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群れで生きるための心の働きを、進化的に獲得してきたヒト。しかし、異なるモラルをもつ人々を含む大集団で生きる現代、仲間という境界線を越えて、人類が平和で安定した社会をつくるにはどうすればよいのか。心理学などの様々な実験をもとに、文系・理系の枠を飛び越え、人の社会を支える心のしくみを探る意欲作。
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Posted by ブクログ
人のモラルを他の生物とも比較しながら論じた本書。 一見悪癖とも思えるような人のゴシップ好きなども、相互評価という形で社会を成り立たせる一助になっている、との事。 確かに、悪癖とはいえデメリットばかりであるなら、人はとっくにそんなもの捨て去っていただろう。 他の悪癖、悪徳についてもメタ視...続きを読む点から見れば、ある種の効用があるのかもしれない。
進化生物学、行動科学、心理学、脳科学、経済学といった研究から実験社会科学という手法用いて、モラルに関する問題を論じている。 文系、理系の学問領域を横断的に研究した結果を提示しながら、最終的に、帯に書かれている【私たちの脳は、「仲間うち」超えて、平和な社会を築けるのか】という問いに対する解決策へと導...続きを読むいていく。とても面白く読み進めることができた。 第5章の最後の方で述べられている“「正義」は「国境」を超えるか?”という問いは、今後の世界平和のため重要な鍵になると思う。
正義や規範をどのように他者と共有していくか、様々な分野の実験を基に検証していく。 毎日新聞今週の本棚掲載2017423 noteまとめあり。
公平さについての判断の仕組み。 共感性にもいろいろある。 最不遇になることを考える。 個人,種族を優先させるか。 不公平さを敏感に検出する人の特性。
全172ページのうち、115ページまでタイトルにある「モラル」という言葉が出てきません。それは、実験に基づいた科学的検証にたえうる事実からモラルの起源を導こうとしているからです。 第2章で社会性昆虫の集団意思決定の仕組みについてとしてミツバチの例を挙げ、「ミツバチの巣探し行動には、集合知(col...続きを読むlective intelligence)が見られる」(p.29)と述べています。集合知がうまく働くには、「行動の同調」と「評価の独立性」が組み合わせられることが必要なのだということです。 そしてヒトの場合の集合知について、音楽ダウンロードの実験を挙げて比較しています。ヒトの場合は他の人の評価に影響を受けて意志決定をする、つまり「空気を読む」ために客観的な評価とのずれが生じてしまうというのです。集合知を適切な意思決定に利用するためには、評価の独立性をいかに担保するかが重要であるということを示唆しています。 他にもいろいろな生物学的な視点からヒトの行動について考察する事例があり、人間社会のあり方を見つめ直すきっかけになりました。 人文社会科学は「役に立たない学問」として切り捨てられる風潮が強まっていますが、決してそうではありません。混迷を深める現代にあって、私たちはどのような社会のあり方を目指していけばいいのか、その指針を明らかにする上でむしろより重要性を増しているのです。それを改めて確信させてくれる一冊です。
ヒトが人として存在しているというのは,どういうことなのか? 社会的な存在としての人は,ヒトが生き残っていくために,どんなはたらきをしてきたのか。 「実験社会科学からの問い」という副題のある本書は,進化の過程を経て現在の社会を作っている動物の姿を通して,ヒトの進化という視点で人の社会を見直すと何が...続きを読む見えてくるのかを明らかにしてくれます。 人の道徳や倫理といったことを進化の視点で見たことはなかったので,私にとっては新しい発見のある本でした。 同類の本も出ているようです。 「進化ゲーム」の話を読んでいると,国によって支配する道徳が違っていることも,うなづけます。 今,民族間・宗教間の対立があらわになってきて,混沌とした地球の中にいるのですが,〈われわれ〉と違った道徳や倫理観を持っている社会との上手なつきあい方は,このような研究からも生まれてくるのかも知れないなと思いました。
「生物学では、生き物を「適応」のシステムと捉える立場が主流です。」 他者と「社会」を構成することで、生き残ってきたヒトが、「社会」に適応した個体を結果して選択して残してきた、遺伝的な形質とは何か。 自動的に動き出す遺伝的形質が最適に働く社会のサイズと、現代の社会のサイズの違い。 幾世代を経ない...続きを読むと、遺伝的形質の変化は期待できない。 しかし、手動モードである功利主義的考え方を、意識的に取り入れることで、急激に距離が近くなってしまった社会と社会の摩擦を少なくすることができるのではないか、というのがこの本の要旨かと思う。 年をとると、これまでの経験などからか、他者との関係性にある程度、規範意識が強くなると思う。 しかし、同じ経験を重ねてきていない以上、それは一人ひとり違った規範になってきているのではないか。 だとすれば、新たな関係を結ぶことは、より困難になっていくのかもしれない。 柔軟性を持つべきとの考え方もあるであろうし、価値観の異なる他者とは、ある一定の段階からは、距離を置いてできる限り関わらない、というのもひとつの考え方かもしれない。
これたしかにコンパクトで見通しが良くかつ新書として過不足なく書かれていて、これからしばらくスタンダードになるわね。道徳心理学とか、平等とか正義とかをめぐってのネットのあれやこれやとか考えたい人は必読ってことになると思う。
人文科学と自然科学の接続をめざす野心的な試みにも見えるが、どうも周辺分野の学説を浅く広く紹介するにとどまり、終盤では人文寄りの話に終止している。「実験」社会科学を掲げているものの、社会心理学では昔から実験はごく当たり前だしね。 最後通告ゲームの結果に見られるように、ヒトの社会行動にも進化的な基盤を...続きを読む持つ(=概ね人類共通)ものとそうでもないものがあるみたいなので、もっとその境界を探ったりしてくれれば面白そうなのに。
オビの「いま・ここ・私たち」とある。「いまここ」本であれば読むしかないだろうといい感じで手に取ってみました。 多くの心理学の実験の結果などから「人の心とは大体こういうもの」という定義が長く続き、4章あたりから「いま・ここ・私たち」と功利主義などの解説に入る。 ロールズの無知のベールを実現不可能と...続きを読む断定している点がよい。じつは別の著者の『科学報道の真相:(ちくま新書)』では「弱者に寄り添うことで無知のベールを土台にした報道は可能」と言った感じで書かれていて、そんなんだったらどうしようか、と心配していたが取り越し苦労でした。 本書にある通りに「最適な分配が行われる社会」の構造が、人の直感に反する(自然に反する)ようであれば、その最適な社会を採用するには、素朴に考えると「強制的に(暴力的に)適応する」しかなく、それこそ「反社会的行為」となってしまうというジレンマがある。 そうした自然に反する思想の例としての共産主義思想には「自然に反している」という感覚がなく、逆に「原始共産主義」のようなキリスト教的なストーリーを作り出すことで「自然」を捏造してまで「正しさ」を作り出してしまうなどなど、このあたりを実際に進めようとするとなかなか難しい。 どちらにせよ思考実験を実際の社会で理想通りに実現するのは難しいというのはよくわかるが、では「いま・ここ・私たち」はどうだったかというと我々は「いま・ここ・私たち」に縛られているという感じで、この点についてはそれほど深みがなかったかなとも。
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