あらすじ
群れで生きるための心の働きを、進化的に獲得してきたヒト。しかし、異なるモラルをもつ人々を含む大集団で生きる現代、仲間という境界線を越えて、人類が平和で安定した社会をつくるにはどうすればよいのか。心理学などの様々な実験をもとに、文系・理系の枠を飛び越え、人の社会を支える心のしくみを探る意欲作。
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Posted by ブクログ
人のモラルを他の生物とも比較しながら論じた本書。
一見悪癖とも思えるような人のゴシップ好きなども、相互評価という形で社会を成り立たせる一助になっている、との事。
確かに、悪癖とはいえデメリットばかりであるなら、人はとっくにそんなもの捨て去っていただろう。
他の悪癖、悪徳についてもメタ視点から見れば、ある種の効用があるのかもしれない。
Posted by ブクログ
進化生物学、行動科学、心理学、脳科学、経済学といった研究から実験社会科学という手法用いて、モラルに関する問題を論じている。
文系、理系の学問領域を横断的に研究した結果を提示しながら、最終的に、帯に書かれている【私たちの脳は、「仲間うち」超えて、平和な社会を築けるのか】という問いに対する解決策へと導いていく。とても面白く読み進めることができた。
第5章の最後の方で述べられている“「正義」は「国境」を超えるか?”という問いは、今後の世界平和のため重要な鍵になると思う。
Posted by ブクログ
生物学や社会心理学、脳科学などさまざまな学問を横断する実験社会科学による人間社会の分析と考察。「共感」だとか「適応」だとか、3つ4つの鍵となる項目を大きく見ていく感じです。そうやって、これからの正義やモラルを考えていく上で必要な、その源流(起源)を眺め、踏まえていくという体裁になっています。
たとえばミツバチの群れが集合知を実現している例から、ではなぜ人間社会では集合知が実現しないか(あるいは、しにくいか)についての考察があります。ミツバチの社会は血縁社会で、個人が生き抜けばよいというよりも群れが生き抜けばよしとします。よって、次の営巣地(ハチの巣の構築候補地)を探しその候補地を集合知でもって決定するとき、各々のミツバチは個人の利害なくフラットな目で候補地を判断するようなのです。そして八の字ダンスでのプレゼンを繰り返しながら、群れの多数決で決められた次の営巣地は、客観的に見てもベストなところに落ち着くのだそうです。他方、人間社会では「情報カスケード」と呼ばれる、無条件で他者の情報を優先する心理状態によってたとえばエラーである情報が連鎖してしまうことが多々あります。これは集合知ならぬ、その反対の集合愚にあたるケースです。つまりミツバチにくらべて人間のほうは自分の目で判断していないから上滑りするような情報共有になってしまう。それも無自覚にそうだし、そのような傾向も強い。そのあたりを深掘りして考えると、人間は非血縁社会で生きているがゆえに、「まわりとは独立に、自分の判断で評価を下す」ことが当の本人にとって不利益になる可能性があり、その可能性が少しでもあるならば空気を読んでそれを避ける心理が働く、という機制の存在が浮かび上がってきます。つまり、ほんとうは実体のない「世間」というものへの意識が、人間社会での集合知を実現させにくくしている。本書では、「だから、それをやめよう」というスタンスではありません。人間のありようを深くまでみつめて、「そのうえでベターを考えられたなら」というようなスタンスでした。なので、啓もう的ではなく科学的な態度の本であって、それゆえに客観的に、それこそデリケートな概念である正義やモラルを考える地点に近づくことができるのです。
後半部では、「最大多数の最大幸福」を掲げる功利主義や「最不遇の立場を最大に改善すること」を掲げるマキシミン原則を扱います。著者としてはその折衷点を考えていく実用主義を探る方向へと光を投げますが、この折衷(妥協)の落とし所がむずかしいんですよね。ある意味、おおざっぱな見立てをする人には「ダブルスタンダード」に見えてしまうくらいの、すっきりと洗練されていないところからまず始めないと到達できそうにない気が個人的にしますし、もしかすると現実的な実用主義はそういったゴツゴツして洗練されていない状態を受け入れることを要求してくるのかもしれない、なんていうイメージもふくらみました。
ページ数のすくない、ぎゅっと凝縮された論考といった新書なので、読んでいて難しかったりもっと広く扱ってほしいと思う箇所も少なからずありました。それでもぐっと視野が広まる良書です。著者はあとがきで、批判的に読んでほしいと書いています。この分野を活発にするためにはそういった態度での読み方が大歓迎なのでしょう。そのためには読みこんでしっかり把握しなければなりません。社会学に足をつっこみたい人にはぜひとも手にとっていただいて、がんばって批判をひとつでもぶつけてみるとおもしろいと思います。
Posted by ブクログ
・互恵的利他主義
チスイコウモリ
・社会的ジレンマ
共有地の悲劇
・公共財ゲーム実験
他人の目があると規範が守られやすい。
・間接互恵性
評判
・共感
表情模倣
情動伝染→親しい間柄ほど起こりやすい
思いやり行動は哺乳類に広く存在する。
情動的共感
認知的共感
・分配の正義、いかに分けるか
・功利主義
・最後通告ゲーム
→分配の規範は文化によって異なる。
・進化ゲームシミュレーション
・ヒトの脳は格差を嫌う。
・ロールズの思考実験。
→無知のベールを被ったヒトの集団は、社会の中で最も不遇な人々にとっての利益を最大化する政策を生み出すような基本原則が、正義の原理として全員一致で合意される。
マキシミン原理。
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公平さについての判断の仕組み。
共感性にもいろいろある。
最不遇になることを考える。
個人,種族を優先させるか。
