あらすじ
言葉の力で幕末の歴史を変えた男、頼山陽。自由闊達な売れっ子クリエイター、反骨の文筆家として文化・文政年間を鮮やかに生き、歴史書『日本外史』で国を憂える幕末の若者たちの心を尊皇へと傾けたひとりの男の人生を描ききった本作は、第27回新田次郎賞を受賞。高い評価を得たほか、天才を支えた家族の温かな描写で、多くの年配の読者から熱い支持を得た。この上巻では儒家として名高い父に反発して放蕩を繰り返す、若き青年・山陽の姿を描く。
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Posted by ブクログ
頼山陽は「風雲児たち幕末編」にもなぜか登場しない。本書が小説で頼山陽を描いた初出と思う。今後、これが人物像の基本になるだろう。上巻は、頼山陽が周りを不幸にしまくって、自己実現していくだけの話で、主人公視点だからまだ読めるが、被害者視点からなら、周りが彼を甘やかしているとしか見えない。特に玉蘊はかわいそすぎ。才能のある嫌な奴の話を不思議と読ませるのは、作者が女性であることと関係あるかも。男性作家ならもっと嫌な話になったと思う。この手の小説にありがちな、学識を誇示する蘊蓄の記述がないのも、ありがたい。
Posted by ブクログ
『日本外史』の著者である頼山陽を主人公にした歴史小説です。
上巻は、詩文で身を立てることを夢見る山陽が脱藩をくわだてて京都に上るもたちまち国元へ連れ戻されるという事件からはじまります。その後も夢をあきらめようとしない山陽は、みずからのうちにあって彼を突き動かす得体のしれない「石」を見つめながら、養子となるはずだった菅茶山のもとを飛び出して京都へ向かいます。
主人公である山陽の人物造形は、封建制度に反旗を翻して自由に生きようとする近代人であり、スリリングな展開が楽しめるエンターテインメント小説に仕上がっています。江戸時代の人間が「権利」ということばを使うはずがないといちいち目をむくような読者にはすすめられませんが、個人的にはおもしろく読めました。