【感想・ネタバレ】イワン・イリッチの死のレビュー

あらすじ

一官吏が不治の病にかかって肉体的にも精神的にも恐ろしい苦痛をなめ、死の恐怖と孤独にさいなまれながら諦観に達するまでを描く。題材には何の変哲もないが、トルストイの透徹した観察と生きて鼓動するような感覚描写は、非凡な英雄偉人の生涯にもまして、この一凡人の小さな生活にずしりとした存在感をあたえている。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

トルストイ56歳の作品だ、しばらく休筆した後でもう死を見つめたのか。彼は壮絶なイリイチの死を内側から見ている。気力のあった頃に大作の後で読んだのだが、その頃はあまり記憶に残らなかったが、再読してみた。
まず、イリイチの死が知らされ、裁判所の同僚の噂話から始まる。彼らの関心は空いた椅子に座る人物についてだった。イワン・イリイチはまだ45歳の判事だった。

イリイチがどんなに俗人であったか、トルストイは容赦なく述べる。
彼は秀才で礼儀正しく順調に地位を登っていった。しかしそれには用心して人と付き合い、尊敬され好ましい人物と思われるように、要領よく仕事をした。そのための努力を惜しまずに、方法を自然に身に着けた。
家庭を持ち、妻と子供に恵まれ新しい家を買った。見栄えのよい部屋をあつらえたが、どんなに品よく飾り立てても所詮自分が満足するありふれた範囲から出ることはなかった。それでも十分快適で、俗人であることには気が付かなかった。
気に入っていた妻と、子育ての煩雑さで溝が深まるまでは。

彼の不運は、カーテンを吊るために上がった梯子が倒れ脇腹を打ってから始まった。重苦しい鈍い痛みが次第に強まり舌に変な味がし始めた。

医者は命に別状はないと診断した、不安に駆られ医者を変えて様々に検査をしたが、はっきりとした病名はなく、薬を処方されるだけだった。
だが痛みは増し、死におびえイライラと落ち着かず、すべては周りのせいにした。
気難しい夫を妻も持て余し気味で、家庭も荒れて来た。

動けるうちは見栄もあり生活のためもあって苦痛にさいなまれながら働いていたが、回りの人々の気配も変わってきた。発病して三か月たって、彼は自分の病気を自覚した。

彼の慰めは下男のゲラーシムの変わらない献身だった。痛みの苦痛は増してきたが医者の絶望的ではないという言葉にある、一抹の希望にすがっていた。だがもう耐えられなくなってきた。

心の声と対話を始めた。彼は人生を遡って思う、自分は坂を上っていたつもりが下っているのではないか。次第に命が離れていく。

苦しみながら死ぬのは何か間違ったのだろうか。

二週間後に長女の結婚が決まった。

妻の眼に憎悪を見た。「お願いだ静かに死なしてくれ」
のたうちながらアヘンをのみ束の間の平安の後にまた苦しみ、希望と絶望が交互に襲って来た。

三日間苦痛にうなり続けて彼はやっと気が付いた。
死んだらみんな楽になるのだ。
許してくれというつもりが伝わらなかった。そして今まで苦しめられて来た死という思いが体から離れていき代わりに光が訪れた。


なんてむごい死にざまを書いたものだろう。トルストイという人にとっても、平凡な俗人が死ぬ間際になって初めて光を見出すという、彼の信仰の一つの形が書かれている。

我々は今の人口と同じ数の死の上に生きているという記事を読んだことがある。歴史上に名を遺した人々も、名を遺したという時にはすでに肉体を持っていない。イワン・イリイチの死は誰にでも訪れる普遍的な避けられないものであると同時に一つの典型でもある。

再読にもかかわらず、深い感銘を受けた。

余談だが、夫人が観劇に行くシーンがある。サラ・ベルナールを見に行くという。
そういう時代だったのか、ならその舞台のポスターはミュシャだっただろう、と何か現実味を感じた。

