【感想・ネタバレ】東の果て、夜へのレビュー

あらすじ

組織の命を受け、少年たちは数千キロの旅に出る。人を殺すために……。昨年英語圏で最高の評価を受けたロードノベルにしてクライムノベルの傑作。英国推理作家協会賞ゴールドダガーほか三冠達成!

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あるギャングに属する少年たちが様々の人々と出逢い、交わりながら成長していく、という流れは大方合ってはいた。しかし1番の衝撃は最初から最後まで主人公ただひとりに焦点を当てていたこと。協同する仲間は居ても、離散と交錯を繰り返し最後には自分自身で人生を歩むこと。

自然と前向きな気持ちになり勇気を与える小説である。
この小説に出逢えたことに感謝したい。

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2025年11月29日

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ネタバレ

クライムノベルであり、ロードノベルであり、ティーンの成長譚である、俺の好きな3要素ががっちり詰まっているなら読むしかないだろ!

ほとんどの部分、主人公イーストの独白調で物語は進む(ちょっとだけ違う視点で語られる章がある、俺の好みではあの視点は不要と思うが…)、このイーストが生真面目で、一直線で、憂いや哀しみや諦めを心に抱えた可愛いヤツなんだよなぁ。生活環境から犯罪に手を染める生き方を選ばせて(選択肢がそこしかない)いるが、環境が違っていれば、文武両道で頼れるいい子になったんだと思うが…。

そんな主人公が、エエ加減な男、デブッチョオタク、13歳の殺し屋(弟)とともに、青色のヴァンにのって、LAからはるか2000マイル(3000キロ!)先のウィスコンシンまで、人を殺しに行く。というのが大雑把なあらすじ。

普通、ロードノベルや成長譚というと、明るい希望があるからこそ魅力的で、ページ繰る手もポジティブになろうというものなんだが、この物語は一筋縄ではいかない。ほぼ全編にわたって明るい希望が見当たらないのだ。後半になって主人公がたどり着いた先で、よーやくボヤーっと見えた「あれはひょっとして明るい未来につながるのかなぁ…」って希望の断片も、ものの見事に踏みつぶしてくえるし、オーラスの話の締めは、「ガメラ3イリス覚醒」に似た「それでも行くのか…」な哀しみを連れた未来しか見えないし…。

なのに、なぜか、この物語にひかれてしまった。もっとストレートな成長譚、もっと未来につながる旅物語の方が好きなはずなんだが…。絶望は嫌いだが、この作者の小説は、絶望であっても、追いかけてみたい、と思ってしまったんよなぁ。

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2019年05月25日

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ネタバレ

LAの一角しか知らなかった15歳の少年イースト。叔父が支配するドラッグ組織で見張り役をしていたイーストは、叔父の命令でほかの3人の少年たちと共にバンに乗りウィスコンシン州に向かう。目的はある人物を殺すこと。

犯罪組織に属する癖の強い4人が道中、平和に旅するわけがありません。どんどん問題を抱えていってしまう。仲間との軋轢を重ねながら、今まで知らなかったLA以外の地域、自然、人々を目にしてゆくイースト。

物語の最後になって、イーストは叔父の命令の真意を知ります。LAに戻り犯罪組織で生きていくのか、それとも東(イースト)で新しい自分として生きていくのか。イーストの決断に心を揺さぶられた。

この本、アメリカの地図付きだったらいいと思いました。カリフォルニアからウィスコンシン、そしてオハイオなど地図を辿りながらもう一度読みたい。
アメリカ横断のロードトリップをしたくなります。

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2019年08月01日

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彼らは何を見て、何を感じ、何を得るのか?
主人公イーストを含めた少年4人が、殺しの旅に出るクライムノヴェル。

