あらすじ
ラルース家事件の傷心を癒しきれないナディアは、炎暑のパリで見えざる敵の銃弾を受けたカケルに同行し南仏地方を訪れる。風光を愛でる暇もなく、心惹かれる青年と過ごす夏期休暇は、ヨハネ黙示録を主題とした連続殺人の真相究明行へと一変する。二度殺された死体、見立て、古城の密室殺人、秘宝伝説、いわくある過去……絢爛に鏤められたモチーフの数々が異端カタリ派の聖地というカンヴァスに描き出されるとき、本格探偵小説の饗応は、時空を超えて読む者を陶酔の彼岸へ誘わずにはいない。口笛が〈大地の歌〉を奏で、二重底に隠された最後のからくりを闡明する瞬間まで、探偵の座を明け渡す矢吹駆。その真意はいずこに?/解説=奥泉 光
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Posted by ブクログ
南仏モンセギュール。南仏財界の帝王と若き後妻、中世史研究家、女性活動家が集まるロシュフォール家。そこで殺害されたドイツ人。カタリ派の遺産を巡る謎。黙示録の騎士に見立てられた連続殺人事件。
Posted by ブクログ
悪く言ってしまえば、賢いのかお馬鹿なのか判別がつかない小説だった。どこからどこまでが現実で、どこからがフィクションなのだろうか。
たまに登場する中二病的な台詞や言動や組織には苦笑いしてしまう。あくまでも日本が舞台ではないのが救い。
結末も、一番まともに動機のある人物が犯人で、一番きな臭いい人物が黒幕的な役割だったという、イマイチ意外性のないもので残念だった。
思想モデル:シモーヌ・ヴェイユ
Posted by ブクログ
①事件に関しては、ただ自分の関心に沿って考察し判断する。場合によっては捜査関係者を欺くことも厭わない。
②犯罪を現象学的に考察するために、ひとつの犯罪が現象としてどのようにして生成していくのかを、始めから終わりまではっきりと見届ける必要がある。そのため、事件を未然に防ぐことになる干渉行為は極力行わない。
③事件が終わるまでは、①②を理由に、社会的な責任や人間的な反応といったものは極力表に出さない。
これは、ラルース家事件の時に、矢吹がナディアに語った、自身が事件に関わるときに決めたルールの要約である。今回も矢吹は、そのルールに従い、最初の事件が起きた時、成り行きを喝破していたにも関わらず沈黙していた。
自身の目的のために。
だが彼は、事件の裏で起きていた思想的対決において、相手に対し優勢になるに従って、彼の苦悩は増していくようだった、とナディアは見た。もしそれが真実ならば、矢吹の「真の」真意とはなんだったのか。
私は、彼は対決によって、相手が自分を負かすことによって、第三の離脱、つまりは「真の解脱」を試み、そしてそれは失敗に終わったとみるのだが、矢吹は沈黙するのみである。