と私も思ってしまいました。
食糧難で生きるだけでも必死なのに、球投げて打って遊んでるんじゃない!と、当時の母親の気持ちになってしまった。
でもそんな批判を受けつつも必死で走り続けた神住の努力と、戦後1年で復活した球児たちの誇り高い美しさには涙が止まりませんでした。
どんな状況でも夢や希望は何ものにも代え難い宝なのでした。

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2019年06月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著者作品は3作目。
 ドイツが好きで、ヨーロッパの近現代史が得意分野と思っていたが、高校野球を題材にしたものもあるのも知っていた。その著者が、2018年夏、高校野球100回大会の節目に世に送り出したのが本書。

 大戦後1年で復活を果たした高校野球。その史実を基に、その復活までの尽力を、朝日新聞社運動部の一記者神住を軸に描く。
 舞台は、1945年夏の大阪、物語はあの玉音放送から始まる。それまでの正義、価値観がひっくり返り、食うや食わずの焼け野原の中、敗戦翌日からストーリーは動き出す。
 物質的な困難は容易に想像つくが、GHQの存在、文部省との綱引きなど、周辺には多くの障害があったことを、ひとつひとつ丹念に描いている。そのあたりは、さすが歴史もの作家という筆致だ。読みやすい。

 予想外だったのは、野球の普及には、当然、それを国技とするアメリカの強力な後押しがあったからと思っていたが、大リーガーに代表されるプロが魅せる“ベースボール”と、なぜか、当時は六大学に代表される学生のゲームが人気を博していた“野球”との違いに、アメリカ側=GHQが異を唱えていたという点。
 職業野球は読売グループが東京を中心に動いており、六大学野球もまた別の動きをしている中、関西では甲子園球場での高校野球の再開に向け、朝日新聞が奮闘する絵図が面白い。思いもよらない障害が、内外の要因で錯綜する。

 歴史的事実も実に興味深いのだが、そのような史実の後追いだけではないのが、この著者の巧いところ。主人公の神住を、かつて夢破れたの高校球児とし、さらには沢村栄治の同世代に設定した。熱狂する甲子園、それに翻弄される若者の夢、挫折の心情にも触れる。さらには戦争で徴兵される無念を沢村の人生に象徴させる。
 また記者の立場として、地方を巡り当時の日本の敗戦直後の実情を描き出し、同僚たちの会話から、記者魂の他、マスメディアのあるべき立場、世間に対する責任までを論じようとする、実に欲張りな内容になっている。戦中、“紙の爆弾”(=大政翼賛の新聞記事のことだ)を放ち続けた新聞、その中に居た人間たちの生身の苦悶が生々しく描かれている。
 史実部分より、実は、そうした同僚、先輩記者、カメラマンとの熱い会話が読み応えあったりする。さらには、妻美子が神住に放つ言葉は夢ばかり求めがちな男どもへの痛烈な警鐘に聞こえた。

「あんな、動機なんてどうでもええねん。言うとくけどな、調子乗っっとった男は、なんやうまくいかへんなった途端に、すぐ行動理念やの何やのと目に見えんこと言い出すけどな、そうなったらまずろくなことにならへんからな。戦争がええ例や。あんたらすぐ、精神論に走って目的見失って迷走して取り返しのつかんへんことになるやんか」

 占領軍のアメリカ側とに芽生える不思議な友情も見ものだ。“キベイ”という存在も本書で初めて知った。「イッセイ」でも「ニセイ」でもない「キベイ」。多くの英語辞典に“kebei”という単語として掲載されている特別な意味をもった言葉。その運命を背負った一人の男が、学生野球の存在を良しとしないアメリカ側を説得する切り札として登場する意外性と、フィクション部分ではあろうが、アメリカ軍vs日本軍で合いまみえるテストマッチの清々しさ。 野球世代には響くものがある、実に読み応えがあった。なのに、平易な文章で読みやすいんだなぁ、これが。

 あと巧いと思ったのは、タバコの使い方。昭和の記者は、ぜったいヘビースモーカーだったろうなというのがよく分かる。時代感を出す小道具としてタバコが活きている。また「朝日」という銘柄のタバコがあったのを上手に使っている点にもニヤりとさせられる。
 細部にまで配慮の行き届いた、なかなかニクイ作品。

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2019年02月09日

Posted by ブクログ

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毎年当たり前のように観ている"甲子園"。そこには敗戦の後、たった1年で復活させるのに幾多の苦労や苦難があったのだと、この作品を読んで思い知らされました。当時甲子園がアメリカ軍に接収されていたなんて初めて知りました。そんな当時の事実を背景に、実在した選手も絡め、フィクションの小説にしている須賀しのぶさんの作品は本当に面白い。以前読んだ「また、桜の国で」と同じように、海を越えて探している人がいて、そのオチが最高に面白かった!
須賀さんの作品、他にも読んでみたいなって思いました。

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2020年04月14日

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