0
2026年02月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あーーー良かった。今読みたい本だった。痒いところに手が届く本だった。
イワンはバカだなあと思う気持ち(イワンのバカなだけに)と、果たして自分は絶対にイワンのようにはならないとは言えるのか、不安になった。怖くなった。
イワンは本当にバカだ。世間での評価しか頭になくて、本当に自分が大切にしたいもの、魂の声を全く聞いていなかった。世間の評価がなぜ大事なのか考えたこともなかっただろう。俗っぽい、つまらない人生。
でも、魂の声を聞き続けるのも大変。そんなのすぐに答えが見つかる問いではない。聞き続ける、探し続けることその自体に意味がある、その行為自体が目的になってしまうようなことだと思う。自分はまだ声を聞ききれていなくて、何が大切かもわからなくて、何をしたいかも不明瞭だしできるかもわからないし、そんな中で余命宣告なんかでもされたら相当の恐怖。なんならお腹が痛くなるたびに将来大腸癌で死ぬ妄想をしてゾッとする。まだまだ死ねない。満足がいく最期を迎えたい。美しく死にたい。そのためには魂の声を聞き続けなければならない。
一つ救いがあるとすれば、こんなイワンでも死ぬ直前には希望の光が見えたこと。直前まで苦しくて辛かったけど、最後の最後で辛くなくなったのはよかったね。ろくでもない人間でも最後に救いがあるというのは素晴らしい。
トルストイ面白かったな、他の作品も読んでみたいな。

0
2025年07月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

古典に全てが書かれている、というのはやはりそうなのだろうか。
スマホもSNSもなかった時代の話だし、人権に対する考え方も時代とともに変わってきている。
ただ、テクノロジーや社会規範がどれだけ変わっても、人間の根っこにあるものは変わらない。
例えると、その証拠のひとつ、男性の孤独と欲望の話がある。
間とお金を得た男性(オジサン)が何をするかー蕎麦を打ったり、走り出したり、筋トレをしたりと一人でできることを始める人もいれば、結局「酒・ドラッグ・女」という方向に向かう人もいる。
エプスタイン事件のような大富豪の問題を見ても、人間の欲望の収斂する先は案外変わらない。
昭和オジサンと言われる人の中には親しくなると下ネタを言ってなんらかの共有感を持たせたりする人がいる。それが異性に対してはセクハラになる。もちろん、あわよくばという気持ちもあるんだろう。
ま、それはいつの世も「男は単純だ」という話であると同時に「男は寂しい」という話でもある。
言いたい事は、新しい考えだと思ったら、昔の誰かがすでに考えていたことだったーそういうことが非常に多い。
だからこそ古典は有用と改めて思った。
さて、この作品を読んでまず思ったのは、純粋にエンターテイメントとして面白いということだ。
構成は倒叙方式ー『刑事コロンボ』をご存知の方ならイメージしやすいだろう。
先に結末が示され、その後で主人公や周囲の人々の状況が描かれていく。これにより、読者は「どうなるか」ではなく「なぜそうなったのか」「自分ならどうか」を考えながら読み進めることになる。もっともミステリーではない。

当時の医療水準の問題かと思いきや、そうでもない。深刻な病を前にした人間の心理——病院に行きたがらない気持ち、現実を直視できない葛藤——は、現代と変わらない。自分がその立場になったとき何を思うか、読みながら自然と考えさせられる。

ネタバレになるのであまり書けないが、薄い本ながら内容は濃厚で、読みにくさは全くない。翻訳も複数出ているので、読み比べてみるのも面白いかもしれない。

まずは死が身近なテーマになってくる40歳以上の方に特に勧めたい。

この年齢になると、同級生や先輩がぽつぽつと亡くなり始める。そういう実感を持って読むと、この作品のリアリティが一層増す。それ以下の年齢だと、少し実感が湧きにくいかもしれない。逆に言えば、40代以降にはぴったりの一冊だ。

主人公の周囲の人物描写も読みどころのひとつだ。同じ一人の人間を、周囲の人がそれぞれ全く異なる目で見ている。
嫉妬心のある人は歪んだ視線でその人を見る。

つまり、他者による評価というのは、実はその人そのものの評価ではなく、評価する側の内面が反映されたものにすぎないことが多い。

これは現代社会の問題とも重なる。

たとえば、日本の中小企業における解雇事例を研究した『日本の雇用終了』(労働政策研究・研修機構)によれば、解雇の原因は能力不足よりもな、なんと「態度」に起因するケースが多い。