地の文が続く。街。山。自然。車。土地。暮らし。殺人に向かう最中の車からの景色。殺人の緊張感と旅の優雅さ。緊張と緩和。目的に近づくほど、トラブル難題が待ち受ける。

殺人だけの関係。仲間達との旅路。急激な展開に先が読めない。
イーストも仲間も子供だ。それぞれの思惑、深い闇、どう解決していくのか。または過ぎ去っていくのか。見所である。

待ち受けている解放感。清々しい。「シスターズブラザーズ」とはまた違った、沸々と湧き上がる感情のざわめきがあった。次作も決定しているらしい。追いかけたい作家である。

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2017年12月10日

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悪の道から足を洗い、自分自身で真っ当な人生を見出す、そんな一人の男の人生観小説だ。人間社会には頼れる人と、頼る人がいる。能力のない、力のない者は誰かに縋り付くことで生きて行く。だが、経験と歳と共に「自分の夢・仕事・生活」を自分の力で想い通りにしたいという時、どうしたら良いのか判断に迷う。 誰もが遭遇する人生のターニングポイント・タイミング「悟り」(自分で判断する)には勇気と行動がいる、ということだ。 (人生のターニングポイント:仕事を決める、結婚する、家族を守る、独立するなど)

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2022年11月16日

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暗黒街で育った少年が指令を受けて、長い旅へ。
若者たちだけで車に乗り、殺人のために…

ロサンゼルスの一角で、毎夜ひたすら仕事場の見張りをするイースト。
15歳ながら地道に責任を果たし、ボスには信用されている。
地域のボスはイーストの叔父で、父のいない兄弟らをそれとなく気にかけていてくれる後ろ盾でもあった。
頼りにならない母親は、弟のタイの方を気に入っている。ところがこのタイは13歳で既に殺し屋。ギャング以外に生きる道が見いだせないような地区で、怖いもの知らずな存在だった。

ある日突然、異変が起きて、イーストらはあわただしく街を出ることになる。
裁判の証人となる裏切り者を出廷前に殺せというのだ。
20歳の調子のいい元大学生がリーダー格、17歳のおたく少年、15歳のタイ、そして不仲の弟タイ。
若い子だけで旅行なんかしたら普通でも何か変なことが起こりそうなところ、この目的、このメンツで予想外のことが起こったら…
中では一番生真面目なイーストが、気をもむことになります。

思わぬ展開で離れ離れになり、たまたま見つけた住み込みの仕事をこなし、雇い主に気に入られるイースト。
新たな居場所を見つけたかと思われたが、そこに意外な知らせが…?
予想もしにくい世界ですが、予想外の展開で、はらはらしつつも一抹の希望が見える方向へ。

絶望的な状況でも投げやりにならず、自分を保って生きていくイーストに好感が持てました。
傑作と言っていい。
と思いますが、自分の好みのど真ん中というわけではなく、誰にでもおススメというわけでもないので、星は4つにしておきます。

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2020年10月02日

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四人の少年が旅する話といえば、すぐ思いつくのはスティーヴン・キングの『スタンド・バイ・ミー』。この小説も四人の少年の旅の話から始まりますが、雰囲気は全く違います。

所属する組織の命令で、裁判の証人になる男の殺害を命じられたイースト。組織のボスはイーストの他に三人の少年を指名。イーストたち4人は、2000マイル先の標的の元まで車で行くことになるのですが……

文体と話の展開がなかなかに特徴的。ハードボイルドらしさを漂わせる文体は、感情を極力排し淡々と物語を前に進めていく印象。物語自体の雰囲気が暗いことに加えてこの文体がより、作品全体に漂う夜の中を歩んでいく感じを、表現していると思います。

そして展開について。小説のあらすじだけ知っていたので「4人の少年の友情と成長ものかな」初めは思っていたのですが、そういうわけでもなく……。
トラブルと想定外の連続、そして少年間の深まる溝。焦りとイライラが物語に伝染し、高まっていく緊張感と、軋轢による崩壊の予感。
タイトル通り話が進めば進むほど、ますます“夜”へ向かっていくような、そんな印象を受けます。

