【感想・ネタバレ】目黒の狂女のレビュー

あらすじ

日常の謎ミステリの元祖ともよばれる、老歌舞伎俳優・中村雅楽探偵譚。歌舞伎界で起こった様々な事件や謎が持ち込まれると、雅楽は経験に裏打ちされた鋭い洞察力で鮮やかに絵解きをしてみせる。竹野記者の手記によって、雅楽が遭遇したあまたの事件の顛末が明かされていくシリーズ第3巻は、昭和50年代を中心とした作品群。竹野記者が目黒のバス停でつづけざまに出会った狂女にまつわる表題作「目黒の狂女」。なぜ淀君は逃げ延びなかったのかという、歴史に埋もれた謎を雅楽なりの解釈で解明していく「淀君の謎」など粒ぞろいの全23編を収録。【収録作】「かんざしの紋」/「淀君の謎」/「目黒の狂女」/「女友達」/「女形の災難」/「先代の鏡台」/「楽屋の蟹」/「お初さんの逮夜」/「むかしの写真」/「砂浜と少年」/「大使夫人の指輪」/「俳優祭」/「玄関の菊」/「梅の小枝」/「女形と香水」/「子役の病気」/「二枚目の虫歯」/「コロンボという犬」/「神かくし」/「芸養子」/「四番目の箱」/「窓際の支配人」/「木戸御免」/講談社版『目黒の狂女』 あとがき=戸板康二/講談社版『淀君の謎』 後記=戸板康二/創元推理文庫版編者解題=日下三蔵

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Posted by ブクログ

人間のよさ。戸板康二が描く「中村雅楽」という人物の魅力をひとことで言えば、そういうことになるのではないか。

鋭い観察力と洞察力とで身の回りに起こる「面白い」事件(「日常の謎」と言ってもいいが)を鮮やかに解決しながらも、そこにはいつも人間のあたたかい血の流れが感じられるのだ。それは、主人公「中村雅楽」が歌舞伎役者(しかも名門の出ではない)として人生の大部分を劇場で過ごしてきたことと無関係ではないだろう。役者はひとりでは生きられない。相方や脇役、裏方としてはたらくたくさんの人々、そして劇場に足を運ぶ観客がいてはじめて、舞台の上でスポットライトを浴びることができる。雅楽の、事件の当事者に対する慈愛にみちたまなざしはまた、そのように人は人を支え、人に支えられているという事実を彼がわきまえていることの証左であるだろう。

中村雅楽探偵全集の第3弾となるこの『目黒の狂女』では、これまで以上にそうした雅楽の「善さ」を感じさせる作品が多いような印象を受けた。このシリーズが発表年代順に収録したものであることからかんがえれば、そのような傾向にはこの時期(おもに昭和50年代)の作者の心境が映し出されているといえるかもしれない。この巻のおしまいに収められた『木戸御免』など、まさにそんな戸板流ヒューマニズムにあふれた佳作ではないだろうか。

そのむかし新劇が盛んだったころ、シェイクスピアの戯曲なども歌舞伎にならって見せ場だけを上演するようなことが行われていたらしい。雅楽の口を介してそんな大正期の演劇界の姿を知ることができるのもまた、このシリーズを読む愉しみのひとつである。

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2013年06月11日

Posted by ブクログ

歌舞伎や舞台、テレビなどの仕事を背景とする日常の謎系の短編集。
いよいよ、三巻目にして、事件というより謎という方が似合ってくる話がほとんどとなりました。
ぶっちゃけ、日常の謎って読んでいてほっとしますよね。(^^
色恋の話が割と多かったのも読んでいて楽しかった理由かも。
珍しく、歴史推理も入っています。ま、成功しているかどうかは判断に悩むところですが。(^^;

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2013年02月02日

Posted by ブクログ

76年から83年発表の短篇のほか、60年代末に書かれた「かんざしの紋」「淀君の謎」を収録。
「淀君の謎」は謎解きのポイントが空想の産物なので、歴史推理と思って読むと拍子抜け。こういう趣向で芝居を考えてみました、てなもので、しかも、ホントにそうだったらワクワクするのに~、みたいなセンスオブワンダーもない。
だんだん犯罪の話ではなくなっているのだが、日常の謎ものというより、それこそ戸板康二が週刊誌に書いていたちょっといい話、という趣きになっている。雅楽を登場させる必然性もないのかも? という気もするが、古老が語るある世界、ということで、「半七捕物張」の正統な後継だと改めて実感。
養子か実子か、または外にできた子か、といったことは不問、とか、この世界独特の慣習になるほどと思ったり。
収録作の中では、「神かくし」「芸養子」といった、そういう世界での親子ものにしんみりした。
「芸養子」は「木戸御免」とともに、芸道もの(本人というより本人を思う女人による工夫だが)としても何だか好き。
「砂浜と少年」も印象的だが、そんなことで死ぬなよ~、若者。と思ってしまう。

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2010年09月18日

Posted by ブクログ

初期作と違って、だんだんと所謂「日常の謎」モノへと変化していってる。
もちろん、雅楽の鋭い推理によって謎が解けていくものもあるんだけど、それよりも歌舞伎の世界とか、人間の感情、情緒といったものを描くことに力点が移っていると感じた。
というか、むしろそっちのほうが会話文とか心の機微の点で魅力的なようにも感じられるくらい。

まあ、「ちょっとこれはこじつけがすぎるだろう」ってのもご愛嬌か?

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2010年01月06日

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