あらすじ
どうか僕から逃げないでくれたまえ。
そして僕の友情だけなりとも受け入れてくれたまえ。
僕が独りで思っている、せめてもそれだけの自由を僕に許してくれないだろうか。
乱歩が遺した最高傑作にして唯一の同性愛小説!
挿画:咎井 淳 (Guilt|Pleasure)/監修:平井憲太郎
収録作品:孤島の鬼
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
ミステリーでもありサスペンスでもあり、終盤は冒険小説のようでもあり、大変面白かった。
退廃的な雰囲気あり、グロあり、不具者の表現ありで現代ではもう醸し出せない乱歩ワールドにどっぷり浸かりました。そしてBL乱歩と銘打って出されてるだけあって、その乱歩ワールドに加えての道雄と箕浦の関係性に悶えました。
箕浦、君は天性のタラシなのか…小悪魔通り越して大魔王的な言動だったよ…
序盤は密室殺人、衆人環視下での殺人、そして暗号と詰め込まれていて、その謎解きも楽しい。
伏線も綺麗に回収して、すっきり終わるのだけど。
だけど、だけども。
最後切なすぎる。
幸せな自分と秀ちゃんの傍に道雄を呼ぼうだなんで、最後まで箕浦が鬼すぎて泣ける。
Posted by ブクログ
すごく面白かった。
江戸川乱歩作品、きちんと読んだのは初めてだったけれど、序盤からしっかり惹き込まれて、最後までずっとハラハラゾクゾクさせられた。
面白かったし、読みやすかった。
現実離れした内容でありながら、実際に起こりうるかもと納得させるだけの説得力があって、どうしてこんなことが思いついて文章にできるのか、本当に天才だと思った。
主人公の蓑浦、おそらく綺麗な美青年で周りの人がつい惹かれて近づきたくなってしまう。
本人もそれをうっすらと自覚していながら、自分に心地よい状況をそのままにしていて、子どものような無邪気さと好奇心、甘えが見える。
実際にいたら本当に愛らしくて魅力的だろうなと思う。
悪いやつでは決してないけど、本当に無邪気に人を惹きつけて狂わせることができる素質を感じる。
諸戸は恵まれた才を持ちながら、こんな蓑浦にずっと好意を抱いて、いわゆるキープみたいな扱いもされ、決して実らず、生い立ちも相まって本当に不遇だ…。
最初と最後に出てくる文言に、最後ぐっと心を掴まれた。諸戸……。
とても面白くて読んでよかった。他の江戸川乱歩作品も読みたい。
Posted by ブクログ
▼あらすじ
どうか僕から逃げないでくれたまえ。
そして僕の友情だけなりとも受け入れてくれたまえ。
僕が独りで思っている、せめてもそれだけの自由を僕に許してくれないだろうか。
***
江戸川乱歩に興味こそあれど買って読むまでにはなかなか至らなかったのですが、今回、あのITWシリーズでもお馴染みの咎井淳先生が表紙イラストを担当した事もあってファンとしては買わずにはいられず、良い機会だと思って傑作集1~3まで予約して買い揃えました。
こちらの『孤島の鬼』は“BL乱歩”と紹介されていた事もあってシリーズの中でも特に気になっており、主人公に恋心を抱く諸戸諸戸が咎井先生の手によりまさに眉目秀麗と言うに相応しいビジュアルで描かれ、主人公の方も諸戸に引けを取らぬ美しさで描かれていた為、BL好きとしてはその暗澹たる表紙の雰囲気に嫌な予感を抱きつつも非常にワクワクしながら本を開いたのですが…案の定、読むのに少し苦労しました(笑)
今では使えないであろう漢字や差別的な表現が多く、当たり前ですが現代の小説とは勝手が少し違うので、出だしは正直なところ微妙な感じだったのですが、それでも中盤からガラリと雰囲気が変わり、それから徐々に不気味さと謎が増して面白い展開になって行き、最後の方は常にハラハラしっぱなしで早く結末が知りたいと思いながら読み耽っていました。
中でもやはり、諸戸の存在は大きかったですね。
あらすじを読んだ時は諸戸が犯人だと思っていて、それが違うと分かった後も実は犯人サイドなんじゃないかと一抹の疑いを拭い切れずに最後の方までちょっとだけ諸戸を心のどこかで疑ってたりもしてたんですが、諸戸は最後まで蓑浦側の正しい人間で安心しました。
BL好きとしてはどうしても諸戸に肩入れしてしまうと言いますか、諸戸がなまじ健気で報われない片想いをしているものだからつい応援したくなってしまうんですよね…諸戸、頭も容姿も抜群のイイ男だし…(笑)
