あらすじ
世界各国でファシズムの足音が響き始めている。国民を一つに束ねるファシズムが社会の不安定化を機に台頭してくるのは、近代以降の歴史で何度も繰り返されてきたことだ。その流れに抗するためには「ファシズムの論理」を正確に理解する必要がある。しかし、日本ではムッソリーニのファシズムとヒトラーのナチズム、そして戦前日本の軍国主義が同一視され、その違いすら理解されていない。佐藤優がファシズムの本質を解説する。
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ファシズム=悪という、単純化した先入観を改めさせてくれる。先ず、我々がファシズムをナチズムと混同している事に気付かねばならない。その上で、本著はファシズムの開祖的な存在でもあるイタリア、ムッソリーニの思想を教示してくれる。ムッソリーニと言うと、世界史を学校でしか学んでいない人間からすれば、どうしてもヒトラーの二番煎じ的存在として、尚且つ、第二次世界大戦でも早々と降伏し、またはチャップリンに揶揄された、中途半端な存在として認識してしまっている。先ず、この見方が変わる。その視点の切り替えから広がり、合理的であるが故に、人間を機械の一部とした資本主義や共産主義の問題点を説き、ファシズムの危険な魅力に触れる。
価値観が変わるという意味で、貴重な著書である。
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アメリカトランプ政権の白人至上主義的な「アメリカファースト」政策。
イギリスのEUからの離脱。
フランス、ドイツ、オーストリアをはじめとする欧州諸国での極右勢力の台頭。
筆者はそこに、「ファシズムが入り込んでくる可能性は十分に考えられる」と語る。
日本とて例外ではないのだと。
では、「ファシズム」とは何か?
多くの違った現象をひとくくりにしてレッテル貼りするような粗雑な理解では、20世紀ファシズムの持つ「魅力と危うさ、そしてその犯した過ち」を正確に評価することはできないのだと。
一般的にあまり知られることのない文献をもとに、ファシズムの本質を解き明かしていく。
そして、現代日本においては「中途半端なファシズムのなかに、本来のファシズムとは別種の危機や脅威が存在する」と説く。
併せて、「完全なファシズム国家」といえる北朝鮮への対応について思慮をめぐらせていく。
「同じ内容の話を違った視点から眺めて知識を積み上げていくことは、学びにとって非常に重要です。これまで身につけた知識と関連する話が出た際に、一度振り返ってみることで、学んだ内容が『重ね塗り』されます。ファシズムの内在的論理は非常に複雑なので、『器に何度も漆を重ねて塗る』ように知識を上積みしていかなくては、理解を正しく深めることはできないのです」
正しい知識とバランスある思考こそが、現在と未来を切り開いていく羅針盤となる。
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ファシズムとは「極右の国家主義的政治形態」ではない。
ムッソリーニのファシズムとは、「イタリアのたてに一生懸命働くのがイタリア人」。従って福祉制度とも親和性が高い。
日本人はファシズムには向いてない。文化的に。
大平洋戦争のときに明らか。
という大まかな内容。
難しい本だったが、トランプや安倍晋三を理解するに良い本。
何事もアレルギー的に拒否してもね。
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・現代のトランプ現象やBrexitという言葉を知りそこから行き着いたファシズムの概念についてわかりやすく解説してある本。政治に明るくない自分でも十分読める内容にしてくれている。
・またヒトラーのナチズムや第二次世界大戦後の経済的回復の背景にもファシズムが関わっているとわかり大変勉強になった。
以下覚書
・新自由主義的なグローバリズムが進行すればするほど、ファシズムへと接近していく。
・グローバル資本主義とファシズムのいずれにも陥らないためのシステムを描くと、私たちはユートピア主義に陥ってしまう。すなわちユートピアを目指した社会主義、共産主義、アナーキズム(無政府主義)がうまく行った例はない。
