あらすじ
家のために働きづめ、その挙句倒れて死んでしまった大切な父。その時母は浮気相手と不義密通を働いていた――。おしのが母をなじると、返ってきたのはおどろくべき言葉だった。「おしのちゃん、あなたの本当の父親はほかにいるのよ。」
母の不義を憎み、次々と母や、男たちに復讐を果たしながらも、不浄な血が流れている自身の存在に悩むおしの。最後の復讐相手、自分の本当の父親と直面したおしのがとった驚くべき行動とは――。犯した罪をどうやって償うべきか。サスペンス仕立てで語られる、罪と罰の物語。
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Posted by ブクログ
本書を読み終え、この物語が現代にも通じる普遍的な人間の資質に鋭く迫る傑作だと改めて感じました。
特に印象的だったのは、母・おそのの“放蕩”をめぐる描写です。彼女の行動は、当時の離婚をめぐる社会的な枠組み以上に、彼女自身の「性向や資質」ゆえの選択であったという視点が、物語の核にあるように思います。また、夫が「婿」という弱い立場であったことが、おそのの行動を止められなかったという描写は、当時の家制度の歪みを浮き彫りにする無視できない要素だと感じました。
そして、病床の父の「最後の言葉」が、娘・おしのの凄絶な使命をいかに決定づけたかという点は、示唆に富んでいます。おしのの行為は、単なる復讐ではなく「自分自身を消すための儀式」のようなものであり、現場に椿の花弁を残すことで「父の愛の守護者」として振る舞おうとした、と考えると、とても胸に響きます。
この物語を通して山本周五郎が残した問いは、時代を超えて私たちの心をも強く揺さぶるものだと改めて感じました。今年の二月にも舞台化されたように、名のある俳優が繰り返しおしのの役、そして被害者たちの役に挑むのも、まさにこのような普遍性の故でしょう。
大変刺激的で、深く考えさせられる読書体験でした。