あらすじ
「残された作品の画面に何が具体的に見えるか、そしてそのイメージが、見るもののフィルム的感性をどのように刺激するかを論じてみたい。つまり、現実のフィルム体験として生きうる限りの小津安二郎の作品について語ってみたいと思う」(本書序章より)。人々がとらわれている小津的なるものの神話から瞳を解き放ち、その映画の魅力の真の動因に迫る画期的著作。本文庫は、小津の生誕百年(2003年)を機に旧版へ三章を増補した決定版である。名キャメラマン厚田雄春と『美人哀愁』の主演女優井上雪子へのインタヴューほかを併録。
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Posted by ブクログ
読みやすさ ★★★★
面白さ ★★★★
ためになった度 ★★★★★
自分にとって、折りに触れて再読する本。難解と言われることもある蓮實の著作の中でも、相当わかりやすい部類に入る。何より、蓮實の小津に対するリスペクトがすごい。小津ファンに限らず、すべての映画ファンに読んでほしい一冊。
Posted by ブクログ
小津の研究本は数多出ている。フランスでも人気だという。ローアングルなども言われ尽くしている。だからこそ実際に映画を見るのが一番。「東京物語」が傑作なのは周知だか、自分はカラー作品になってからの小津が好き。くすんだ赤をワンポイントにした画面がいい。また、今となっては貴重な昭和の衣装、街並み、会話が逆に新鮮。
好きな作品は遺作となった「秋刀魚の味」。結果として最後にふさわしい無駄のない集大成な作品となっている。好きなシーンは「彼岸花」の十国峠でのやりとり。家族旅行で一番幸せな時。その次のシーンでは娘の結婚話が出て、幸せな家族の崩壊が始まる。
Posted by ブクログ
本当に時間がかかったが、ようやくこの大書を読破した。明らかにこの本を読む前と比べて映画の見方が変わった、というかふくらんだ。これまでのように説話論的な機能のみを求めて画面に注意を向けていると、見えていないものがあまりに多くなってしまいかねない、そんなリスクをはじめて認識した。
「記念写真をとってしまったゆえに、その家庭は崩壊せざるをえない」・・・記念撮影は、小津の映画の説話論的な構造にあって、別れという主題体系と深く結びついている、との指摘が特に強力。無論、自分はそんな見方をしたことがなかったから、インパクト大。
このような論旨が盛りだくさんで、本当に重く読み応えのある本でした。
Posted by ブクログ
(01)
小津の作家論ではあるが,映画論,ひいては視覚芸術論としても読める.
各作品についてそれぞれ論究してまとめたわけではないし,小津の生い立ちや人生から作品に現れたものを観察したわけでもない.映画を視覚そのまままに見えてくるものを,徹頭徹尾,ひたすらに記述しようという試みである.
また,黒澤,溝口,成瀬といった同時代の映画作家たちとの比較や,小津が大きな影響を受けたハリウッド映画との比較を主題においたものでもない.
その観照と記述を突き詰めたとき,映画が映画だりうる限界を本書は発見している.著者は,小津の映画に見られる衣食住(*02)の特徴的な現われ方から説き起こし,映画に起こっている運動(*03),画面と画面が繋がり,映画と映画とが互いに響き合う構造を見出し,小津の実存をとらえている.
(02)
特に第4章の「住むこと」は圧巻でもあり,小津の空間感覚や建築の受容を考える上での興味深い指摘にあふれている.その後は,視線や天気の問題にまで踏み込んでおり,風景論としても示唆に富んでいる.
(03)
付録の厚田や井上への取材は噛み合っていない部分があるものの,かつての映画の見え方についてのヒントがある.また,年譜も詳しく,特に小津自身の生身の身体について思わしげな記事がみられる.