【感想・ネタバレ】ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望かのレビュー

あらすじ

イギリスのEU離脱、反イスラムなど排外主義の広がり、トランプ米大統領誕生……世界で猛威を振るうポピュリズム。「大衆迎合主義」とも訳され、民主主義の脅威と見られがちだ。だが、ラテンアメリカではエリート支配から人民を解放する原動力となり、ヨーロッパでは既成政党に改革を促す効果も指摘される。一方的に断罪すれば済むものではない。西欧から南北アメリカ、日本まで席巻する現状を分析し、その本質に迫る。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ポピュリズムという概念が近年急速に広まり、現在ではかなり人口に膾炙している感がある。しかしながら、トランプの強烈なイメージが先行し、その厳密な意味や変遷が必ずしも正確に解されているとは言い難い。本書を通じてポピュリズムの出自や変遷、そして現在地の一端を垣間見ることができた。ポピュリズムといわれると、どうしても極右やネオナチといったイメージが付きまとうが、現代の主要なポピュリズム政党は、リベラルな価値を全面的に受け入れたうえで、移民排斥や反イスラムといった主張を展開している。

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2021年10月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ポピュリズムは民主主義と対照的な関係ではなく、むしろ民主主義の追求が純化したものであることがわかった。代議制民主主義によってエリートの政治になっているのを取り戻すための直接民主制の希求が見られた。
ただ、エリートの領域は必ず民主主義に必要であり、極端な直接民主制は、
非合理的な意思決定や無知による政策ミスなど起こってくるんだろうと感じた。
コロナへの反知性的な大衆の反応を見るとますます国にはエリートだけで決めてもらう部分が必要だと感じた。

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2020年03月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

かつてポピュリズムは、少数派支配を崩し、デモクラシーを支える解放の原理として出現したが、現代では排外主義と結びつき、抑圧の論理として席巻しているようである。
ポピュリズムとは、①固定的な支持基盤を超えて、幅広く国民に訴える政治手法、②人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動をいう。
その特徴としては、民衆と直接対話するカリスマ的指導者の存在が挙げられ、党内手続きや、ポリティカル・コレクトネスといった政治的配慮に縛られる既存の政治家や官僚とは一線を画している。また、支配層のイデオロギーや価値観が変われば、ポピュリズムの主張も合わせ鏡のように変わるため、イデオロギーは比較的薄いのも特徴である。
ポピュリズムとデモクラシーの関係であるが、ミュデとカルトワッセルの検討によれば、前者は後者の発展を促す場合もあれば、後者の脅威として作用することもある。
ポピュリズムは、政治から排除されていた集団の政治参加を促進したり、サイレントマジョリティに政治参加の機会を提供したりすることで、民衆の参加を促す。また、重要な課題を経済や司法の場に委ねるのではなく、政治の場に引き出すことで、人々が責任を持って決定を下すことができるという点でデモクラシーの発展に寄与する。
一方、ポピュリズムは、味方と敵を峻別する発想が強いことから、政治的な対立や紛争が急進化する傾向がある。また、立憲主義において重要な制度や手続きを軽視しがちになる。
野党としてのポピュリズム政党の存在は、排除されてきた集団の政治参加を促し、かつ既成政党に緊張感を与えることで、デモクラシーの質を高める。一方、ポピュリズム政党が政権を握った場合、特にデモクラシーが定着していない国では、立憲主義を否定して権威主義的統治を断行することで、デモクラシーの質を貶める危険がある(例えば、クーデターにより憲法を停止したペルーのフジモリ政権)。
ポピュリズムの歴史は19世紀末のアメリカに遡る。ポピュリズム政党として誕生した人民党は、寡頭支配に対抗して、累進課税や自由公正な選挙の実現、労働規制などを掲げ、後の政治運動に影響を与えた。特に、植民地支配の続いたラテンアメリカ諸国では、寡頭支配層(オリガルキア)への不満と彼らの権力の源泉である自由貿易体制が世界恐慌によって瓦解したことを契機に中間層出身のリーダーが政治の表舞台に躍り出ることになる。
現代においては、冷戦の終焉、グローバル化、EUの統合により政党間距離が狭まったことで、ポピュリズム政党は既成政党を同じ穴の狢とみなし、有権者の不満を引き受けることに成功しているのである。
以上のように、ポピュリズムを様々な視点から考察すると、以下のような場合分けができよう。ラテンアメリカにおけるポピュリズムは、労働者や貧困層を基盤とし、社会改革を求める解放志向(左派ポピュリズム)を持っている。一方、現代ヨーロッパのポピュリズムは男女平等や政教分離などのリベラルの守り手として、デモクラシーの立場から国民投票を通じて、移民・難民の排除を柱とする抑圧的な傾向(右派ポピュリズム)が顕著である。すなわち、前者は富裕層を批判して「分配」を求めるが、後者は既存の制度による再分配によって保護された層を特権層とみなし、その特権層を引きずり下ろすことを訴えるのである。したがって、一括りにポピュリズムを論ずることは軽率であり、そこには魅力と危険が潜んでいるのである。

ポピュリズムの両義性やデモクラシーとの関係について、場合分けされていたのが興味深い。
ポピュリズム政党が各地で誕生する契機を世界情勢を踏まえて論理的に示しており、政治だけでなく、社会や文化の勉強にもなるといえよう。

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2018年03月10日

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