あらすじ
昭和日本を支えた鉄都に火の如く渦巻く人間模様──
煙が炎々と天を焦がす製鉄の町・北九州八幡。複雑な家庭事情のなかで、祖父母や親戚たちの見守りを受け、焼跡に土筆のように逞しく育ったヒナ子は中学生に。やがて映画と本に夢中になり、脚本家を夢見て上京をもくろむが……。愛欲の煩悩やみがたく制裁で街を追われた仕立て屋の叔父、炭坑で地獄をみてきた堅固な人生観をもつ祖母ら、名もなき人たちが煩悶しながら戦後の激動を火のように生きる、前作『八幡炎炎記』に続く著者初の本格自伝的小説・完結編!
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Posted by ブクログ
『八幡炎炎記』が「第一部」となっていたので、少なくとも三部はあるに違いないと楽しみにしていたのだが、これで「完結編」!?
村田さんの体調が悪いのだろうか、それとも第一部が売れなかったからなのか・・・。
しかし、これも十分面白かった。
村田さんは「ヒナ子」だと思うが、中学を出た後、働きながらシナリオライターを目指して家を出ようとするところまでなので、せめてシナリオライターの夢は破れ、小説を書こうとするところくらいまでは書いてほしいなあ。八幡製鉄所がまだ活気に満ちていたころ(朝鮮戦争特需、神武景気、岩戸景気があり、日本がどんどん豊かになっていったころ)の話なので、寂れてしまった北九州の様子も書いてほしい。
映画を見ながらシナリオを書いてみるシーンがあり、こういう経験が小説を書くとき大いに役立ったに違いないとか、「小説家」以前のところも興味深い。
当時の庶民がどんなに映画を楽しみにしていたのかが、リアルに(特に「ゴジラ」を見るシーン)わかって胸が熱くなった。みんな、ゴジラを応援していたんだね。
また、新藤兼人の「裸の島」の浅さを祖母が看破するところも面白かった。
実際に経験した人が見ればありえないっていう名作たくさんあるよね。
ヒナ子だけでなく、親戚の子どもたちも、皆養子だったり、本当は姪や孫だったり、血の繋がりの薄いところも、ヒナ子が作家になる下地となったような気がする。
第一部の主人公は克美っぽかったが、この本では老いてきて、だんだんヒナ子たちに比重が移ってきている。
面白いところで終わっているので、ヒナ子の青春真っ盛りとなる三冊目もやっぱり書いてほしい。