・本来のファシズムは第一次世界大戦後のイタリアに登場した失業や貧困、格差などの社会問題を国家が社会に介入することによって解決することを目指すものだったが、現在の日本ではファシズム=ナチズムを等号で結んでしまっている。
・帝国主義とは、巨大企業が国家と結びついて海外進出や植民地の拡大を図る列強の経済的、軍事的な膨張政策を意味する。
・経済的なグローバル化により、格差が拡大すると社会的不安が強くなる。そこでトランプ大統領のアメリカ第一主義やイギリスのBrexitに繋がった。これらは国家機能の回復を目指したものであった。
・ピケティの資本論で指摘がある通り、自然にしておくと貧富の差は広がっていく。それを是正するためには再分配が必要である。再分配には国家の介入か富裕層の自発的分配があるが、後者は非現実的であるため、自然と国家の介入の必要性に収斂していく。これは本来の意味でのファシズムにあたる行為である。
・ナショナリズム
民族主義
・ファシズムは資本主義と社会主義を一挙に否定する第三の道。
・バチカンはムッソリーニ時代のラテラノ協定によって成立した。
・パレート最適の考え方に従うと、資本主義が暴走して格差や貧困が拡大した場合、国家が経済に介入して社会的公正さを取り戻すべきであるという発想につながる。
・聴衆を支配するためには文節を決して中途半端にしない、文法上、正確な話し方であること、よく記憶に残る印象的で鋭いアフォリズム、安堵感を与える断定的な発言の連続。
・歴史の趨勢が物流戦であることは明々白々。しかし日本の生産力が仮想敵国の諸列強になかなか追いつきそうにない。日本はどこまで行っても持たざる国なのだから持てる国と正面きっての大戦争をやはりしてはいけない。
・特攻隊の心理として、天皇は日本国民の本質的であり、日本国民はその他であるから自分が死んでも天皇が生き残れば自分の本質は生き残るという考えがあった。
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元外交官の佐藤優が、ファシズムの由来についてイタリアのムッソリーニを取り上げて書いた一冊。
これまでファシズム=ヒトラーだと思っていたので、ムッソリーニについては全然知らず、勉強になった。
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ファシズムの発生の歴史から整理してくれ、似ている言葉たち(ナチズム、全体主義、国家主義)を立て分けて理解できた。
資本主義、社会主義といった固定化された考え方ではなく、流動的な考え方だと感じた。自由経済の中で景気によって、ファシズム的な発想が生まれやすくなっているので、現代を捉えるのに参考になる本だと感じた。
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ファシズムがナチズムや純血主義等とは異なることを語る一冊。
誤解されたまま嫌悪されるファシズムを正しく紹介し、その本質に対しての警戒を促しています。
他の体制と同じく、ファシズムには善悪が混在しています。
親和性のある主義・制度と良い点を合わせて使えば、ファシズムも有益なシステムになると思えました。
「一人は国家のために、国家は一人のために」も、決して間違いではないのでしょう。
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(自分を含め)「ファシズム」≒「ナチズム(独裁政治?)」ぐらいの認識である人は必読な良書。そもそも語源はイタリアのムッソリーニによる「ファシスト党」から来ているし、その歴史や世界観を学ぶことで理解が深まる。
そして「ファシズム」は帝国主義時代の歴史を学ぶ過去のものではなく、現代のいきすぎたグローバル資本主義に対抗する「新・帝国主義」時代に必要な教養である。もともとファシズムの世界観は、合理主義や個人主義、物質主義に対する反発から出現し、それらの精神は現代の資本主義社会にもそのまま当てはまる。
p.s. これを踏まえたうえで、村上龍の『愛と幻想のファシズム』を読んでみたいと思った。
Posted by ブクログ
ファシズムとナチズムの違い、特徴はわかった。さらに理解を深めるには経済体制を細かく学習する必要がありそうだ。学んだ上で再度読んでみたい。
イタリアファシズムを率いたムッソリーニが天才であることはわかった。