そのため話の展開は暗く、文体のため盛り上がりもやや抑制気味で地味な印象を受ける展開が続きます。しかし陰のある文学的な雰囲気が徐々にはまってくるところもあって、ミステリというよりは「犯罪小説」という味わいを徐々に深くしていきます。

そしていよいよ殺害の決行。この殺害の決行で話は終わると思っていたのですが、ここからの展開が読ませる。殺害は何とか成功するものの、ところどころで予定通りいかず、イライラや閉塞感はピークに。そして決定的な出来事が……

計画実行後、イーストが一人、街から街へ彷徨する描写もいい。大きな展開があるわけでもないし文体も変わらないのですが、そこに言いようのない魅力を感じます。
悪いもの、黒いもの、そうしたものが何の飾りもない現世の体験を積み重ねることで、少しずつ白くなっていくような感じというか……。淡々としていた文体もここにきて、さらに大きな意味を持ったように感じます。

そしてイーストが迎えるラスト。単純にハッピーエンドとは言えないと思うのですが、それでも読後感は、何かから解き放たれたような開放感や清涼感があります。
イーストの去って行く姿に、洋画のようにスタッフロールと物静かな曲が流れて”Fin”と表示される映像が自分の中で確かに見えました(笑)
ハリウッド大作ではないけど、ミニシアターで流れる秀作映画を見終えたような、そんななんとも言いがたい抒情が残ります。

ギャングや銃、そして車での街から街への大移動と、アメリカの作品だからこそ描けた展開と、物語全体の空気感があったようにも感じます。その雰囲気が自分の中に上手くはまった印象的な作品でした。

2018年版このミステリーがすごい! 海外部門3位

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2020年03月09日

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ネタバレ

タイトルに惹かれて購入しました。原題ならば手に取らなかったかも。
幼い頃から犯罪組織の一員としてキャリアを積んだ少年らが、証人殺しの命令を受けて2000マイルの旅路に出る。
その最中で主人公イーストは、自分が築き上げてきた自信や、辛うじて捨てていなかった清らかさや絆も捨て去らなければならないような体験をする。
物語終盤になり、過去に犯罪組織の見張りで叩き込まれた規律と忍耐力が、ペイントボール場のオーナーの信頼を得る良い武器となり、多くの人から小さな信頼を積み重ねるように得ていく。そのささやかな成功体験が誰のものでも無い自分自信の考えを見つけ出すきっかけとなる。
読み易くテンポも良いため、長さを感じさせない良い小説だと感じました。表紙の良さが際立つ。この表紙に対して、星一つ上乗せ。ハヤカワ文庫のデザインは優秀。原作も同じ表紙だったら的外れかもしれないが、カッコイイ!

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2020年02月25日

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2016年発表作。内外で高い評価を得ており、犯罪小説/ロードノベル/少年の成長物語と、様々な読み方ができる作品だ。全編を覆う青灰色のトーン、凍てついた冬を背景とする寂寞とした空気感。筆致はシャープで映像的。主人公の心の揺れを表象する内省的な情景描写も巧い。動と静のバランス、光と影の均衡が、広大なアメリカの乾いた大地と相俟って、強いコントラストとなって魅了する。

15歳のイーストは、ロサンゼルスの裏町にある麻薬斡旋所の見張り番を務めていたが、警察の強制捜査によって居場所を失う。犯罪組織のボスであり、イーストのおじでもあるフィンが少年を呼び出し、或る仕事を命じる。組織幹部の裁判で証人となった裏切り者トンプスンを、出廷前に殺すこと。その男は、遠く離れたウィスコンシン州へ旅行中だった。同行するメンバーは3人。横暴な元大学生ウィルソン20歳、気弱なコンピューター技術者ウォルター17歳。そして冷酷非情な殺し屋タイは、イーストの腹違いの弟で、まだ13歳。滅多に口を利かず、不仲が続いていた。2000マイル先の標的を目指し、4人はバンに乗り込む。長い旅の中で直面する不知の社会、倦怠に満ちた下層に澱む人の群れ。他世界から受ける刺激に順応できず、加えて寄せ集めに過ぎない一行の関係は終始乱れ、不協和音の中でトラブルが続出する。イーストは、不正義のただ中でも正しくあろうとするが、暴力との境界は容易く崩れる。人を殺す。その代償がどれほど重いか。誰もが半人前の〝仲間〟三人との対峙によって、自らの幼さも抉り出されていく。少年は旅の終着点で〝仕事〟を終えるが、本当に為すべきことをまだ見付けていなかった。

