あらすじ
西洋中世における最大の神学者であり哲学者でもあるトマス・アクィナス(1225頃―1274)。難解なイメージに尻込みすることなく『神学大全』に触れてみれば、我々の心に訴えかけてくる魅力的な言葉が詰まっていることに気づく。生き生きとしたトマス哲学の根本精神を、理性と神秘の独特な相互関係に着目して読み解く。
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Posted by ブクログ
「親和性による認識」cognitio per connaturalitatemという神学的言葉がある。日常の言葉で言えば「好きこそものの上手なれ」という言葉に表されるような事態を掬い取る言葉である。本書はトマスの徹底的に理性的な思考がいかにして神学的思考と接続されるのかを明らかにする本である。キリスト教はわかりにくいと思われることがあるかもしれないが、本書はキリスト教の基本的な発想を明晰な言葉で表しつつも、西欧の言語で語られるところの神学的問題へと読者を丁寧に導く神学入門となっている。
本書はその章立てから見て取れるように、トマスの神学の方法論と徳論と愛徳論を扱ったものである。まずはトマスの神学における論の進め方や『神学大全』の項の成り立ちを始め、基本的な内容を押さえる。そして私たちの日常に根ざした問題群である徳を扱う。『神学大全』の中核に位置する徳論を詳述する真ん中の二つの章は、その考察の具体性を知らせてくれるものである。徳論において枢要徳と対神徳とを接続する言葉として冒頭の「親和性による認識」という問題が扱われており、それは単に神学的思考にのみ関わるものではなく、人間の本性をめぐるトマスの一貫した人間論に裏打ちされていることが明らかにされる。
本書の特徴は、ともすれば翻訳を読む際につい読み飛ばしてしまうような区別を精確に取り押さえていくことにある。通常「神の愛caritas Dei」と訳される言葉の用法として、所有の属格では「神からの愛」と訳され、対格的属格では「神への愛」と訳され得ることが本論において指摘される。この両者の区別を精確に取り押さえることを通して、トマスが指摘する「神の愛」の思想がいかに革新的な内容を含んでいるのかを明らかにしている。そして神学的議論に興味を持ち始めた読者は教義史や異端論争へと関心を抱くことと思うが、まさにそのような読者を念頭に置いた神学的論争の要点を精確に取り押さえていくための手掛かりが与えられるのもまた本書の特徴と言えよう。
本書を読み解くことを通して学問的にテクストを読み解くことの生き生きとした様子を感じ取ることができ、読者を精確な読解へと招く本書は類まれな神学入門となっているのである。トマス・アクィナスだけでなく、中世哲学、ひいては哲学そのものに興味があるすべてに人に薦めたい一冊である。
Posted by ブクログ
著者自身のトマスへの敬意や愛情の込められた解説で初学者にも分かりやすかったです。単なる解説にとどまらず表現の多彩さや例えの豊富さにぐっと惹きつけられました。
Posted by ブクログ
中世において、哲学と神学を調和させるスコラ哲学を大成させた大学者として知られるトマス・アクィナスの思索を、トマスのテクストに愛着を覚える著者がそれに従って自らがもつ善を分け与えようと、丁寧な語り口で描いていく
理性と神秘(信仰)は対立するものではなく、信仰によって理性が新たな次元へとステップアップし、理性によって信仰がより深まるといった形で調和するものだとトマスは言う
同じく、トマスはアリストテレス主義者としても知られるが、実際はアリストテレスの哲学を援用して自身の神学を補強したことは間違いないが、哲学を神学の婢のままにすることなく、神学を用いて哲学に新たな概念を付け加えるといった形で調和が見られた
科学合理主義に染まった現代において、理性と対立することの無い神秘(信仰)の在り方や、何かに取り組む際必ず全体的な体系性を意識しつつ取り組むというトマスの思索の仕方など、700年前のテクストながら得られることは沢山あった
Posted by ブクログ
前半まではとても興味深いものだった。今まで、アリストテレスの書を引用してキリスト教の世界観に置き換えた権威主義的な人物をイメージをしていたが、その実当時の誰よりも誠実に理解しようとしていた探究者であったことを知れた。
中途からは自身の不学のため、言っている内容が全くわからなかった。著者の意図が読み取れず、想像の余地すら働かなくなったため、面白さを感じず辞めた。
思うに、その先はアリストテレス、およびその著作である神学大全についての基礎的な知識が不足しているのだろう。また、いずれその時が来たら読み返すかも知れない。
読みやすいです
『愛のあるところ目がある』という一文にひかれた読みはじめました。
トマスアクィナスの著作に興味はありますが、哲学と神学の素養がなく、
ボリュームもすごいのであきらめていましたら、このとっつきやすい本が
見つかってよかったです。カトリックの深さ広さを感じる一冊と思います。
なぜかガンバロウと思いました。
Posted by ブクログ
本屋でタイトルに惹かれて衝動買い。キリスト教嫌いが多いこの国では珍しい「神学者トマス・アクイナス」の入門書である。一般には無視されがちな「神」や「天使」の問題にも正面から扱っているところに好感が持てる。個人的には特に第三章の「徳論」は大いに知的刺激を受けた。近代のカトリック思想に大きな影響を与えた神学者であるだけに、”カトリック入門”としても読める一冊だと思う。
Posted by ブクログ
トマスという人物は中世キリスト教の支配する思想の中でアリストテレスの合理性を結合させた開明的な人物という印象に改められた(というか歴史に一行以上には知らなかった)。また、凄まじい大著である神学大全ですらトマスの全著書の7分の1であるに過ぎず、アリストテレスや旧新約聖書への注釈、様々な同時代人との対論を残しており、40代で亡くなったことを考えると歴史的な知の巨人であったことがわかる。が、現代から彼の思想を見る意義は、著者がいろいろとこの新書の中で述べているが、アリストテレスの合理性とキリスト教の神秘性を合わせただけでなく、昇華させたところに意義はあるように見えるが、それ以上のところは私には理解できなかっただけかもしれない。