あらすじ
青年弁護士だったカストロが、盟友の医師チェ・ゲバラらと共にキューバ革命を成功に導いてから約六〇年。その間キューバは、アメリカ政府の経済封鎖やカストロ暗殺計画に屈することなく、国民が平等で、教育費・医療費が無料の理想国家を築き上げてきた。キューバ危機という、核戦争の恐怖をも乗り越えた二人の革命家から、我々はいま何を学ぶことができるのか? 現在までのキューバ史を壮大なスケールで描く。
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Posted by ブクログ
なかなか分かりやすい、教科書的な一冊。
広瀬隆氏の著作なので、“悪の帝国アメリカ”や核兵器に対する辛辣な批判は差し引いて読まないといけないけど、過去の多くの書物からエッセンスを抽出、キューバ革命、その後現在に至るまでのキューバを俯瞰して眺められ、入門書として良くまとまっている。
キューバ危機も、これまでの歴史の教科書で学んできたことは、米ソの駆け引き、JFKとフルシチョフのギリギリの決断という大国ありきの歴史観だったけど、当事者のキューバから見てみると、また違った側面が見れて面白い。まさに、私の理由とあなたの理由(アメリカとソ連の理由)の他、本当の理由(キューバの理由)が現場にはあったということがよく分かる。
「キューバへのミサイル配備計画を打ち出したのは、ソ連であって、キューバ政府ではなかったのだ!」
著者は「!」マーク付きで、大国の理論がまかり通る国際世論を槍玉にあげるが、カストロにしても、ソ連がその提案をしてくるだろうというのは見越して、フルシチョフに助けを求めたとは思う。カストロの聡明さ、戦略家としてのカリスマ性をさんざん持ち上げておいて、この場面だけカストロだけが聖人君子なわけはない(帝国憎しの著者の論調を差っ引いて読む必要があると思うところ)。
いずれせよ、どいつもこいつもキツネにタヌキだったということだが、それを差し置いても、大国の狭間にあって祖国キューバを守り切ろうとしたカストロはじめとする革命戦士たちの奮闘ぶりは見事だ。
本書を読んで楽しかったのは、映画を例に引いて説明してくれる箇所が多かった点も挙げておこう。キューバを語るにあたり避けて通れないのが『ゴッドファーザー PARTⅡ』のハバナでのシーン。マイケル・コルリオーネが現地で紹介される各界の大物は、実在の人物を忠実になぞっていることが本書で紹介されている(ユダヤ人マフィアのハイマン・ロスはマイヤー・ランスキー、ゼネラル・フルーツ社はユナイテッド・フルーツ社等々)。
マイヤー・ランスキーの話から、JFK暗殺の件に話が飛ぶのもご愛敬。マイヤー・ランスキーとケネディ家の禁酒法時代からの確執にまで話が及ぶ。ついでに、映画『アンタッチャブル』のカナダ国境での密輸業者との銃撃戦の話まで出てきて面白い。
『ウェスト・サイド物語』、『ブエナビスタ・ソシアル・クラブ』の話も出てくる。世相と映画は切り離せないという良い例だ。
1950~70年代、ソ連崩壊に至る80~90年代の国際政治を背景に、カストロとゲバラの帝国主義との対決、あるいはキューバを攻略できなかった米国の焦りがやがてべトナム戦争への引鉄となったという、あの頃、血沸き肉踊らせながら聞きかじった世界史の中に、キューバという国も確かな存在感を持って関与していたとうことがよく分かる筋立てになっている。キューバ目線からの近代史の良い復習になる。
本書はタイトルから両雄のパーソナリティや、二人の友情的なことが語られるのかと思ったが、その記述は少なく、キューバ革命に向けて意気投合してから袂を分かつまでの経緯は、意外とサラっとしている。それでも、キューバ革命を成功に導いたカストロとゲバラというカリスマの存在は、改めて見ても特筆すべきことだったのだろう。
「この革命は永遠だ」・・・映画BVSCは、街の中にあるこのプロパガンダを写しながら幕を閉じる。
「テロと難民を産み出す原因は、アメリカとヨーロッパが第三世界から搾取し、略奪をくり返すことによって貧困を加速するからであり、第三世界の貧困を喰い止めるための方策を何もとっていないことにある。このままでは、これら第三世界の国の人たちが先進国への移住を強いられるばかりで、その難民がアメリカとヨーロッパに押し寄せて、困るのはアメリカとヨーロッパなのである」
今から15年も前に発せられたカストロの言葉(2003年、イラク戦争時のブッシュ政権を批判しての発言)が、今以って真実味を増してきていることを見ても、カストロ、ゲバラ後も、彼らの想いを受け継ぎ、キューバ革命は継続されるべきであろう。
故に、“この革命は永遠だ”というのは悲しい現実でしかないのだけれど。