あらすじ
1935年、20歳の柴田彰は活動写真の俳優を夢見るが、大工の父親は猛反対し勘当されてしまった。家を飛び出しオーディションを受けるが箸にも棒にもかからずあえなく挫折。だが、人手不足だった日独合作映画「新しき土」の特殊撮影助手の仕事にありつく。主任の円谷英二の情熱に触れるうち彰も仕事にのめり込み映画は見事に完成。ベルリンにも運ばれ、映画で人心の掌握と扇動を狙っていたナチス宣伝大臣ゲッベルスの心に刻み込まれる。日本は41年、ついに太平洋戦争に突入。軍部の要請から戦意高揚をねらった映画「ハワイ・マレー海戦」が製作されることになり彰も特殊撮影で参加。この作品もベルリンに運ばれ、丁度イギリスの権威を失墜させる為に映画「タイタニック」を製作したが、どうしてもクライマックスの沈没シーンが上手く撮影できないことを悩んでいたゲッベルスが目をつけ、彰がドイツに招聘されることになる。環境の違いから撮影は苦戦。日本に残した妻子を想う柴田だったが、ベルリンは戦火に……。意外すぎる歴史秘話に基づく、一気読みと感動必至の傑作エンタメ小説。
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Posted by ブクログ
最初から最後まで面白かった。
ヒトラー、ヒムラー、ゲッペルズなどナチスの歴史上の人物と、円谷英二、原節子など実現した日本人が出てくる。
主人公の柴田彰は俳優志望もうまくいかずに特撮の道へ
戦前戦中戦後のリアルな描写が戦争の物悲しさを伝えてきた。
本当に日本軍は勝っているのだろうか…という
作中に出てくるハワイ・マレー沖海戦は現実に映画にもなっていて、Wikiを見たら寒天も本当に使って撮影していたそう。
彰がタイタニック号沈没のためにナチスにわたり、沈没のための道具を集めるところページにすると数ページだがここが一番盛り上がった。
寒天の用途も知ることができ、輸出制限がかかるというのがどういうことなのかわかった。
終盤はページをめくる手が止まらないが、進めたくない時間が続く
最終的に大泣き。
とても好きな作品。
Posted by ブクログ
本当に面白いと、何から書いていいかわからなくなる。
全てが良かった。
映画に詳しくないので、時折出る名作と思わしきタイトルを聞いても分からないのが少し残念。
知識って、小説や映画、漫画、いろんなものをより楽しむために必要なんだな。
Posted by ブクログ
最近の松岡氏の作品は、近代史もの・史実に基づく話になり
『黄砂の籠城』は読むのはかなりつらく
『生きている理由』は冒頭でやめてしまいました。
そもそも歴史小説は苦手なので、松岡氏の作品でなければ見向きもしてないはず。
本作はタイトルからして、ヤバそうだし…としばらく躊躇してましたが
読み始めたら一気読みに近かったです。
ヒトラーに円谷英二、原節子、と有名どころの方が登場します。
円谷英二の下で特撮技術を学んだ柴田は、タイタニック号沈没のシーンを撮るためにドイツに呼ばれ
…どこまで史実で、どこからフィクションなのかわかりませんが…
この戦争で、ドイツ、日本、長崎がどうなるかわかっているだけに
「それはヤバいヤバい」と思いながら読みました。
Posted by ブクログ
反戦と日本の特撮技術・円谷英二讃歌を高らかに。面白かったです。
実話が元になっているようですが、どのあたりなんだろう…どのあたりでも凄い。日本の特撮技術がナチスドイツの目に止まって、青年が単身渡独して映画製作に携わる。柴田彰くんも劇的だけれど、ナチス党の宣伝担当ゲッベルスの状況もなかなかキツイな。不憫には思うけどかと言って彼は悪くなかったとはなりませんが。
逮捕されてしまうので表立って政府に反抗することは出来なくても、それぞれの戦い方で戦ってたんだなぁ。セルピン監督もシュテファンやランベルト、トラウゴット、円谷英二も。柴田くんはかなり流されて生きてる気がしましたが彼らの思いはちゃんと染み込んでいる。
圧倒的な映像を作ったら、現実で同じ事を起こさなくても同じような、またはそれ以上の効果はある。圧倒的な映像は、国を越え、どんな立場や考え方の人たちの心も動かします。事実を元にしたフィクション映像だけれど、『ハワイ・マレー沖海戦』を観てるヒトラー、ゲッベルス、ヒンケルのシーンは映像に魅了されてるのがよくわかりました。
ドイツの宿舎?が長崎にあるので嫌な予感はしたけれど、危惧したとおりにならなかったのが良かったです。長崎に行ってなかった理由も納得でした。
フィクションは現実ではないので表現に目くじらを立てるのも違うけど、現実をフィクションのように捉えて過小に感じてしまうのもまた弊害だなぁと余計な事も思ったりしました。
東宝=東京宝塚。
Posted by ブクログ
映画タイタニックが作られる以前に、思想戦略としてドイツでこの映画が作られていた。それには日本人柴田彰が関わっていた。俳優になりたいという夢を抱き志すが、現実は厳しく特殊撮影班というなんとも地味な裏方作業に従事することとなる。そこでは、日本軍を主役としたマレー沖海戦などの映画を模型のみで撮影するという仕事を行なっていた。
一方、ドイツでも低予算で国民の思想を操作できるようにと、タイタニックの映画化が企画されるが、タイタニック沈没の場面がどうも上手く撮影できない。
そこで、日本映画を参考に日本から支援を依頼する。たまたまドイツ語を少し話せて、社会的地位も高くない彰が選抜され有無を言わさずドイツへ向かう。
日本では寒天で海原を表現したが、寒天は輸出禁止となっておりドイツでは手に入らないという壁にぶち当たる。しかし、コッホ研究所に北里柴三郎がいたこともあり、寒天培地用の寒天を譲受け、実現する。そのほかにも、壁の落書きを映像上消してみせろという難題も彰はこなしていく。
模型で作って撮影することにやりがいを感じつつある彰であったが、実際には模型ではなく実在の人間が多く犠牲になっており、壁の落書きを消して映像化できてしまったことが、後に捕虜を輸送する船を自国がわざと沈没させた際に赤十字の船であったと主張することとなる。
日本も外国もどちらがより強いかを嘘の情報で競い合い、家族のいる長崎に原爆が投下された時も、嘘だろうと信じられなかった。
2021/03/07 12:28