あらすじ
妻との離婚を渇望するガイは、父親を憎む青年ブルーノに列車の中で出会い、提案される。ぼくはあなたの奥さんを殺し、あなたはぼくの親父を殺すのはどうでしょう?……ハイスミスの第一長編、新訳決定版。
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Posted by ブクログ
ヒッチコックの代表作の原作。映画とは大きく異なるストーリーだがスリル満点の展開は原作も負けず劣らず。
ヒッチコックの映画のイメージで前知識なく読み始める。良い意味で期待を裏切る展開。
交換殺人、今で言うサイコパスとストーカー的な話。追い詰められていく主人公の心情。そして嫌悪しつつも引き寄せられていくアンビバレントの感情。
おおむねの展開は予想がつくものの文章だけでこれだけの緊迫感、サスペンスはそうはないだろう。
映画とは全く別に楽しく読めました。映画も久々に再視聴してみようかな。
筆者のもう一つの代表作がフランス映画の原作「太陽がいっぱい」だとか。映画としては全く異なるジャンルに思えるのに同じ筆者、こちらも気になる。
Posted by ブクログ
『8つの完璧な殺人』を読むために読んだ。
ハイスミス自体は、映画の「リプリー」「太陽がいっぱい」「アメリカの友人」「妻を殺したかった男」「底知れぬ愛の闇」「キャロル」は見てきたが、小説はこれが初めて。
交換殺人というシチュエーションは面白かったが、ブルーノのほうに全然完全犯罪をする気がなく、隠す気はあるが、情緒不安定でとにかくイライラした。ガイのほうも、殺人について悩んで苦しんでいることにイライラした。心情表現にイライラさせられた。展開は進むけれど、ワクワクするような面白さは無かった。頑張って読んだ。
しかし、読み終わってみると、まあ面白かったかなっていう印象。喉元過ぎればなんとやら。
425Pのここが好き。
「しかしあの連中がこの身を破滅させたところで、おれがつくった建築が壊されることはない。そう思うと、いままた自分の魂が肉体のみならず精神からも分離したかのような、奇妙でうら寂しい気持ちがこみあげた。」
ガイの独白。自分が破滅しても、自分が作った建築物は壊れないことに寂しさを感じるのが面白い。一緒に壊れて欲しかったんだろうな。
他の考え方をすると、建築に魂を捧げてるなら、その魂も壊れないことに寂しさを感じている?傷つかない自分が寂しいものだと感じている?
ブルーノが海に落ちたシーンも好き。音が聞こえるや否や駆け出して、静止してくる相手もぶん殴って海に飛び込むガイ。
464P~466P
「「好きに行かせろ」ガイは低い声でいい、タバコに火をつけようとした。
ついで、水音がきこえてきて、そのとたんガイはブルーノが船外に落ちたことを察しとった。ガイはだれも言葉を発しないうちから、操舵席をあとにしていた。」
「おれの友人はどこに、おれの弟はどこにいる?」
特にこの弟というのが良い。
ブルーノは何度もガイに対して、あなたのことが好きなんだというが、ガイは答えなかった。けれども、ここでは友人で弟だと思っていることがわかる。
めちゃくちゃ良かったな。
オチに対しては、どうせたいしたことないだろうと思ったら、電話による盗聴でバレたのが面白かった。
ガイが殺人に対して罪悪感に苦しむのがわからない。良心がありすぎる。
罪と罰の主人公みたいだなと感じてたら、ドストエフスキーみたいだと評論家にも言われてたらしくて、なるほどな。
Posted by ブクログ
犯人捜しをする推理モノではなく、犯人のわかっている状態でこの先の展開が読めずに、息を詰めてページを繰るミステリー。心理状態や当時当地のようすが丁寧に描かれていく筆致で、ミステリ好きでなくとも楽しめる。
時代がかった原作の文章や、舞台となっている時代の雰囲気をしっかり持ちながらも、古くさくない今風の翻訳でとても読みやすかった。
Posted by ブクログ
同性愛的な空気、エディプスコンプレックス
母親を女性の理想・幻想とする雰囲気もあるが、
独善、偏執、執拗、鬼気、狂気
勝手に過度な共感愛情愛着、歪み狂った感情を
スマートに凶暴にあいてに流し込み、ぶつけ
自身の破滅だけではなく、相手の破滅も
愛ゆえに呼び込んでしまう、身勝手への不愉快さ。
巻き込まれ、追い込まれ、抗いながらも
狂気の世界に踏み込んで、泥沼から抜け出せず
ズブズブと深みに入り込み、破滅へ向かう苦しさ。
ラストは本当にこれまでの世界がボロボロと崩れ落ちて
行くような感覚を覚えるが、
どこで、どの時点で、どうすればよかったのかではなく、
出会わなければよかった、出会ってしまった時点で
全てが決まっていた、終わっていたという
むなしい絶望感。
Posted by ブクログ
〈交換殺人〉の元祖といわれる作品。
列車内で偶然出会った、富豪の息子ブルーノと建築家のガイ。
「ぼくはあなたの奥さんを殺し、あなたはぼくの親父を殺す」とブルーノが提案するが…。
交換殺人で完全犯罪を目論む本格ミステリーだと思っていたら、物語はどんどん違う方向へ進んでいった。
解説によると、「自分がミステリ作家だと認識していなかったらしいハイスミスにとっては、それがトリックだという発想すらなかった可能性がある。」と書いてあって、本当そうだよね…と納得した。
せっかく交換殺人という面白いトリックを思いついたのに、そこには焦点を当てていない。
ここからはネタバレしてます。
ご注意ください。
完全犯罪を狙うなら2人は会ってはいけないのに、ブルーノはストーカーのように執拗にガイのことを追い回す。もうこれが粘着質ですごく気持ち悪い。
ガイはブルーノに付きまとわれて殺したいくらい憎んでいるのに、所々で理解できない行動をとる。
このガイの気持ちに全く共感できず。。。
( ゚д゚)ポカーン
はっきりとは書いてないけど、その行動や言動に私はガイとブルーノの愛憎入り混じる同性愛的なものを感じた。
犯罪小説というよりネジ曲がった恋愛小説を読んでいるような感じ。
ブルーノは列車で出会った自分と同じ匂いのするガイに惹かれて、完全犯罪のための交換殺人ではなく、殺人という共通の秘密や苦悩をガイと共有したかったのかな。
繊細で独特な感性がわかる人には刺さる作品なのではと思うけど、正直私はもっと交換殺人に焦点を当てたスリルを味わいたかった。
そしてハイスミスのもう一つの代表的『太陽がいっぱい』は、映画『リプリー』の原作だと知って驚いた!