主人公を含めて主要な登場人物が黒人であることが根幹となり、物語を大きく揺り動かしていく。都会と田舎での偏見/格差。他者の眼は己の黒い肌を否応無く意識させ、実存を揺るがす。犯罪を糧としながらも或る意味では守られていた境遇から、身ひとつで全てを乗り越えなければならない厳しい現実に曝された少年の眼前には、ひたすらに東へと続く道があるのみだった。犯罪組織の末端で生きてきた過去と、長い旅の経験を経て、生きることを見つめ直す心の有り様を、深く鮮やかに描き出している。

過去/現在/未来の道程を緩やかに繋ぎ、踏み締めていく過程が、三部構成によって繊細且つ劇的に綴られていく。本作品で最も読み応えのあるパートは、何もかもを投げ捨てたイーストが辿り着く寂れた町で展開する、極めて静謐な終盤にある。少年は、主を失ったペイントボール場を引き継ぎ、ひたすらに修復しつつ、旅を回想する。無意味に殺された二人の少女の残像、最後まで分かり合えなかった弟との距離感、ひとときの安らぎをもたらした恩人の死。自分を過去に縛り付け、イーストを引き戻そうとする〝西〟からの誘惑。

まだ行き着いてはいない東の果て。自分の名〟イースト〟に別れを告げ、一番星の輝くころ、新たな旅を決意する少年の背中。そこに弱さの克服と幼さからの脱却、決別と再生へと向かう心を、見事に映し出して物語は終わる。

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2019年08月17日

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原題「ドジャース」。LA(西南)からウィスコンシン州(北東)に車で移動する。飛行機、カードは使えません。組織の仕事で人殺しにいくので、身元が割れるような行動はできません。黒人青年少年四人が集めれ、ボロい車を運転し現金払いの設定で計画は始まるが、はい、うまくいかないですよ。むしろそうなるように計画されてたんです。もう自分は金稼いでいるし、一人前だと思ってたけど井の中の蛙だったってことに気付かない位に「子ども」だったってことに気付いてしまった。人間として肉厚に、器をでかくしないとな、ニガー。

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2019年04月04日

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麻薬販売所(もちろん違法)で見張り役のイーストは、仲間4人(イーストの異父兄弟のタイ)と共に判事を殺害する旅に出る。車での長距離移動であり、道中は4人の間で様々な事件が起きる。無事に予定していた殺人は完遂するが、物語の真相はそこではなかった。

本書の最後の方でその真相が明らかになったとき、単純に読者が驚くだけではなく、これまでのイーストの行動がフラッシュバックし、そんな物語だったのかと、二度驚くことになる。物語の構成が良いのだろう、とても楽しめた。

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2018年05月01日

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ネタバレ

黒人少年の成長物語...
主人公イースト、やっぱまだ少年だけあってタフガイではない。タフガイであることを期待してまうんやけど、実際は弟のタイの方がタフガイ。でもイースト、いいやつ。
オハイオでの生活がもっと長く続けばよかったのに。

