【感想・ネタバレ】三笠宮と東條英機暗殺計画 極秘証言から昭和史の謎に迫るのレビュー

あらすじ

暗殺は実行寸前だった……。昭和史の全貌を知る最後の皇族、12時間の長時間インタビュー。平成28年10月27日に百年のご生涯をまっとうされ、薨去された三笠宮崇仁親王。実は、将来発表されることを望まれて、封印された歴史について証言を遺されていた。昭和19年夏。日本が絶対国防圏と定めたサイパンが危機に陥ると、首相、陸将、参謀総長などを兼ねる東條英機への批判が巻き起こる。「このままでは日本は蹂躙される」。意を決したある陸軍少佐が、東條抹殺を企図。計画書を三笠宮に渡そうとする。そして……。石原莞爾、小畑敏四郎、高松宮宣仁親王、東久邇宮稔彦王、そして憲兵隊の目。様々な関係者が交錯するなか、事態は急展開することになる。当時、戦局を憂うる人々は何を考え、いかに行動しようとしたのか。どんな打開策がありえたのか。三笠宮殿下のロングインタビューや未公開史料から、昭和史上、稀に見る怪事件の謎を解き明かし、歴史の闇に迫る。目次より ●序章:三笠宮からの電話と書簡 ●第1章:津野田少佐と牛島辰熊 ●第2章:知将・石原莞爾、小畑敏四郎 ●第3章:東條暗殺へ動く三つの影 ●第4章:三笠宮の翻意、津野田逮捕へ ●第5章:戦後民主主義と三笠宮

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Posted by ブクログ

日本が太平洋戦争に突入し、緒戦の勢いを失いかけていた頃、国内では密かに東條英機暗殺計画が計画されていた。その一端を担っていたのが皇族であったという衝撃的な内容である。時の首相東條英機と言えば、ドイツのヒトラーやイタリアのムッソリーニと並び東洋の悪鬼として、第二次世界大戦全体での悪の代表格とされている。ヨーロッパでは既にドイツの敗北が濃厚視されていた頃、国内では内閣総理大臣だけでなく、陸軍大臣そして参謀総長までを兼任し、1人三役で昭和天皇に上奏するなど内政から戦争指導、作戦まで1人で権力を振りかざして決められる立ち位置にあった。確かに権力は集中し側から見れば「独裁者」としての東條が当時の日本を動かしていたという見方は間違っていない。戦後ごく最近になって、その様な東條独裁者感は見直されてきており、戦争を拡大させたく無い昭和天皇が絶対の信を置く東條を戦争終結を目的に首相に据え、東條自身も戦争責任を一身に背負うためにあらゆる任を独り抱え込んだという見方もされつつある。
東條英機とはどの様な人物かと言えば真面目一徹で几帳面な官僚型の人物で、その事務的能力は若い頃から卓越し、部下の扱いも上手く、若手からも人気があったと言われている。そのような人物がやがて来る敗戦濃厚の状況、特に絶対国防圏と言われたサイパンへ米軍が上陸する前後に暗殺の対象となっていた。
戦争の状況としては、サイパンを絶対的に奪われてはならない場所としながらも、戦争指導部は楽観論に囚われて守れるだけの防備の強化などは行なっていない。実質的に制空権制海権を失いつつある日本に兵士の増援ができる状況ではなかったから「送らなくても大丈夫」ではなく「送れないから大丈夫であって欲しい」というのが正しい。しかも表面上そう言っておけば、大丈夫だったはずなのに米軍にサイパンを奪われたのは現場の能力不足として責任なすりつけも可能だったと容易に想像がつく。
状況が状況だけに、本書は三笠宮様を取り巻く暗殺計画ではあるが、実態としては高松宮様勢力の暗殺計画や軍部主導の暗殺計画など、同時並行的に3つの暗殺計画の準備が進んでいた様である。なお皇族自身が自分たちが信任した首相を殺害するという計画遂行は、かなり衝撃的であり、事後の皇族への評価を考えた場合(皇族が暗殺に加担)、実行に至るのはかなり追い詰められた状況でなければ有り得ないとは思う。実際サイパン陥落を目前にした日本はそこまで追い込まれていたのであろう。
本書は三笠宮様が亡くなられた後に、生前の殿下へのインタビューという形で始まるのであるが、生前の出版は控えられ、そうした皇族への配慮が見られる。既に戦争終結から80年近くに迫る現在では、過去日本にこの様な混乱期があり、さまざまな人物の暗躍とそこに駆り出される皇族の姿があった事を窺い知ることが出来る。一つの歴史として学ぶには良い内容である。
そしてそれら計画を前にし皇族が暗殺計画に乗ることは考えにくい事を見抜いた石原莞爾の洞察力、更には同意に自署までし、実行後に責任を言及されても喝破できるという自信なのか、暗殺は実行されないと見抜いていたのか、石原の行動に再び舌を巻くのである。まさにそこまで追い詰められた状況だったのは間違いないが、結論としては読者の認識の通り、東條は首相を退任し前後の裁判によって死刑となっている。
3つの暗殺計画の中で、昭和天皇の一番若い兄弟であった三笠宮様を取り巻く出来事として中々読み応えのある一冊である。

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2023年10月01日

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