【感想・ネタバレ】ベニヤ舟の特攻兵 8・6広島、陸軍秘密部隊レの救援作戦のレビュー

あらすじ

秘密部隊の青年たちは、
国家から二度死を宣告された。
封印を破り、レ兵士たちは語った!!

マルレという秘密兵器があった。それは戦闘機でも潜水艇でもなく、ベニヤ板製の水上特攻艇。
マルレの特攻隊は秘密部隊ゆえに人知れず消えていった。
しかし、この特攻隊にはより大きな秘史がある!
それは彼らが8月6日の原爆投下直後の広島に入り、真っ先に救援活動を行っていたこと。
結果、多くの隊員が被曝したこと、そして被爆者として戦後に苦しんでいたこと、である。

被爆地に真っ先に駆けつけて被爆者を助けた秘密部隊の特攻兵たちは、
復員後に自らの身体に発症した原爆症と戦い、被曝という事実を認定しようとしない国と戦い、
周囲の被爆者差別と戦った。
特攻と原爆によって、二度も死を国に告げられた彼らは、「戦後」を戦い続けたのだ。
秘密部隊ゆえにマルレは戦果を秘され、彼らの部隊が原爆投下直後の広島を救援に奔走した行為は忘れられ、
その隊員たちが被爆者として戦い続けた歴史は消えようとしている。

「彼らの証言は、語らずに逝った戦友たちへ捧げる鎮魂であり、いかに戦争が悲惨で愚かで空しいかを訴える警鐘であり、戦争のない平和な世界を祈念する遺言である」

もう、この国で人命を消耗品にしてはならない。
■「俺は戦争に行きたくない! 軍隊に入隊したくない!」
■「一艇を以て一鑑を屠る、それが諸君の任務である」
■「みんな今年いっぱいの命だと覚悟して精進してくれ」
■「私たちには玉砕は許されませんでした」
■「俺が原爆症だと知れ渡ったら、子供たちが何されるかわからん」