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2018年02月21日

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各方面で絶賛されているとおり、クライムノヴェルでロードノヴェルでかつ、少年の成長モノで、意外な展開が新鮮な感じだった。
状況についても、登場人物それぞれについても、もっと書き込めそうなのに最小限の情報しか書かないで想像させる、といった感じで、全体的にハードボイルドな、無駄を極力省いたタイトな文章。饒舌な語り好きなわたしとしては、もっともっと書き込んでくれてもよかったかなあと。なんでローティーンの主人公と弟がこういう人間になったのか、とかもっと詳細に読みたかったような。。。
とにかくハードな状況なのでけっこう読むのがつらかった。いつ「成長モノ」っぽさが出てくるのかと待っていたら、ラスト三分の一くらいでやっとそれっぽくなって、その部分がいちばん好きだった。でも、暮らしている町近辺からたぶん外に出たことすらない主人公からしたら、州外に出て、気候も違う土地に行くってだけでも成長なんだろう。
ラストがさわやかな印象で救われた。

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2018年02月01日

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読み出してしばらくはなかなか流れに乗れず、最後まで読めないかもと思った。ロサンゼルスの暗黒街で育った少年が、人を殺すよう指示されて仲間と共に西へ向かう。その道行の始まりからまもなく、最初のトラブルが起きるあたりで、俄然話に引きつけられ、あとは息を詰めて成り行きを見守ることとなった。

文章に独特のクセがあり、好みが分かれるだろうが、危うさに満ち、崩壊の予感を抱かせながら進む物語に、この文体はぴったりはまっている。少年の孤独がひたひたと胸に迫ってくる。ドラッグ売買の見張りをすること以外、何も教えられたことのない少年が、ギリギリの所で保っている倫理観は、何に根ざすものなのか。深い余韻を残す一冊だと思う。

何よりいいと思ったのは、どの登場人物にもリアルな奥行きがあることだ。主要な顔ぶれだけでなく、ちらっと出るだけの電話交換手とかガソリンスタンドのお姉さんにまで物語がありそうだ。続篇があるようだが、「少年のその後」といったストレートなものではないかも。

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2018年01月20日

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1話1話、そして登場人物のバックグラウンドも細かに丁寧に紹介しながら長ーいドラマとしてテレビで見てみたい。

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2018年01月08日

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ネタバレ

ハードボイルトとはいえ、渋いおじ様が主人公ではなく、ハイティーンの少年、それも黒人の男(の子?)が主人公という異色作。

ロスの犯罪エリアで生きる少年たちに下された指令は、組織の審理に不利な判定を下すであろう判事の殺害。少年4人は車に乗り、はるか東の果てへ向かう…。

少年4人のロードムービータッチの小説(ロードノベル)でありながらも、常にメンバーの不協和音が奏でられ、暴力と10代の無軌道な行動がせめぎあい、徐々に悪夢を帯びていくクライムノベルでもある

やがて、単純なストーリーの様であったクライムノベルが、実は少年の自立と再出発の物語と変わる。
どこまでも孤独ながらそれを当然のこととして受け入れ、淡々と生きる主人公の姿が切ないと同時に力強い。

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2017年11月20日

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大谷翔平と山本由伸のドジャース移籍が決まった。彼らふたりがメジャーリーグの同じ球団でプレイするなんて、野球ファンにとっては夢みたいだ。しかも山本由伸の場合、医学やトレーニング方法が進歩したとは言え、野手と比較すれば故障するリスクの高い「投手」というポジションにもかかわらず、12年もの大型契約。それだけでワールドシリーズ制覇を目標に掲げるチームが寄せる期待度の大きさが窺える。来季のドジャース戦中継が楽しみで仕方ない

此度そんな流れで再読したのが、数年前に英国推理作家協会の新人賞と最優秀長編賞を同時に授与された本書。原題は、ズバリ「ドジャース」。ただし、野球に関連した話ではなく、黒人ストリートギャングを描いたクライム・ノヴェルである。ボスの依頼を受けて、上は20歳、下は13歳の黒人少年4人が、組織を裏切った「お抱え」判事を抹殺するべくLAを発って中西部ウィンスコンシン州へと向かう、その顛末が語られていく

