あらすじ
2017年12月、第9回日経小説大賞(選考委員:辻原登、高樹のぶ子、伊集院静)を高い評価で受賞した小説「義と愛と」を改題、作品の舞台となった戦国時代の史実をタイトルにして世に問う本格歴史小説。
本作は戦国時代の有名な武将の戦や権謀術数を巡る物語でもなければ、下克上の物語でもない。主家に仕える重臣たちの内面を通して熾烈な勢力争いを繰り広げる戦国大名家の生身の人間ドラマをあますところなく描ききった点で新しい。大型新人のデビュー作である。
物語は、天文19年(1550年)、九州・豊後(現在の大分県)の戦国大名、大友氏に起こった政変「二階崩れの変」を、時の当主・大友義鑑の腹心、吉弘兄弟を通して描く。
大友家20代当主・義鑑が愛妾の子への世継ぎのため、21歳の長子・義鎮(後にキリシタン大名として名をはせた大友宗麟)を廃嫡せんとし、重臣たちが義鑑派と義鎮派に分裂、熾烈なお家騒動へと発展する。家中での勢力争いに明け暮れる重臣の中で、一途に大友家への「義」を貫いた吉弘鑑理と、その弟で、数奇な運命で出会った姫への「愛」に生きた鑑広を主人公に、激しく移りゆく戦国の世の武将たちの生き様を迫力ある筆致で活写していく。派閥争い、裏切り、暗黙の盟約、論功行賞、誰に仕えるか……それらを「義」と「愛」を貫き、筋を通した兄弟を通して描くことで、現代の組織と人間との関係にも通じる普遍的なドラマに仕上がっている。良質なエンターテイメント作品だが、組織人が読めばビジネス小説の側面も併せ持っているだろう。
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Posted by ブクログ
また素晴らしい歴史小説作家が現れてしまった……
鑑広がひたひたと死から逃れられなくなって行く様、愛してやまなかった楓の死。読んでいて、苦しく、哀しく、久々に本を読みながら泣きました。
最後の鎮信の「義は苦しきものなれど、弱きものではないやもしれませぬな」という言葉にも考えさせられた。愛か、義か。
シリーズ第2弾『 大友の聖将』も楽しみです。
Posted by ブクログ
「義」と「愛」で乱世を乗り越えることはできるのか?
大友二階崩れという九州の雄・大友家の内紛を題材に本テーマを描く。最後の吉弘家の改易沙汰にクライマックスを迎えるものの、物語自体に起伏はなく、鑑理と鑑広の人となりの描写がほとんどを占める。義を重んじる武士は大好きだが、鑑理の義は少しずれており、泣き虫で後悔ばかりのこの優男をどうしても好きになれなかった。「義」と「愛」は長い目で見れば「信用」や「同情」を生むものとして必要なものなのだろうが、やはり極論過ぎる感じがして、少しモヤモヤした結末だった。
ただ、赤神諒氏の書く文章、特に本作の動物や植物の情景描写はとても好きになった。P133「いく枚かの欅の葉が風に散り、音もなく長岩屋川の流れに消えていった」やP171「八面山の緩やかな斜面に咲く薊の棘のような言葉が、鑑理の胸を無遠慮に刺した」など挙げれば限りない。鑑広と楓を表現する「百舌の番」という表現こそが本作の最大の読みどころだろう。