反対にそんな諸戸の恋心に気が付きながらも都合の良い時だけ利用するように甘えたり頼ったりする蓑浦にはノーマルだから仕方が無いと分かっていながらも、諸戸に対するその冷たくも思える仕打ちや差別的な見方にムッとする場面もしばしば。
特にこの作品で一番印象深かったのは洞窟のシーンですが、もう死を待つしかないような絶望的な状況下で本気で迫った諸戸を蓑浦が全身全霊で拒絶するシーンは、何だかなぁ……と。
諸戸の知恵と支えがあったからこそここまで来れたのに、そんな諸戸に気遣いも出来なければ、優しい言葉の一つだってかけてやれない蓑浦の性格にいよいよ作品の趣旨も忘れて本気で腹が立つほどでした(笑)
更にラスト、全ての問題が解決して物語が良い方向へ進む中、諸戸だけがあっさり病死ってそんな仕打ちあんまりじゃあないですか……。
しかも蓑浦からの手紙を抱きしめながら蓑浦の名前だけを呼んで亡くなるって…。
諸戸があまりにも可哀想で読み終わった後、何とも言えない後味の悪さが残りました。
“同性愛小説”、“BL乱歩”と謳い、それを期待して読むとおそらく私のようにとにかく諸戸に感情移入してしまい、結果、そのあまりにも徹底した報われなさに途方もなく落ち込んでしまわれる方が殆どかと思います。本当に切ない…。
時代背景が違うのですから同性愛に対する考え方や風当たりが今と異なっているのは
当然ですし、そもそもこれはBL小説ではないので、諸戸の扱いに不満を言うのもどうかと思うのですが…それでも私は、彼の幸せを考えずにはいられないのです……。
正直、茫然自失となるラストでしたが、忘れたくても忘れられない作品となったので評価は★5です。
死ネタが苦手な方には注意が必要な作品ですが、とにかくストーリーは読み応え抜群なので是非とも色んな方に読んでいただきたい作品の一つです。
Posted by ブクログ
江戸川乱歩は全作読破したわけではないけれど、元から読みやすいので好きでした。そこで、リブレ出版で咎井淳さんが表紙を手掛けた新装版だと聞き、悩みもせずに買った珍しい本。
江戸川乱歩の「芋虫」は有名で、一度傑作選で読んだことがあったので、それに近い雰囲気を纏った作品。ミステリーやホラーのテイストを持ちつつも、諸戸や箕浦の感情の揺らめきの方が印象に残る。
どうか僕から逃げないでくれ、と懇願する諸戸に対し、箕浦は身体を這いずりまわられるような恐怖に拒絶することしかできない。だが箕浦も友人として、頼れる存在として諸戸を信頼していることを否定できない。諸戸はそれに縋りついて、彼に受け止められなくとも想い続けている。まさに身を焦がすような情欲に身悶えし続けている苦行だ。
彼の執念は蛇のように箕浦を離さない。まるで献身的な言動の裏に、箕浦が端々に感じる恐怖は、はたして諸戸が意図していたものだろうか。
そうでなくても、箕浦にとっての鬼は、丈五郎だけではなかったはずだ。
Posted by ブクログ
諸戸が簔浦に向ける恋情や執着にどきどきしながら読みました。
双子の身にあった事など目を背けたくなるようなシーンもあったけれど読み進めるのを止められませんでした。
2人が井戸に入って以降は閉塞感があり怖かった。閉所恐怖症になりそうです:(´◦ω◦`):
Posted by ブクログ
江戸川乱歩は初めて。
まず序盤から、諸戸と主人公の関係が妖しくてドキドキする。退廃的でアングラで、京極夏彦みたいな作風の祖なのかな、とか思っていたら、哀しい恋の話だった。
私はずっと諸戸が黒幕ではないかと疑っていた。
研究していくうちに生き物の体を弄ぶ楽しさに溺れ、親父と同じことをしようとしていたのではないか、とか、秀ちゃん吉ちゃんのように自分と蓑浦をくっつけようとしていたのではないか、とか。
だから意外とあっさり島の事件にカタがつき、気楽な後日談になり、すっかり油断していた。そこを射抜いてくるラストは切れ味鋭い。
主人公は無邪気で残酷だ。
諸戸の愛は拒みつつも、ずっと思わせぶりである。弱さを盾に、都合の良いときだけ諸戸に頼り、甘える。初代を失ってすぐに秀ちゃんに切り替え、最後にはちゃっかり財宝も手にするしたたかさもある。
激しい恐怖から、主人公の髪は真っ白になった。
その理由が、死の恐怖と諸戸への恐怖のどちらであったかのは明言されない。
しかし主人公は、諸戸の髪は白くならなかったのは、諸戸の方が強い心の持ち主だったからだろうと推測している。つまり、主人公と諸戸の共通の体験が原因になったということであって、つまりは死への恐怖のほうが原因だったのだと考えられる。