黒人の少ない土地へ車を走らせるに当たり、世界というのは白人で成り立っていて、奴らは野球が大好き、ドジャースが大好きとの理由で、少年たちがまずスポーツ店で購入させられるのがドジャースのロゴ入りTシャツ類だ。また、「ドッジボール」語源の「ドッジ」には「かわす、回避する((LAに移転する前のドジャースはNYのブルックリンに本拠を構えていた。当時のブルックリンには路面電車が多く、それをよける人々=ドジャースがチーム名の由来。ブルックリンを舞台にスパイク・リーが監督・脚本・主演を務めた映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」では、主人公がドジャースのユニを着て登場する))」の意味もあることから、このタイトルは先の見通せない危険な任務を負う羽目になった4人組をも指し示したダブルミーニングとなっている

ドラッグを売り捌く「家」界隈の外へ一歩も出た経験のなかった主人公・イーストが、道中で目にする様々な事象や仲間同士の諍いなどを通じて、少しずつ人間として成長する姿を追った物語は、サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」ケルアック「路上」のストリートギャング版といった雰囲気を感じさせ、単なるクライムものとは一線を画す文学的な香りが漂う

特に、イーストが彷徨いついたオハイオ州のペイントボール場(サバイバルゲームを行う施設)で職を得て、管理や雑用を任されるうちに白人オーナーとの間に絆が芽生える後半部の展開が上手い。著者は英文学の研究を専門とする方らしいが、なるほどストーリーの作り方をよく理解している。さらにその情景が今にも頭に浮かんできそうなエンディングのタッチも憎いばかりで、これが長編デビュー作とは凡そ信じがたいような仕上がりだ。ドジャースとLAの街をイメージさせる「青」を基調としたカヴァーデザインもGoodである

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2023年12月31日

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犯罪小説、ロードノベル、そして少年の成長譚という三つの表情を併せ持つ多層的な小説。イーストやタイの年齢設定に違和感を覚えずにはいられないが、ことアメリカという国において黒人のギャング少年団はリアリティのある設定になり得るのかもしれない。ペリーとの出会いがイーストに個としての成長を促す第三部終盤の展開は胸に迫るし、悲壮的ながらも解放的の溢れるラストシーンも深い余韻を残している。今作はミステリ文学賞四冠達成という華々しい経歴を持つデビュー作だが、ハヤカワ文庫HMレーベルよりNVレーベルの方がしっくり来るかも。

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2022年12月21日

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ジャケ買いならぬタイトル買い。
なんて格好いい邦題だろうか。
淡々と進むロードムービーのような感じで読みづらそうと思ったがサクサク読める。
アメリカの内陸部田舎の荒廃感がずっと続き、面白い。
ずっと甘いもの食べててアメリカ人はすごいなと思った。
ドーナツ食べたくなった。

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2021年06月23日

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終始苦しかったなー。
意外な展開後は読んでいても苦しかった。
環境さえ整えてあげればいくらでも普通の少年として生きていけるのになあ・・
ラストに救われた。
勝手にスタンド・バイ・ミーみたいな感じを予想していたので苦しく感じたのかもしれない。

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2020年09月12日

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そこそこ読めるけど再読は確実にないなー。
乾いた筆致で淡々と荒事も含めて描写していくクールさは気持ちよく、ギャング世界の荒涼とした雰囲気を描くことに成功している。
登場人物が魅力に乏しいのが辛い。和気藹々とした感じもないし、わりと早い段階でムードメーカー的なやつが脱落してしまうと残ったメンバー間の会話が少しかったるくなってしまう。
主人公が選ばれし人間なのも、そうでない弟との葛藤を丁寧に描くということがなされていないため、なんか鼻につくだけになってしまっている。
黒人文化みたいな色付けもなく、あまり楽しみのない読書になってしまった。いやそれでも読み切れるだけのパワーはあるのだけどね。

