【感想・ネタバレ】虚航船団(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

摩訶不思議。滅茶苦茶やん。
そう思って、はじめの方は読み進めた。
さすが奇書と言われるだけある。
小説界のラーメン二郎と誰かが書いていたが、言い得て妙。それくらい濃厚。

心して読んで欲しい。
単なる読書ではなく、筒井康隆への挑戦となる。

執筆に6年をかけたらしく、終盤では他の創作の依頼は断ったらしい。筒井康隆の集大成的作品とも言われている。

ーーーあらすじと感想ーーー

第一章 文房具

宇宙船団の中のひとつに、山ほど文房具が乗っている文房具船があり、文房具たちは全員どこか狂っている。そしてP20までに大学ノートは死に、ダブルクリップが自殺する。

は?

自分は大事だと思うところや物語のキーになっているところに線を引きながら読むタイプだが、この本に関しては、見返してみると自分でも何故そこに線を引いたのか全くわからない。

少しだけ登場人物(文房具)とその性格を紹介すると

自意識過剰なコンパス
性欲が抑えきれない糊
誰彼構わず喧嘩して殴られるホチキス
精神崩壊を起こしている輪ゴム
自分を天皇と思っている消しゴム
初老ナルシストの下敷き
大作家である三角定規兄弟の兄
兄への嫉妬に狂う三角定規兄弟の弟。などなど。

文房具たちは、どこまで行くのか、いつ帰れるのかも分からない宇宙航海のせいで、一人残らずみな気が狂っていると書かれている。閉鎖的な文具船の中ではそれが増幅され、結果として狂っていることが正常という逆転現象さえ起こっている。

なんとか航海を続けていたが、ある時中央船団から『惑星クォールの全住民殲滅』の指令が届く。

第二章 鼬族十種

惑星クォールの歴史物語。これがまた重厚で、二章だけで世界史の教科書を読破した気分になる。参考書を読む時のように何度も何度も、前ページの地図や家系図を見直すことになる。

惑星クォールに住んでいるのは流刑されてきた鼬族の子孫で、原始的な状態から文明社会を築き上げていた。核兵器すら開発する。

血塗られた歴史は世界大戦へと行きつき、最終的には核戦争が起こってしまう。それはちょうど文房具船が住民殲滅に来襲したのと時を同じくしていた。

第三章 神話

文房具対鼬の戦争。
目線が何度も切り替わり、空間や時系列の移動も激しいのだが、読み応え抜群。バトル小説。
第1章、第2章を読み終えたご褒美だとも感じた。面白い。

そして賛否両論を引き起こした箇所が出てくる。僕は映画『大日本人』を思い出した。面白い人はここに行き着くのかとおもった。

最後のセリフも最高だった。

筒井さん曰く
「第一章でまず、SF嫌いと、主人公にしか感情移入できぬレベルの者と、物語の展開だけを求めて小説を読む読者が疎外される」

「第二章で、人間がひとりも登場しないことがはっきりし、人間以外の者に感情移入できないレベルの読者が排除される」

「第三章で、通常のエンターテインメントの如く漫然と読んでいても筋は追えるとたかをくくった読者は作品から拒否されてしまう。あたり前だ。そんなに気軽に消費されてたまるか」

0
2023年11月08日

ネタバレ 購入済み

不思議と引き込まれる怪作

知人からの推薦で購読。夢中で読み進めた。

「読めるんなら読んで見ろ」と威嚇されたような初印象。
実際に読みづらい。しかし、引き込まれる奇妙なテンポがある。
作者の文章力か自分が波長があったのが良かったか、両方か。
三章は特に読みづらいながらも、視点などが切り替わる前後が支離滅裂とは思えないし、前者が大きいだろう。
作者の自己主張も同様に直前の展開、作者の自己投影物である文房具の軌道と象徴の反芻も兼ねている。
一方でこれは賛否両論と言われれば確かに納得である。

一章、二章とカリカチュアに笑い、あるいはヒヤリとしていると
三章で耳元にまで接近された作者に息を吹きかけられたような思いをした。恐ろしい。
全三章を通して虚構と現実の心理的距離を縮める、明確な誘導レールが引かれており、
読者へ拳をたたき込みたい魂胆を感じる。
三章の作者要素は蛇足という声も分るが、文房具たちの弔いも兼ねた現実への重ね合わせの総仕上げであり、
無いと雰囲気から別物になってしまうだろう。
文房具という身近な道具をチョイスしたのも的確である。

印象的なシーンは、人生の虚無感の両極と言える日付スタンプとナンバリングの結末。
一瞬にして映画的な鮮やかさが目に浮かぶ。その直前の鋏の酔生夢死、「真理」を知った画鋲の狼狽といい、笑えない。
あの集団において優しすぎた紙の楮先生の、予想外に非暴力で、それ故に限りなく残酷な最期!
そして彼の儚い願いを目にした上でのラストシーン!
冒頭で自己に苦しみ泣いていたコンパスが、しかし無言で次世代を残して去り、
後には何に繋がるかも描かれない夢がその次世代から生まれる。美しすぎる。

#切ない #ドロドロ #ダーク

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2021年05月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【1章】文房具が、自らの使用用途(ひとつの役割)に拘るあまり、おかしくなってゆく…僕らと同じね。【2章】鼬の文明史。自前の毛皮があるため毛織物業が発展せず、産業革命が興らないという設定は巧い!【3章】物語のラスト。コンパスイタチは「これから夢を見る」という。彼は、戦争描写で埋め尽くされ、閉じられてゆく物語の中で、自分の内側にあらたな虚構(夢)を建立しようとしている。完全にあきらめられた世界の中で見る夢は、明るい未来か?SF的な危険予知夢か?世界を虚構化(解釈して認識)し、切り開いてゆく営みは、この先もまだまだ続く。

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2014年06月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

宇宙を彷徨う文房具の乗った宇宙船、長旅に文房具たちは気が狂っている。そんな文房具たちが、イタチ文明の発達した惑星を侵略するという話。

気が狂った文房具も、侵略戦争を繰り返しながら発展していくイタチたちも、人間への皮肉なんでしょうね。

三部構成。二部は罠ですが、三部はもっと罠です。
筒井康隆御大にしか書けない名作。

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2012年01月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

豊穣で過剰な文学的冒険。文房具の物語が単体で面白すぎて、終盤のメタ化が蛇足とも、逆に外せないとも思える。どうあれ面白いんだけど。

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2011年04月05日

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