あらすじ
情報に感染し、人は動かされる
2020年春、新型コロナウイルスが世界を席巻する。大型連休を目前に控え、内閣総理大臣は特措法に基づく緊急事態宣言を発出し、人々には外出自粛を、人が密集する事業所には営業自粛を求めた。「命を守るため」という触れ込みであった。
しかし、日本は他国と比べて異常に死者数が少ないというデータが出続ける。何が真実なのかまったく不透明な中で、人々は不確かな情報に感染(=インフォデミック)し、合理的な判断を下せなくなる。そんな中、「人は死ぬときは死ぬ」とライブ活動を続ける伝説的なミュージシャン・浅倉マリがメディアに登場。真行寺は高齢な浅倉の監視と説得を、水野玲子捜査一課長に命じられる。果たして、浅倉が仕掛けた引退コンサートはどのような結末を迎えるのか?
コロナ禍の現在をリアルに抉る超エンターテイメント
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Posted by ブクログ
真行寺弘道シリーズは常に社会のトレンド的な話題を物語の中軸に据えつつ、それでいてそこで投げかけられる(表向きは真行寺に対してだが、実は読者に対して問題提起されている!)二者択一的な選択肢は作品の中ではフィクションではあるものの、その方向性は現実世界を一歩も二歩も先取りした内容といえます。100%そうなるかどうかは定かではないけれども、ひょっとするとこういう未来もあるかも、と思わせられる内容になっているところが読みどころかと思います。
さらにもう一つのおもしろポイントは作品を読みながら真行寺にアタマの中の思考を一緒にたどっていくところでしょうか。真行寺自身も迷いながらそれでも思考を進めようとしている部分に触れると、あたかも自分が主人公になったような臨場感があります。
で、本作で構築されたシステムは政府がつくったCOCOAどころじゃない! 個人の行動が丸わかりになるとはいえ、感染経路特定にこれほど有効はものはないかもしれません。個人の行動履歴をすべて吸い上げられるのはどうかとも思いますが、現在の感染高止まり状況を鑑みると、そこまでやらないとどうしようもない未来が待っているのかも、と考えてしまいます…。
そして本作では著者が一つ前に刊行した「DASPA」に登場した吉良も黒幕(?)として登場。イベント会場内での真行寺とのやりとりは本作で著者がもっとも投げかけたかった内容が凝縮された場面といえるでしょう。真行寺の言い分はちょっと青臭いか…、かといって吉良の言い分も偏りすぎというか、時代の先を行き過ぎていて周囲がついていけていないだけか…、などなど。
世の中的なネタを扱っている点は過去の4作と共通していますが、そのネタと読者との関わりという点では今回のものは段違いで、それだけに至るところで考えさせられる内容になっていました。為政者が読んだらどんな感想を持つのだろう、ということもちょっぴり気になりました。