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2020年03月11日

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クライムノヴェル。ストーリ自体は奇をてらったものではない。バイオレンスなだけに終わらず主人公への何らかの共感があるとよかったが今作はそうではなかった。全編を流れる緊迫感は読みごたえがあったがラストは好みではないかな。

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2019年04月28日

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ネタバレ

前半の半人前悪党の少年たちがいざこざを起こしながらだらだらと東に向かっていくくだりは個人的には退屈でなかなかページが進まなかった。
終盤のイーストの再生物語には惹きつけられ、また、予想していなかった結末までの展開には驚き、なるほど全体としてみると悪くはないと思った。

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2019年03月08日

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イーストとタイが10代であることをつい忘れてしまう。アメリカは本当に州を超えると、全く違うんだな。ペリーと出会ってからは、成長物語と言うより、解説にある通り、イーストの少年時代の、或いは子供としてのやり直しというのがしっくりきた。まあ、大人に利用されているという点では、フィンと同じなんだけど。ロードノヴェルとしては、人との出会いが少ない。まともな教育を受けていれば、まともな大人になれた筈のイースト。そこがタイとは違う。環境が与える影響は大きい。

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2018年09月14日

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このミス2018 海外3位。
4人の少年が暗殺の命令を受けて旅に出る。
クライムノベルというより一人の少年の成長物語の感じのほうが強い。
ただかなり読み進めるのに苦労した。

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2018年05月26日

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文字や文章がバンの車窓から見える景色のように通り過ぎていく。後には虚ろな空間しか広がらない。ページをめくる指が重い。読み進めば進むほど望まない方向へ話がどんどん進んでいく…。イーストがかわいそうでならない。先が見えて来ない…。

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2018年04月26日

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ネタバレ

最初から危うい感じの4人組。予想どうりトラブルの連続。だんだん追い詰められていく感じで苦しくなり、なかなか読み進められない。
後半の穏やかな時の流れがよかったが、こんな生活はいつまでも続くわけがなく、やはり旅立ち。
新しい名前で生きていくイーストに、頑張ってと言いたい。
それにしても老成した男の子であった。

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2018年02月09日

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序盤はどんな話なんだろうと思いつつ読んでいましたが、読み進めるうちにロードノベル的な面白さに引きこまれていき、後半は一気に読んでしまいました。
テイストが好みが分かれる作品かもしれませんが、登場人物それぞれの個性と、舞台となる場所がどんどん変わって行くところは個人的にはとても楽しめました。

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2018年02月04日

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原題は<DODGERS>。言うまでもなく有名なメジャー・リーグのチーム名で、旅に出る少年たちが来ているユニフォーム・シャツに由来する。ドジャースがブルックリンに本拠地を置いていた時代、ブルックリンの住人は行き交う路面電車をかわしながら街を往来しなければならなかった。そこから、ブルックリン地区の人々を 「路面電車をよける (dodge) 人たち」 つまり、 「トローリー・ドジャース」と呼んだ。チーム名はそこから来ていると言われている。

少年時代、ドッジ・ボールが苦手だった。最後に一人残って逃げてばかりいると、味方の外野から「早く当たれ」とやじられる。ゲームが早く終われば、はじめからもう一回できるからだ。後年、「ドッジ」の意味が「よける」だと知り、ひらりひらりとボールをよけていた自分の方が、自ら捕りに行く級友よりも正統的であったことに気づき、留飲を下げた覚えがある。まあ、そんなことで少年時代の苦い思い出は消えたりしないのだが。

クライム・ノヴェルであり、ロード・ノヴェルでもある。ロサンジェルスからウィスコンシンまで、北米大陸を車で東に横断する黒人少年たちの旅と、主人公であるその名もイーストの旅立ちを描く。主人公が十五歳。弟のタイが十三歳、最年長のウォルターでさえ十八歳である。初めは旅を仕切っていた二十歳のマイケル・ウィルソンがラス・ヴェガスでトラブルを引き起こし、仲間から排除されてしまう。それがケチのつきはじめだった。

