あらすじ
陸軍大将・立見尚文は、元桑名藩士である。桑名藩は会津藩の盟友として幕末から佐幕派の雄として行動した。いわば賊軍出身者で大将まで立身するのはきわめて稀であり、しかも立見の場合、戊辰戦争・西南戦争・日清・日露の戦役と、つねに最前線にあって戦い、かついかなる厳しい状況下でも立見個人は敗走を知らない。まさに「常勝将軍」なのである。本書は、史上まれに見る天才指揮官であった立見尚文の生涯を、少年時代から永眠までを克明に描いた渾身の歴史大河小説である。上巻は、桑名藩内で頭角を現わし、戊辰戦争では鳥羽伏見の戦いからやがて北越方面へ転戦、雷神隊という精強な部隊を率いて新政府軍を恐れさせた立見の前半生を描く。旧幕府軍の降伏後は謹慎を経て司法省へ出仕、やがて指揮官としての能力を買われて陸軍に招かれる。西南戦争では西郷隆盛の本軍を追い込む活躍。陸軍軍人として立見の評価は一気に高まり、出世街道を駆け上がっていく。
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当然ながら、薩長閥以外でも優秀だが不遇な人物はいたんです。「坂の上の雲」で知った秋山兄弟(松山)。日露戦争の第2軍司令官である奥保鞏大将(小倉)、そしてこの本の主役である立見尚文大将(桑名)。
上巻は、生まれてから日清戦争突入までがテンポよく進む。勿論、幕府側からの視点で描かれているので、新鮮味を感じた。正直、もっと昇進が早くてもと憤りを感じる。そんな感情移入してしまうほど、好人物として描かれている。下巻が楽しみ。
Posted by ブクログ
桑名藩出身の立見鑑三郎(尚文)の伝記。上巻では、日清戦争に入るところまでを扱う。
冒頭、日露戦争の鉄嶺駅での秋山好古少将とシーンに始まり、そこから時代をグッと遡って八丁堀の町田家に生まれる。少年時代に立見家に婿養子として入った鑑三郎は、身長172センチと当時では大柄で体格にも恵まれ、更に頭脳明晰で武道もできる少年であった。才能を見出されて若くして藩主松平定敬に仕え、京都所司代時代には20そこそこで藩の外交官たる公用方として薩長や会津など各藩の公用方とやりあう中で、土方歳三とも親交を結ぶ。
最初の戦功は蛤御門の変であったが、その後、鳥羽伏見で藩主定敬(と会津藩主松平容保)を引き連れた慶喜の脱走に泣かされ、なんとか脱出して江戸に戻る。藩主は長岡藩の手引きでスネルの船で海路藩領越後柏崎を目指すが、乗り切れない隊士を雷神隊はじめ三隊の編成とし、若くしてその隊長に推挙。宇都宮、北越、会津、寒河江、庄内と転戦して際どいながらも常に変幻自在の戦術眼で兵力や武器弾薬で凌駕する官軍相手に後退しつつも痛撃を与え、北越では山縣の右腕時山直八を倒すなど勲功を挙げるも庄内藩とともに降伏する。
戦後は一年半の蟄居の後許され、つてを辿って司法省に奉職。抜群の事務処理能力で成果を上げるが、西南戦争の勃発時に乞われて陸軍少佐として従軍。西郷を城山で追い詰めて、戦後はヒーローとなる。
その後、各地の部隊を鍛えつつ、小松宮のお眼鏡に叶って近衛第三連隊長や宮の欧州視察(トルコ、イタリア、ロシア、ドイツ)に随行して見聞を深める。具体に見聞深めながら寸暇を惜しんで日本が学ぶべきものを取りまとめている姿は好感もてる。また、川上操六、児玉源太郎、メッケルなどとも懇意になる。
帰国して地元に近い名古屋勤務になったのも束の間、また呼び出されて近衛師団参謀長となり、清と風雲急を告げてからは、少将に任命されて愛媛の第10旅団長となり朝鮮に進軍していく。
賊軍からここまで立身出世できたのは立見の能力もあるが、明治政府の度量もまた大きいと思う。