あらすじ
「なぜ優良企業は新世代の技術競争に敗れ去るのか?」
大御所経営学者のクリステンセン教授が『イノベーターのジレンマ』で答えたストーリーには未解決の問題があった。
長年解明されてこなかったイノベーションの謎に、若き経済学者が最先端のデータ分析で挑む。
「謎に対する答えだけでなく、ジレンマへの処方箋、さらには生き方のコツまで提示した本書は、21世紀を生きる我々にとって新たな羅針盤となる一冊だ。」(安田洋祐・大阪大学准教授)
●一時代を築いた「勝ち組」は、なぜ新世代の競争に出遅れがちなのか?
●この「イノベーターのジレンマ」に打ち勝つには、何をすべきなのか?
内外の企業が直面するこれらの切実な「問い」に、気鋭の経済学者・伊神満イェール大学准教授は、サバイバルの条件は創造的「自己」破壊にあり、と答える。
「共喰い」「抜け駆け」「能力格差」をキーワードに、ゲーム理論、データ分析などを駆使して、「イノベーターのジレンマ」をクリアに解明する。
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Posted by ブクログ
本書では、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」を底本にして、実際にイノベーションのジレンマはあるのか、あるとしたらどういった理由が存在するのか・・・といった問題を実証することを目指し、様々な概念と方法論を定時している。
実務でコンサルティングや技術開発(イノベーション)を行なっている身からすると、やっぱり社内競合(本書でいうところの「共食い」)は本当に企業の中でよく見かける。
一方で「抜け駆け」を目指した意思決定は、本書でも珍しい例と言われているが、残念ながら一度も見たことがない。
難しいのは、ただ「共食い」するだけならともかく、ITによってそもそも提供価格が大幅に下がってしまうと、マーケットサイズ自体が小さくなってしまうことがあるということなんだよね・・・。
Posted by ブクログ
伊神先生は
イェール大学の准教授。本当は実績を残すために、日本語の本など書いている場合ではないと思うのだけど、後書きにあるように色々な思いがあって休日を使ってこの本を書いたようです。これ、本ではなくて授業とかで直接話を聴いたら、きっともっと面白かったのだろうなと思いました。
この本は結構面白い構成で、最初にざっとサマリーのようなものが書いてある。さすがは大学の先生。語り口はエッセイ調。
説明されている経済理論は3つ。置換効果(共食い)、抜け駆け、能力格差。実証研究の手法も3つあってデータ分析、比較対象実験、シミュレーション。で、そもそものクリステンセン先生のHDDの事例をベースに実証研究の結果を示すというもの。
最後の最後にまとめが書いてあって、これも3つ。
①既存企業は、例え有能で戦略的で合理的であったとしても、新旧技術や事業間の「共食い」がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれない。(イノベータのジレンマの経済学的解明)
②この「ジレンマ」を解決して生き延びるには、何らかの形で「共食い」を容認し、推進する必要があるが、それは企業価値の最大化という株主にとっての利益に反する可能性がある。一概に良いとは言えない。(創造的「自己」破壊のジレンマ)
③よくある「イノベーション促進政策」に大した効果は期待できないが、逆の言い方をすれば、現実のIT系産業は、丁度良い「競争と技術革新のバランス」で発展してきたことになる。これは社会的に喜ばしい事態である。(創造的破壊の真意)
これが結論なのだけど、印象的な引用が2つあった。
「自分がもっともほしいものが何か判っていない奴は、欲しいものを手に入れることは絶対にできない。キクはいつもそう考えている」(村上龍「コインロッカー・ベイビース」
UCLAのエド・リーマー博士の2つの質問。1)「君の問いは何だ? What's your question?」2)「世の中の誰がその問いに関心を払うべきか? Who should care about your questions?」
Posted by ブクログ
これは、必読書だと思います。
平易な表現で、最先端の経済学が目指すものを実証的に語ります。「盛者必衰」。なぜ優良企業はイノベーションに乗り遅れるのか? どうすれば防げるのか。5.25インチから3.5インチに移行したハードディスク・メーカーのデータを元に、論理的に、説得力をもって突き詰めています。
本書の出発点である「置換効果」は、デジタル化が進む新聞業界が典型例です。デジタルに移行すればするほど、現在稼いでいる紙と食い合うからです。「何も自分の代で完全移行しなくても……」と経営幹部や年長社員ほど考えるだろうと。一方で、ハフィントン・ポストなどのネット専業のイノベーターは、突き進むだけ。
さて、既存の新聞はこのまま座して死を待つのか。「そうではないだろう」と思います。この本を読んで得た結論です。ポイントは単なる置換以上のものを生み出すこと。馬車メーカーは自動車を製造に転換すれば、生き残れたことでしょう。問題は、それを支える「意欲」の源泉をどこに求めるか。
「あなたが本当に知りたいのは何なのか、それはあなたにしか分からない。データの生成過程がどうなっているのか、それは表面に出てくるデータの内容ではなく、データの母体となる現実世界そのものについての洞察である」……明日を生きるための勇気と意欲が湧く書だと思います。