あらすじ
首謀者不明のうえ犯行声明もなかったヒースロー空港の爆破テロは、精神科医デーヴィッドの前妻ローラの命をやすやすと奪った。その無意味な死に何らかの意味を見出そうと、デーヴィッドは様々な社会運動に潜入してテロの首謀者たちを突き止めようと試みる。やがてテロ組織の一員である謎の女ケイに辿り着くが、その出会いは彼らの指導者である医師グールドが計画した、中産階級の聖地チェルシー・マリーナでの実験の始まりを意味していた。一般市民が無差別的テロ行為を娯楽として消費する近未来を描く、20世紀SF最後の巨人バラードによる黙示録的傑作。/解説=渡邊利道
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Posted by ブクログ
テロと中産階級(といいつつ、日本的な基準で見ると富裕層)の反乱というモチーフを2003年に書いているというのが、予言的。
中産階級に対して狂騒的に反抗をあおるアジテーターの女性、ケイの言動はジョセフ・ヒース「反逆の神話」に描かれる文化左翼に近いんだが、リベラルな世界観のバックラッシュという意味で、トランプ現象も連想させられる。
ただ、このお話の本質は中産階級の反乱ではなく、暴力に人々が感染し、世界の無意味性がむき出しになっていくという事なんだろうなあ。特に、世界が無意味であることへの気づきが、ある種の人には救いになるという逆説がおもしろい。
不勉強でよくわからないのだが、小児科医グルードの話はアナーキズムと関係あるのではないだろうか。あと、アドラー心理学を知っていたら、より深く読めた気がする。
J・G・バラードの本ははじめてだったが、白昼夢のような筆致にひきこまれ、ぐいぐいと読み進めてしまった。