20年くらい前に『リプリー』を観て、マッド・デイモン、ジュード・ロウ、グウィネスパルトロウの3人の演技と怖いストーリーがとても印象に残っている好きな映画だったので、ハイスミス原作ということに驚いた。
そう言えば、『リプリー』のマッド・デイモンも粘着質で共通してたかも。
そして、なぜこの本を読んだかというと、『8つの完璧な殺人』を読むための準備でした。
これでやっと読める!
Posted by ブクログ
初めてのハイスミスである。ハイスミスと言えばアラン・ドロンの映画「太陽がいっぱい」である。
テレビ放映された時に観て、ラストのシーンが秀逸過ぎて子供心に深く焼き付いた。
いつかは、手に取って読んでみたい小説だとは思っていた
今回、ピーター・スワンソンの「そしてミランダを殺す」を読んだ事で、この作品を手に取った。
勝手に小説の内容をミステリーと思って読み始めたが、これはサスペンス小説だったため、思っていた感じでは無かった。
他の方のレビューにも有るが、主人公二人の感情に着いて行けず、とても読みづらかった
そして、主人公たちの考え方などに、とてもイライラさせられた
善悪とは、生きるとはとか、まるで哲学書だ。
でも、完全に詰まらないとは言い切れず、不思議な余韻を残す作品だ
主人公の二人の結末は、呆気無く、ちょっと拍子抜けだったけどね
ハイスミスの「太陽がいっぱい」は続編も数冊出版されており、全て読んでみたい気がするが、取り合えず「太陽がいっぱい」だけ購入してみるかな
それに「見知らぬ乗客」も映画化されているので観てみたいし「太陽がいっぱい」も改めて観たいな
Posted by ブクログ
交換殺人がメインテーマかと思いきや、ガイとブルーノの愛憎模様や葛藤などの心理描写がメインだった。
勝手に殺人を犯した末に脅迫してくるブルーノをガイは憎しみつつも愛してると言ったりどんどん情緒が不安定になっていく様は読んでてこちらも不安な気持ちにさせる。
ブルーノは一貫してガイに執着してたので(最後はアル中になって余計言動がひどくなったけど)わかりやすかったけど、ガイの気持ちは上がったり下がったり揺らぎすぎてて掴みづらかった。
普通に生活してた人間がこういう風に追い詰められればこうなってしまうものなのかなとも思ったけど。
ブルーノの最期は呆気なかったけどガイのしめかたは良かった。
Posted by ブクログ
読むのに3ヶ月かかった。登場人物の感情の動きが激しくてついていけない。相手を嫌いだと思ったら次には好きになったり…。読んでいて疲れるし感情移入できない。
本書はブルーノという金持ちのドラ息子・アル中・ホモ・マザコンの悪魔がガイという男を洗脳し狂気に陥らせるサスペンス。ブルーノはサイコパスである。ガイ自身最後の最後でそう表現している。そのためブルーノ自身の心境を語ったページは全く理解できないしそんなブルーノに愛憎入り交じった感情をいだくガイも理解しがたい。
これでブルーノが女だったら悪女に引き寄せられる男(ガイ)の感情だと理解もできるが、なぜこんなサイコパスの言いなりになって遠ざけられないのか。感情移入が厳しいところだった。読者が女性ならこの辺の同性愛じみた部分を楽しめるのかもしれないが、男の自分にはブルーノとの縁を切れないガイが理解不能だし、ひたすら悩み続け情緒不安定なガイも嫌いだ。
解説によるとこの本のパターンが作者の基本らしい。もうこの一冊で十分。他を読む気はしないな。
ガイは「物事はすべて反対の部分を併せ持っている」と語る。これはラストのセリフのところですらそのままである。しかしラストに至ってまで、一本心の通っていないガイ。彼の心がジェットコースターのごとく揺れ動き続けるのを追いそれを理解しようと努めるのは大変疲れる読書体験だった。