あらすじ
夫を突然亡くしたアイルランドの専業主婦、ノーラ、四十六歳。子供たちを抱え、二十年ぶりに元の職場に再就職したノーラが、同僚の嫌がらせにもめげず、娘たち息子たちとぶつかりながらも、ゆっくりと自己を立て直し、生きる歓びを発見していくさまを丹念に描く。アイルランドを代表する作家が自身の母を投影した自伝的小説。
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Posted by ブクログ
年頃が近いからだけでない深い共感と、感情抑制への敬意。連れ合いの死の喪に3年は長いか短いか。SNSのある時代にこれを読む不思議。いや、今だからこれが小説としての力を持つのか。
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コルム・トビーン。アイルランドを代表する作家だそうだ。ノーベル賞の下馬評にも名前が挙がっているとか。はじめて読んだのだが、こういう作家さんがノーベル賞をとってくれたら嬉しいなあと思う。
『ノーラ・ウェブスター』は自伝的小説だそうである。主人公は作家の母と同じく46歳で夫に死に別れ、父の死後、吃音症になった息子は作家本人に重ねられる。
それまでは世の煩いごと…お金を稼ぐということから、小さい村での人づきあいまで…を人望の厚い教師だった夫にたのみ、それを「自由な生活」だと居心地よくおさまっていたノーラ。夫の死からすべてが現実的に彼女の双肩に乗ってきた。
頭の切れそうな妹には「言いたいことが何もない人間だ」と思われている、と自覚していたノーラだが、本当はそんなことない。次第にその深い洞察力と観察眼が表に出てくる。
夫の死後、上の娘たちは社会への一歩を踏み出し、息子たちは思春期という難しい時期にはいっていく。目も手もかけねばならないこの子たちを、ノーラの妹たち、おば、亡夫の兄姉が気持ちよく手助けする様子がよい(ときに『違うんじゃないか』とノーラは思っちゃうところも)。ノーラの周囲の人たちの個性が良くも悪くも、丁寧に書き込まれている。ここにはいない夫ですら、その人となりが伝わる。
夫の死からの数年、少しずつノーラにあらわれる変化をつぶさにとらえた、ただそれだけといえばそれだけの物語なのに、胸の奥深くに残る、忘れがたい作品だった。
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舞台は1960年代後半のアイルランドの保守的な町エニスコーシー。夫を亡くし空虚な日々をおくる40代半ばの主人公ノーラの心の変化が静かにゆっくりと内省的に綴られる。「秋から冬にかけての数ヶ月間、彼女の目標は、息子たちのために、そしておそらくは自分自身のためにも、涙をこらえることだった。」"Her aim in those months, autumn leading to winter, was to manage for the boys’ sake and maybe her own sake too to hold back tears."
モーリスの生前、ノーラは自分の役割を理解し果たしていたが、夫の死とともに自分のアイデンティティが消えかけていることに気付く。それでも以前働いていた会社に再就職し、髪を染め、ローリーに歌のレッスンを受けグラモフォン友の会に入ったりしている内に空虚な心は新しい生活の彩りに満たされて行く。ドラマチックな展開もないまま物語は淡々と進み終わる。小津安二郎の映画を観ているように喪失感の中の微かな喜びが心に沁み入って行くのを感じながら本を閉じた。
「これがひとりぼっちか、とようやくわかった。モーリスの死の衝撃がときおり、自動車事故のように全身を襲うことがあったが、それとは別種の孤独。今ここにあるのは、人混みの海原を錨を下ろさずに漂流するような孤独だ。心が奇妙に空っぽになって途方に暮れた。」"It was not the solitude she had been going through, nor the moments when she felt his death like a shock to her system, as though she had been in a car accident, it was this wandering in a sea of people with the anchor lifted, and all of it oddly pointless and confusing."
Posted by ブクログ
なんか、こう、女の強さと弱さとしたたかさと脆さがいい塩梅で描かれていて、なにも取り繕ってない感じが素敵でした。
女の嫌なところ、素敵なところ、だめなところ、良いところが、所狭しと詰まってました。
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地味な物語である。夫を失った46歳女性が4人の子と一緒に生活を立て直す話なのだが、これといってドラマチックなことは起こらない。全てがちゃんと時間をかけて少しずつ変化していく。関係が消失するということは、守るべき義理やしがらみのような制限もなくなり、自由になることでもある。また、主人公がわりと人を突っ放したような性格で容易には共感できないのもすごい。音楽に出会ってからの活きいきした描写は読んでいて楽しい。
Posted by ブクログ
夫を亡くしたノーラの3年間。
お金のこと、仕事への復帰、子どもたちのこと、親戚のこと、政治、音楽。考えなきゃいけないこと、やらなくてはいけないことがたくさんあった。
3年なんてあっという間だということが驚くべき筆致で描かれている。(ヨーロッパ的な節目に疎いせいもあるのだろうけど、一回忌などもしないし、そんな感傷にひたるひまもノーラにはないので、恐るべきスピードで年月がすすむ。読み終えた時、はじめてこれで3年も経ってしまったの?と感じるのだ。)