※本書は2015年7月に弊社より刊行した単行本『原爆と戦った特攻兵 8・6広島、陸軍秘密部隊レの救援作戦』を
改題の上、加筆修正したものです。

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Posted by ブクログ

アジア・太平洋戦争に於ける日本軍の最悪の戦法として特攻があるが、一般的には航空機を用いた航空特攻を思い浮かべる人が大半だろう。海軍、陸軍合わせて四千名以上がその航空特攻に駆り出され、若い命を散華させた事は余りに有名である。それ以外にも人間ロケット弾としてアメリカからは「バカボム」とまで呼ばれた、ジェット推進の桜花(正に人が入ったミサイルそのもの)や、小型潜水艦である回天など、映画などでも題材にされるメジャーな特攻兵器もまだまだあるわけだが、本書が扱う小型特殊艇による特攻はそれ程多くは知られていない。何故なら、戦中戦後長きに亘り、その存在すらをも絶対的な機密事項とされたこと、そして実際の戦果を上げる前に大半の特攻兵器が輸送中に破壊されてしまった事で正に闇のベールに包まれた兵器としての位置付けが、そうさせているのではないだろうか。更には航空特攻兵器や回天などが、軍部の最新技術の粋を集めて開発された「華々しい」兵器であるのに対して、水上特攻艇はベニヤ板を張り付けた小型のモーターボートであり、大凡、一人の若者が命を授け命運を共にする兵器としては、余りに見窄らしい。そうした意識が軍の上層部にあったという事も理由になるだろう。本書タイトルは正に「ベニヤ舟の特攻兵」である。
本書は戦争開始後に快進撃を続けた日本軍が、ミッドウェイやガダルカナルで惨敗を喫し、日米優位の転換点となったあたりの時代からはじまる。招集免除の対象であった大学生を兵士として入隊させる学徒出陣。学生代表として東大生であった江橋 慎四郎氏による有名な答辞「生等もとより生還を期せず」を、冷めた気持ちで聴く明治大学生の菅原寛氏。本書は彼に対するインタビュー内容を中心として語られる、オーラルヒストリーとなっている。同氏は学徒出陣で徴兵されて以降、持ち前の体力面での強さや、六大出身の明晰な頭脳で、厳しい軍隊生活の中からもすぐに頭角を表していく。だが、その先にあったのは、生還を期しない「特攻」の運命であった。学徒出陣での江橋の言葉、「生還を期せず」が現実に目の前に飛び込んでくる。そしてその彼らを待っている運命とは、正に我々戦後世代が教科書や歴史映像から得たものを遥かに凌駕する地獄であることを身を以て体験していくのである。
そう、戦後80年となる今、私を含めた多くの日本国民は戦中の記憶はない。しかも戦後長く続いたGHQの教育方針により、戦争を起こした日本の責任については厳しく語られ学ぶ事はできたが、そこにあった多くの悲劇を目にする機会は、意識して接しない限り見る事はなかった。ベニヤ舟の特攻兵がどういった経緯で生まれたのか、そして彼らが目にした戦争のリアルがどの様なものだったかは、今も健在であられる生き残りの人々からの声でなければ解らない。オーラルヒストリーである以上、長い年月が経過してしまった今、その全てが全くの真実や誇張の無いものとは断定し難いかもしれないが、経験者の脳裏に克明に刻まれた記憶は嘘はつかない。彼らが自らの舟を失いながらも、再起をかける最中で起こった広島への原爆投下。そして彼らが救護のために駆け付けた先で見たもの。更には戦後も続く原爆症との戦い。日本という名の天皇という名の下に、国家の命運に左右され続けた「特攻兵」達の記憶に触れ、二度とこの様な惨禍を繰り返してはならないと強く心に誓う。
そしてこうした書籍を読むたびに不戦の誓いを新たにすると共に、平和とは皆の努力がなければ簡単に崩れ去るものであると再認識するのである。
なお、本書は陸軍の海上特攻兵器(マルレ)について扱っているが、同時期に海軍によって進められたモーターボート型の特攻兵器「震洋」とは全く別物であり、ここでも航空特攻と同じ様な陸海軍の特攻兵器合戦が繰り広げられた事に虚しさを感じてやまない。陸軍は約3000人、海軍は約2500人と、合わせて5500名近くの若者がこの作戦に駆り出されており、その数は航空特攻で亡くなった隊員達の数を上回る。本土決戦が開始されれば、日本沿岸に押し寄せる米艦艇に対して、これらが出撃し、航空特攻以上に前途有望な多くの若い命が失われたに違いない。強い憤りを感じながらも、ここで戦争が終結した事が、僅かながら、そうした命をつなぐ事に向かったのだという事も忘れてはならない。今の我々の平和は広島、長崎、沖縄、そして大規模な空襲に見舞われた全国各都市の失われた人々の命の上にある事を。戦場で亡くなった多くの魂にも祈りを捧げる。

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2025年08月15日

Posted by ブクログ

大叔父に漁船を軍艦代わりに出航し帰ってこなかった人がいると昔母から聞いた記憶が蘇った。あまり詳しい話は聞かなかったのだが日本軍の苦肉の策の一環という点では変わりないのではないか。

特攻前夜の自由な待遇や沖縄と内地を二転三転する様子は面白く読んだ。
広島での救援作業の情熱は真に迫る文章で一般市民の被爆者と気持ちがすれ違っているとしても軍人としての国民への意識がリアルに感じられた。それが余計に戦後の彼らへの支援の遅れが哀しくさせる。

女性が戦時中悲惨な目にあった書籍だと「戦争でより辛い思いをするのは女性」と書く方がいる。男性も女性も美味い汁を吸えた人間以外は皆辛い、それではいけないのだろうか。なぜ男女で対立構造にしようとする。戦争の本を読んだ感想がそれで良いのか。

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2024年07月09日

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