あらすじ
介護老人保健施設の職員・四条典座は、転所してきた認知症の老女・安土マサヲの凄惨な過去に驚く。太平洋戦争の末期、マサヲは自分の子ども二人と夫を殺したというのだ。事件の話は施設内で知られ、殺人者は退所させるべきだという議論になる。だが、マサヲが家族を殺したと思えない典座は彼女の無実を確信、“冤罪”を晴らすために奔走するが――!? 傑作本格ミステリー!
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これは、ミステリーというよりはファンタジー。終戦直前の空襲中に発生した殺人事件を調べることになった頼りない主人公が、逞しく成長し、殺人犯と思われる認知症の老婆は実はスーパーヒーロー?。荒唐無稽っぽくても読後爽やか。
Posted by ブクログ
戦争の悲惨さも理不尽さも、活字や写真、映像で残されたものからしか知ることができない。
本当はどんなことが起きていたのか。
そこで暮していた人たちの過ごしていた日々がどんなものであったのか。
結局のところ、理解することなんて出来ないのかもしれない。
主人公である四条典座は、他の施設から転入してきた安土マサヲのことが気になってしかたがない。
何かと典座にだけは心を許しているようなマサヲの態度も不思議でならない。
ある日、突然マサヲが夫殺し・子殺しの犯罪者だと施設内に知れ渡る。
マサヲの退所を求める施設側と対立する典座。
期限をきってマサヲの"冤罪"を晴らすこと。
それが典座に課せられた・・・。
とても悲惨な物語だ。
そしてとても哀しい物語でもある。
どんなに時間が流れたとしても、辛すぎる思い出が消え去ることはない。
心の奥の奥にしっかりと鍵をかけて押し込めたはずの感情も、何かのきっかけで暴れ出すこともある。
夫を失った。子どもも失った。
必死で守りとおした残った子どもも取り上げられ、たった一人で戦後をひっそりと生きてきた。
何を楽しみに毎日を過ごしていたのだろう。
「さんざし苑」での、わずかな時間だけれど幸せな孫たちとの触れ合い。
神様が人生の最後にくれた贈り物だったようにも感じてしまう。
とても悲惨で哀しい物語なのに、読み終わった後にすっきりとしたものが残る。
「男前」なマサヲの人生がむくわれる瞬間が、爽やかな風となって物語を吹き抜けていった。
いつだって優しくて強い。
どんなときでも守るべきものを全力で守ろうとする。
母親とはそんな強い意志を胸に秘めているものなのだろうか。
「伽羅の橋」
物語にふさわしい良いタイトルだと思う。