不公平さを敏感に検出する人の特性。
Posted by ブクログ
全172ページのうち、115ページまでタイトルにある「モラル」という言葉が出てきません。それは、実験に基づいた科学的検証にたえうる事実からモラルの起源を導こうとしているからです。
第2章で社会性昆虫の集団意思決定の仕組みについてとしてミツバチの例を挙げ、「ミツバチの巣探し行動には、集合知(collective intelligence)が見られる」(p.29)と述べています。集合知がうまく働くには、「行動の同調」と「評価の独立性」が組み合わせられることが必要なのだということです。
そしてヒトの場合の集合知について、音楽ダウンロードの実験を挙げて比較しています。ヒトの場合は他の人の評価に影響を受けて意志決定をする、つまり「空気を読む」ために客観的な評価とのずれが生じてしまうというのです。集合知を適切な意思決定に利用するためには、評価の独立性をいかに担保するかが重要であるということを示唆しています。
他にもいろいろな生物学的な視点からヒトの行動について考察する事例があり、人間社会のあり方を見つめ直すきっかけになりました。
人文社会科学は「役に立たない学問」として切り捨てられる風潮が強まっていますが、決してそうではありません。混迷を深める現代にあって、私たちはどのような社会のあり方を目指していけばいいのか、その指針を明らかにする上でむしろより重要性を増しているのです。それを改めて確信させてくれる一冊です。
Posted by ブクログ
ヒトが人として存在しているというのは,どういうことなのか? 社会的な存在としての人は,ヒトが生き残っていくために,どんなはたらきをしてきたのか。
「実験社会科学からの問い」という副題のある本書は,進化の過程を経て現在の社会を作っている動物の姿を通して,ヒトの進化という視点で人の社会を見直すと何が見えてくるのかを明らかにしてくれます。
人の道徳や倫理といったことを進化の視点で見たことはなかったので,私にとっては新しい発見のある本でした。
同類の本も出ているようです。
「進化ゲーム」の話を読んでいると,国によって支配する道徳が違っていることも,うなづけます。
今,民族間・宗教間の対立があらわになってきて,混沌とした地球の中にいるのですが,〈われわれ〉と違った道徳や倫理観を持っている社会との上手なつきあい方は,このような研究からも生まれてくるのかも知れないなと思いました。
Posted by ブクログ
「生物学では、生き物を「適応」のシステムと捉える立場が主流です。」
他者と「社会」を構成することで、生き残ってきたヒトが、「社会」に適応した個体を結果して選択して残してきた、遺伝的な形質とは何か。
自動的に動き出す遺伝的形質が最適に働く社会のサイズと、現代の社会のサイズの違い。
幾世代を経ないと、遺伝的形質の変化は期待できない。
しかし、手動モードである功利主義的考え方を、意識的に取り入れることで、急激に距離が近くなってしまった社会と社会の摩擦を少なくすることができるのではないか、というのがこの本の要旨かと思う。
年をとると、これまでの経験などからか、他者との関係性にある程度、規範意識が強くなると思う。
しかし、同じ経験を重ねてきていない以上、それは一人ひとり違った規範になってきているのではないか。
だとすれば、新たな関係を結ぶことは、より困難になっていくのかもしれない。
柔軟性を持つべきとの考え方もあるであろうし、価値観の異なる他者とは、ある一定の段階からは、距離を置いてできる限り関わらない、というのもひとつの考え方かもしれない。
Posted by ブクログ
これたしかにコンパクトで見通しが良くかつ新書として過不足なく書かれていて、これからしばらくスタンダードになるわね。道徳心理学とか、平等とか正義とかをめぐってのネットのあれやこれやとか考えたい人は必読ってことになると思う。
Posted by ブクログ
人文科学と自然科学の接続をめざす野心的な試みにも見えるが、どうも周辺分野の学説を浅く広く紹介するにとどまり、終盤では人文寄りの話に終止している。「実験」社会科学を掲げているものの、社会心理学では昔から実験はごく当たり前だしね。
最後通告ゲームの結果に見られるように、ヒトの社会行動にも進化的な基盤を持つ(=概ね人類共通)ものとそうでもないものがあるみたいなので、もっとその境界を探ったりしてくれれば面白そうなのに。
Posted by ブクログ
オビの「いま・ここ・私たち」とある。「いまここ」本であれば読むしかないだろうといい感じで手に取ってみました。
多くの心理学の実験の結果などから「人の心とは大体こういうもの」という定義が長く続き、4章あたりから「いま・ここ・私たち」と功利主義などの解説に入る。
ロールズの無知のベールを実現不可能と断定している点がよい。じつは別の著者の『科学報道の真相:(ちくま新書)』では「弱者に寄り添うことで無知のベールを土台にした報道は可能」と言った感じで書かれていて、そんなんだったらどうしようか、と心配していたが取り越し苦労でした。
本書にある通りに「最適な分配が行われる社会」の構造が、人の直感に反する(自然に反する)ようであれば、その最適な社会を採用するには、素朴に考えると「強制的に(暴力的に)適応する」しかなく、それこそ「反社会的行為」となってしまうというジレンマがある。
そうした自然に反する思想の例としての共産主義思想には「自然に反している」という感覚がなく、逆に「原始共産主義」のようなキリスト教的なストーリーを作り出すことで「自然」を捏造してまで「正しさ」を作り出してしまうなどなど、このあたりを実際に進めようとするとなかなか難しい。
どちらにせよ思考実験を実際の社会で理想通りに実現するのは難しいというのはよくわかるが、では「いま・ここ・私たち」はどうだったかというと我々は「いま・ここ・私たち」に縛られているという感じで、この点についてはそれほど深みがなかったかなとも。