【感想・ネタバレ】公正的戦闘規範のレビュー

あらすじ

デビュー長篇『Gene Mapper』の前日譚「コラボレーション」、近未来の皮肉な戦場を描く表題作、「第二内戦」ほか全5篇を収録する、著者初のSF作品集。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

藤井太洋の送る技術特異点とその先の近未来を描いたSF短編集。量子コンピューターによる量子アルゴリズムとフリーズ・クランチ法という未来予測。クォイン・トスというゲームが彩るセブ島での一騒動を描いた「常夏の夜」が個人的に一番面白かった。近未来的なガジェットがてんこ盛りでありながら、ディストピアめいた悲観的な視野は一度もなく、量子ネイティブへの期待という人類の希望が詰まっている。因果逆転した記事を参考に、暴走するクラブマンからの攻撃をかいくぐる姿は良質なハリウッド映画を見たときのような興奮を味わうことができる。

表題作である「公正的戦闘規範」もドローンにより人類不在になりつつある戦争に公正さを取り戻すという意欲作である。ORGANというオペレーターが直接戦場に立ち、火器や無人機を操作するというのが非常に面白く、殺意を戦場に閉じ込め、その戦う姿に物語を付随させるという結論には膝を打ってしまった。大切なのは誰が血を流し戦っているかであり、そこに物語があるか否かである。戦争の概念が変われば戦場は薄く広がっていき、テロが激化するため、あえて戦争を戦場に固定してしまい、裏を返せばORGANさえ倒せばそれが勝利条件になるため、戦争そのものがわかりやすくなる。この視点は非常に斬新であり、感銘を受けてしまった。人類同士の争いを超えた、人類vs無人機の戦争でもあるのだ。

「第二内戦」はアメリカが二つに分断された話なのだが、アメリカの歴史や開拓者精神、自警団的な発想を考えれば一番ありそうな未来に思えた。古き良き時代のアメリカを取り戻し、マッチョ思考に彩られた白人だけが住む国。FSA「アメリカ自由領邦」という国名がとても良い。

どの短編も、幕引きは常に人類の新たな挑戦と希望に満ち溢れている。本来の技術革新はこうしたワクワク感に溢れているものであり、SFといえばディストピアというイメージを持っている人にこの本書を読んでほしい。

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2019年05月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

5篇収録の短編集。どれも、めっちゃ面白かった!
一つ目の「コラボレーション」を読んだ段階で、当たりを確信できた。この著者を追っていくしかないな!(確信

テクノロジーを悪とせず、テクノロジーの生み出す変化を好意的に捉えているのが相性の良い理由なのかな?(良かった理由は、まだよくわかってない

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2018年10月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

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 バネ座金過激派アンチ。



 確信犯的に、間違いのないものを。
 ある程度専門的な知識や技術を必要とする業界に居ると、それぞれの技術には流派というか流儀、みたいなものがあることが解ってくる。冗談めかして「それは◯◯流だねぇ」とか云ったりするのだけれど、実際のところ結構本気で信じていたりする。
 前の職場に居たサイボーグ姉御もそうだし、いまの職場にいるバネ座金過激派アンチもそうなんだけれど、突き詰めた技術に神性が宿るというのはどうやら確かなようだ。
 この方法でやらないと失敗する、この手順でやらないと意味がない。それはもう、宗教や信仰と同じ色をしていて。

 小説にもそれはあるよな、と思う。特にSFやファンタジーの、緻密に組み上げられた設定には自然と信仰が宿るのだ。もちろんいま存在するものの延長線上にある信仰もあれば、それはそうなるよな、という想像力にガイドされた信仰もあるし、物語の設計上間違いなく生まれるだろう信仰もあるし。
 そういうのがある小説が、好きです。


 さて。
 そういう意味では、得意分野の土俵に色々なテーマを取り込んで切り刻むこの短編集も、職人技である。2013年から2017年の間に書かれたとは思えないくらい、現代に切り込むSF短編集でした。
 素直に面白く、洒脱で、肌寒く、熱い。
 これよ、これ。☆3.9

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2024年05月15日

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