作者は、いかに恐ろしい体験をしたかを繰り返し匂わせ、ハードルをがんがん上げる。
そのわりに、いざ明かされると拍子抜けだ。あくまで、弱い蓑浦から見た激しい恐怖だったのだ。いや、洞窟で死にかけたら当然怖いだろうが、探偵ものや冒険ものとしてはありそうな話で、上がりに上がったハードルを越えるレベルではない。
それはおそらく、作品の最大の見せ場がそこではなく、あの哀切なラストだからだろう。
タイトルについて考える。
「孤島の鬼」とは誰なのだろう。
①丈五郎
②秀ちゃん吉ちゃんら、人造の身体的マイノリティたち
鬼畜の所業をしていた丈五郎のことだと考えるのが自然だろう。
また、丈五郎に造り出された身体的マイノリティたちもまた「孤島の鬼」だと読むこともできる。人外境とも表現されているとおり、孤島自体がこの世のものではないような雰囲気がある。そこに住む身体的マイノリティたちも、体のつくりが「大半の人間とは違っている」という意味で、作者が「鬼」と表現していたとしてもおかしくはない。
そしてこの②の意味、つまり「鬼」という言葉が「大半の人間とは違っている」という意味で使われているとするならば、性的マイノリティである諸戸もまた「鬼」なのではないか(言葉の使い方の是非の問題はあろうが、ここではおいておく)。
諸戸の思いは永遠に届かない。諸戸は主人公から断絶こそされないが、ずっと孤独だ。対岸は見えているのに隔絶された、孤島のような寂しさだ。
丈五郎は、気が狂う。結果、悪魔の所業をやめることができて、ある意味彼は救われている。身体的マイノリティたちも解放され、主人公と秀ちゃんに養われる。ひとりだけ、最後まで救われなかった孤独な「鬼」がいる。
「孤島の鬼」は、ミステリのていをとった諸戸道雄の物語なのだろう。少しオペラ座の怪人と似ているかもしれない。
主人公の白くなった頭髪を見て、諸戸は泣きそうな顔をした。秀ちゃんとの結婚は邪魔をしなかった。その心を思うと辛い。
Posted by ブクログ
恥ずかしながら江戸川乱歩の小説をほとんど読んだことがなかったため、咎井さんの美麗な表紙だし良い機会だと思い購入しました。
内容はやはり凄い、の一言しか出ませんでした。ここまでの展開を頭の中で考えて文章にできるというのが、常人ではないなと思います。乱歩小説に対してはおどろおどろしい血なまぐさいイメージが先行して、あまり率先して手をつけようと思わなかったのですが、これを機に読まず嫌いをやめて読んでみようと思います。
BL的な観点ですが、勝手に想像して「諸戸が箕浦さんに関わる人間を全員消して、僕だけを見てください系ヤンデレ化する話なのかな」と思っていたので、話の顛末には驚きました。箕浦さんがノンケで自分を愛さないことを聡明な諸戸が理解していないはずはないし、それでも友情を続ける精神力と異常なまでの箕浦さんに対する愛情を考えてみると、諸戸って凄い一途な男ですよね。しかも長い付き合いの中で、あの洞窟で理性がぶっ飛ぶまで一度も行為に及ぼうとしなかったとこらへんも、諸戸がどこまでも紳士的で箕浦さんを大事に思っていたかを表してます。死ぬ時までもずっと箕浦さんの名前を呼び続けていたという最後の文章に少し切ない気持ちになりました。
それに対してどこまでもノンケの姿勢を崩さない箕浦さんもなかなかだなあと思います。所々、諸戸のことを意識する場面も出てきはしますが、あくまで彼の情欲とは結びつかない。頭脳明晰で容姿端麗な諸戸が自分のことを盲目的に愛している、という事実が箕浦さんにとっては得意に感じる部分ではあるかもしれないけれど、結局のところ自分の肉欲には一切関係がないというのが本当にノンケな気がします。自分は秀ちゃんと一緒になって、近くの病院の院長に自分に恋焦がれているはずである諸戸を選ぼうとしていたところからも、一時襲われそうにすらなったのに箕浦さんには諸戸の感情に応える気は一切ないのだな、というのが伺えます。そう考えると、一生自分の恋する男が違う女と仲良く生きていくのを見続けるよりは、二人しか世界には存在しないとある意味では幸福に思えるような経験をしたことを胸に病で死んでしまった方が、諸戸にとっては幸せだったのかもしれません。
しかし個人的には、箕浦さんが諸戸と二人きりになった時、どちらかが異性になったように感じると言っていた描写がめちゃくちゃ萌えました。罪深い腐女子の業です。
ここまで長々と書きましたが、あくまでBLは話を構成する一要素で、それだけが全てではないことは頭に留めておくべきだと思います。