有給を申請しただけで解雇された例すらある。要するに、その人自身を見ているのではなく、「自分がどう受け止めたか」だけで他者を判断しているわけだ。(実は労働問題を勉強している人が最初に衝撃を受けるのはこれだと思っている。)

さらに近年では『ナラティブ政治』という概念が注目されている。米バージニア大学のラリー・サバト教授らによる概念で、同じことを言っても誰が言うかによって評価が真逆になるという現象を指す。
これは政治だけでなく、社会全体に広がりつつある。

どんな悪行も「キャラ」で逃げきれられる可能性が生まれるという、なかなか恐ろしい社会になっているわけだ。

つまるところ、そのあなたの判断や行動、意見が悪行を行っている者に優しく接する事が、結果として悪行が再生産つまり他に被害者が出る事を助けているのだ。

本書では、死にゆく主人公への周囲の反応は、現代と変わらない。
そして主人公自身——「こんなはずではなかった」という、もがき、バタつく心。その描写も心がざわざわする。

出世を強く望み、家庭を疎かにし、仕事を盾に妻子の要求を退ける主人公の姿は、昭和以降の日本のサラリーマン・父親像とそっくり。
そんな夫婦関係は今でもあるだろう。
50代の離婚は増加傾向だ。

トルストイが『アンナ・カレーニナ』執筆後に人生の無意味さに苦しみ、自殺すら考えながら回復した経験がこの作品の背景にあると聞いたが説得力がある。

「人生を良く生きる」とはどういうことか。

死が最終的に自分の人生に真実を突きつけてくると、本当に重要なことは何なのか。
主人公イワンの気づきは、人生を作り直すには遅すぎた。しかし、私たち読者にとっては遅すぎない、まだ間に合う!

「人生とは何か」

この本は今年のベストには入ってくるんだろうな

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2026年06月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

思った以上に現代的、というか、通ずるところがやけにリアルに感じた。

死ぬ前まで、いや、死んでまでも、分からないこと、気づかない小尾、たくさんあるんあろなー。いろんな本読んで、少しでもいろんな大事なことに気付きたいと思う。すぐ忘れるけど。

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2020年07月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

難しそうだなあと思いつつ、一気に読みきってしまった。
読んでいて胸の詰まるような、苦しい気持ちになりながら。
死ぬ間際の、今までの生活、価値観全てを否定する気づきに虚しさを感じた。
が、現代に生きるわたしたちはどうだろう。
ずっと昔に書かれた本だけれど、今の自分の生活、間違っていないだろうか。
間違いって?
SNSに翻弄されながら、寂しい夜を過ごしたり、
いったい何が本当の幸せなのか。
やはり本当の幸せは、生から解放される瞬間にしかないのでしょうか。

疑心にまみれる人生は苦しい。

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2019年05月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【感想】
前半はなかなか読み進めることができなかったが、後半から面白かった。死に対しての恐怖、家族への憎しみなどがリアルだった。

【あらすじ】
イワン・イリッチが亡くなり、葬儀が行われる。
イワンの過去について。妻プラスコーヴィヤとの結婚生活は上手くいかなかったが仕事は順調だった。イワンは家の手入れをしていて転倒して以降、腹痛に襲われるようになった。病気のことばかり考えてしまうので裁判の仕事に身を入れようとするが、痛みによって思い出してしまう。百姓であるゲラーシムに看病してもらうときは気分が良い。
妻や子供たちがイワンの病について気遣うが、偽りであると感じ余計に苛立ってしまう。肉体的苦痛、精神的苦痛を感じるが、最期は死の恐怖から解放され光を感じるのであった。

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2020年11月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

思いがけないきっかけで、思いがけない重い病に襲われてしまった主人公。心理描写が秀逸で、読んでいて、つらーくなる。身に染みる。

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2018年04月23日

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