あらすじ
〈上の天神さん〉の境内で行われるラジオ体操。カタコラカタコラ下駄履きで集まると、在郷軍人の小父ちゃんが台に上って号令をかけていた。/トコのちぢれ毛をまっすぐにして下さい。中原淳一の絵の女の子みたいにして下さい。/チョロ松と二人で、ゆぶねに腰かけて唱歌をうたった。「旅順開城 約なりて 敵の将軍ステッセル 乃木大将と会見の 所はいずこ水師営」/あとを頼むぞ、とか何とかいって戦地へいくと、若い盛りにパッと桜のように散る。そしてほめられる、新聞にのる、勲章をもらう、みんなに泣かれる、いい気なものだ。男のほうが人生の花を独り占めして、女はカスの部分をつかまされる。/日常のささやかな描写の中にすべて戦争が描き込まれた名連作短篇集。
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Posted by ブクログ
田辺聖子さんの自叙伝的小説である。
その1 民のカマド<福島界隈>
その2 陛下と豆の木<淀川>
その3 神々のしっぽ<馬場町・教育塔>
その4 われら御楯<鶴橋の闇市>
その5 文明開化<梅田新道>
解説 小松左京
昭和3年生まれの大阪のお嬢さんが戦争という時代に翻弄されながら、女性・娘としてどのように戦争社会立ち向かってきたのか、ほんわかした雰囲気もあり、死と向き合う人生、そして、朝鮮人の当時の置かれた立ち位置など、本音で語れれている。
戦後の、民主主義的傾向強化という国の方針の大転換についても、一定の矛盾を感じながら、また、人間天皇に対する感じも、当時の世相を緩やかに描いている。
それは、お父さん、お母さんの平衡感覚の下で育った田辺さんの感性なんだと思いました。
大阪・河内生まれの私としては、親しみやすく、読みやすかった。
しかしながら、戦争がなかったら、もっともっと楽しい人生がおくれたに違いない。
絶対、戦争はしてはいけないということです。
Posted by ブクログ
戦時中を生きた女学生の、日々のお話。
主人公が女学生というところが良かった。大人と子どもの狭間期から見える戦争は悲惨さや暗さばかりではなく、そのような状況下にあっても純粋な明るさがあった。
〈海軍さん〉への憧れから頭の中で巡らすアリエナイ妄想や、女学生ながらに宮本武蔵に染まる様子はいつの世のおんなのこも大体は通る道として共感できる部分であり、親近感が湧く。
読んでいると戦時中の時事や単語がたくさん出て来るので、調べたりもした。それは当時を知る上で参考になり、戦時下の大阪の様子を垣間見ることができる良き一冊と思う。
こまごまと出てくる地名を地図と照らし合わせ、主人公の足取りをたどることでより深く物語を楽しめた。知らずにいた戦争遺跡の場所が多くあった。
今年は戦後77年。
明治維新から終戦までの77年間と、さらに同じだけの年数が経つ節目のような年だという。その節目に、海外では再び戦争が始まり、日本国内でも国防のためと危険な考えを唱える人も散見されるようになった。
歴史は繰り返すというが、たとえ繰り返すような状況があるとしても過去から学ばなければ先人たちに対して申し訳が立たない。ただ繰り返すだけではなく、過去起きたことから学び、活かして対処していくことこそ本当の慰霊なのではないかと考える。
トキコにとっての清川少年の存在というのは、戦争がどのような結果をもたらすかということをもっとも身近な表現で、淡いながらも暗示しているものと印象深く残っている。
Posted by ブクログ
すぐ舞い上がったり憧れたり貶したり落ち込んだりする思春期は時代によらずって感じなんやな。敗戦の気持ちは汲みがたいものがあるけど、トコちゃんの昂奮するなアて気持ちが日本人の心になかったら、日本はこんなに起き上がらんかったかもなって思うとちょっとじいんときた。
にしてもトコちゃんアツい子やな、いや素敵やと思います。
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戦後29年後にかかれた小説。戦時中の大阪のひとびとの暮らし、どんどん戦争の正当化を植え付けられていく子どもたち。戦い、死ぬことを美化され戦争だけが生きる目標とされていく人々。田辺聖子さんはコミカルな小説を書くと思っていたので、少し意外で、でもより戦争の怖さや深さを感じる作品でした。
Posted by ブクログ
田辺さんは自分の親よりも20歳くらい年上で、生まれ育った時代も環境も全く違うのに、どうしてこんなに共感できるのだろう。この本に書かれているのは、どうも田辺聖子さんご本人が戦時中に送った女学生時代らしい。先日見た映画「この世界の片隅に」を思い出すような、「普通の」人たちの戦時中の生活が描かれる。知人友人に戦死者が出たり、空襲があったり、そんな異常な状況下でも、人は淡々と日常を営もうとできるものなのだなぁと思って読んでいたけれど、終戦後の章、とりわけ最後の1ページに心を打ち抜かれた。考えさせられたし、多くの人が読んだら良いのにと思った。
小松左京さんの後書きも面白かった。