あらすじ
文庫・50万部突破!!
連続テレビ小説「あさが来た」原案本
宮本輝氏絶賛!!
「読んでいて溜息をつくほどの
ひとりの女性の一念の凄さ、
そして鬼気迫る行動力!」
近代日本の夜明け。未だ女性が社会の表舞台に
躍り出る気配もない商都大坂に、溌剌たる女性がいた!
常に全力、七転八起を超える九転十起のがんばりで、
大坂の豪商加島屋を切り盛りし、命の重さに想いを馳せ大同生命を興す。
女性教育にも心血を注ぎ、日本女子大学の創立にも関わった
さっそうたる女性の一代記!!
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
幕末の「尊王攘夷派」「佐幕派」「公武合体派」の三つ巴の混乱の中に、商人ならではの戦いがあったことを知った。商人には、朝廷派だとか佐幕派だとかの政治的側面よりも、どちらに就くことが事業の存続につながり、どちらのほうが儲かるのか(損をしないのか)の判断が重要であり、つまりは先見の明が必要であった。
この難しい時期に、豪商三井から大阪の両替商「加島屋」に嫁いだ広岡浅子がこの小説の主人公。一言でいうならば女性剛腕実業家だが、ほとんど100%男性社会と言えるこの時代にあって、女性でこれだけのことを成し遂げた人物がいたとは驚きだ。
幕府による政権、廃藩置県、明治維新、西洋の経済の仕組み導入、新政府の強引な負債解消政策、これらのあおりで、これまで強制的に資金調達命令に従わされてきた豪商たちは、勝手気ままな新政府のやり口の為、莫大な貸付金を帳消しされたり、約束を反故にされて利益が得られなかったりで、よほどの体力がない限り倒産に追い込まれていった。
そういう状況の影響をうけて、大手両替商である加島屋も、財政的な危機的状況に追い込まれる。これが加島屋の経営を切り盛りすることとなった浅子の最初の障壁である。
商才ある浅子は、加島屋の財政再建のため、蒸気機関の動力として必要となる「石炭」の将来性に着目し、筑豊炭田の炭鉱買収に全精力を費やし、炭鉱で加島屋の経営再建に賭ける。
買収した筑豊の炭鉱の男衆から、女経営者ということで軽く見られバカにされるが、毅然と立ち向かい、最終的には工夫たちの信頼を勝ち取る。その全身全霊で壁に立ち向かっていく姿が感動的なのである。
浅子はその後の人生も同様に誰もが不可能と思えるような課題や目標を、信念と実行で切り拓いていく。「九転十起」が浅子の異名であるゆえんである。
自身の幼少期から懐いてきた矛盾の一つ「女性に学問の機会均等がない」ということがあった。成瀬仁蔵との運命的な出会いにより、それを日本女子大学創設という形で実現しようとする。
目の前にはだかる資金調達の大きな壁に対し、今でいうクラウドファンディングのアナログ版と言えるだろうか、すなわち持てる人脈を一人一人地道に足で歩いて交渉し賛同を得て、資金を集めるというとてつもない労作業を買って出る。これもシナリオ通りにはいかず、それでも最後まで諦めない精神が、硬い壁を打ち破るのである。
難波銀行破綻に伴う経済恐慌のあおりをうけ、加島銀行も倒産の危機に巻き込まれていく。風評被害がさらにその状況の悪化を加速していく。経営破綻を恐れる銀行は、預金者の集中的な預金引き出しを制限し、それが庶民の不安をあおり、益々経済恐慌がスパイラルしていく。その歯止め、銀行の信頼維持のため、浅子は預金引き出しを実行する決断をするが、そのために考えた大口預金者獲得というプランの難航に、これまた苦悩のどん底まで落ちてしまう。
そこに現れた救世主は渋沢栄一であった。金融業界の危機は国家経済の危機、政府が放置しておくはずはないという渋沢の大局的な助言を信じ、これまで行ってきた地道な預金者獲得の歩みを貫き、渋沢の予想通り為された日銀の金融政策に状況が一転し、浅子の地道な活動が一気に実を結び始めた。またしても捨て身で現実と戦う浅子の信念の活動が、大逆転をもたらすこととなった。
浅子は、自らの乳がんをものともせず事業に打ち込み、病もその勢いに収まっていたが、晩年徐々に進行してきた。浅子の最終事業の一つとして、大同生命の社屋移転(土佐堀川肥後橋前への移転)の大事業があったが、このビルディングは加島屋の事業の大成功、そして広岡浅子の生涯を通じての成果の大きさを象徴するかのような巨大かつ近代的な大阪一のビルディングであった。
病んだ体を最期の精神力で超越しながら、このビルの完成祝賀会に出席し、挨拶を終えたあとに倒れこむ浅子の最後まで全力でことを成し遂げるシーンは感動的である。
その挨拶の内容が、広岡浅子の人生を物語っている。
「うちは、どんな困難に出遭おうとも、いつもこれからが本番や思うてやってきました。生涯が青春のような気いで、事業に取り組んできました。これからも加島屋のために、大阪の実業界のために烈々たる気概でいこうと思うてます。本日はほんまにありがとうはん、本日はほんまにおめでとうはん」