イーストは、ボクシズ(箱庭)と呼ばれる地区で麻薬業界を仕切るフィンというボスに見張り役として使われていた。ある日、警察に踏み込まれ、組織は打撃を受ける。仕事先の「家」は閉鎖され、失業したイーストは、フィンから直々に、他の三人とウィスコンシンまで行き、自分の裁判を担当する判事を殺せ、という指令を受ける。飛行機を使うと身元が割れる。車で行って仕事をし、終わったらそのまま帰ってくるという筋書だった。

金以外は何も持たずに出向き、銃は現地で調達するはずだったが、四人のはずが三人になったため、銃の取引相手が信用せず、別口で銃を買う羽目に追い込まれる。この辺りの少年たちの困惑と、そこを何とか切り抜ける機転の利かせ具合がなかなか面白い。ひとつピンチを切り抜けるたびに、それまでよく知らなかった相手の頭の良さや口の上手さ、度胸の良さ、危機回避能力などを知ることで、相手をリスペクトするようになってゆく。

口先ばかりのマイケル・ウィルソンが去ると、コンピュータ・オタクのウォルターが、なかなかの切れ者であることが分かってくる。種ちがいの弟のタイは家を出て以来音沙汰がなかったが、組織の雇われ仕事で、銃の扱いに慣れており、いざという時は頼りになる。ただ、何かというと銃を使いたがるので、イーストは扱いに困っている。タイは誰のいうことも聞きはしないのだ。

イーストは、冷静で暴力を好まない。「家」のガサ入れで銃撃戦に巻き込まれて死んだ少女をいつまでも忘れられない。そんな少年がなぜ殺人という依頼を受けたかだが、一つはフィンは父の実弟で、血のつながりがある。もう一つは、組織の危機を招いたのが自分が仕切る見張りチームのミスではなかったかという自責の念だ。さらに言えば、死んだ父の代わりに母に仕送りをしなければならなかった。

廃屋の段ボールの箱で眠り、洗面器で体を洗う少年の暮らしは、人の温みとは無縁だった。そんなイーストが父親代わりに出会うのが、第三部「オハイオ」。請け負った仕事はやり果せたものの、数々の失態から、ついにイーストは厄介者のタイを撃ってしまう。飛行機で家に帰るウォルターと別れ、独り東に向かって歩き出したイーストを雇ってくれたのが、スローター・レンジというウォー・ゲーム場のオーナーだった。

追われる身であるイーストは、このペリーに見込まれ、仕事を任される。模擬弾を使った撃ち合いだが、持ち込まれた弾には危険なものがある。プレイヤーたちが不正をしないか、上から見張ったり、掃除や道具の貸し出しをしたりといった仕事をイーストはしっかりこなした。客からも信頼され、オハイオでの暮らしにすっかりなじんだ頃、ペリーが死ぬ。そんな時、思いもかけないことに襲撃を受ける。

あっと驚くどんでん返しだが、オハイオでの地道な暮らしに共感を感じていた読者としてはありがたくない不意打ちだ。ネタバレになるので詳しくは書けないが、種明かしめいた展開はあまりいただけない。イーストという少年の成長と更生を願う読者としては、これではまるで、イーストが観音様の掌の中を飛び回る斉天大聖悟空のように見えてくる。いっぱしの大人のように思えていたイーストが一気にただの子どもに戻ってしまうのだ。

「書評七福神」の今月の一冊で票を集めていたので手を出した。これがデビュー作というので名うての評者も点が甘かったのかもしれない。広いアメリカを行く少年の目に初めて見える景色や、土地によって異なる人々の暮らしの様子など、少年であればこそとらえることのできる初々しい視点がある。ロード・ノヴェルの新境地かもしれない。ただ、終始十五歳の少年に寄り添った視点では、いくら大人びていても見えるものは限られている。それが叙述トリックなのかもしれないが、見える世界が限られている息苦しさが気になった。

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2017年10月28日

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