あらすじ
一世紀前、武者小路実篤を中心として「新しき村」が創設された。戦争や暴動など国内外が騒然とする時代にあって、「人類共生」の夢を掲げた農村共同体は、土地の移転、人間関係による内紛、実篤の離村と死没など幾度も危機にさらされながらも、着実な発展を遂げていく。平成以降、高齢化と収入減のため存続が危ぶまれるなか、世界的にも類例のないユートピア実践の軌跡をたどるとともに、その現代的意義を問い直す。 ※新潮新書に掲載の写真の一部は、電子版には収録しておりません。
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Posted by ブクログ
武者小路実篤が「新しき村」なるものを主宰していたというのは中学の文学史とかで知ったんじゃないかな。それがいまでも続いていると知ったのはこの本の存在を知ったここ1~2年のこと。ちょうど新しき村開設から百年の年にできたこの本は、その百年を追っている。
前半は武者小路実篤その人の紹介に一定の分量が割かれている。曰くだいぶ楽天的・独創的な人物だったよう。新しき村もそんな性向から生まれたものなんでしょうかね。でも、「武者小路実篤がつくった」といわれながら彼がそこで生活したのは最初の数年だけ。無責任なもので、結局は彼の酔狂に巻き込まれた彼の信望者たちが百年守り育ててきたコミュニティというのが真実の姿だと感じた。
細々と続いてきたのかと思いきや意外にも全盛は1970~1980年代前半くらいらしい。ところが、その後一気に村人たちが減り高齢化の波が押し寄せたり、さまざまな社会の波のなかでもがくようになってしまう。なかにはポストモダンの観点から思い切った建て直しを図ろうとした新参者もいたようだけどありがちなことに、どうにも昔ながらの住民がのってこなかったらしい。
かたやシェアハウスとか旧来の家族の枠を越えたコミュニティの萌芽が見えそうな感じなのが今日でもあると思うんだけど、新しき村は歴史が枷になっているような、あるいは「武者小路実篤がつくった」ということが枷になってか、ちょっと歯がゆいものを感じた。