あらすじ
その日私はお腹の子と共に、夜行バスに乗って東京を去った……田舎の海沿いのラブホテル「コート・ダジュール」を舞台に、女性の持つ業と痛み、そして連綿と続く「命」の連鎖を描く飛躍作!
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 ̄月は昨日とおなじ、ぎんなんのようにぷっくりとふくれて浮かんでいた。(P.16)
暮れかけた世界は、藍色とオレンジを水彩でまぜたみたいに、うつくしくにじんでいる。(P.67)
空にはぎんなんのように、不恰好に太った月がうかんでいた。あたりはすっかり夜だ。(P.81)
それなりに苦労のあとがある。歳月のすぎさりも。そして得体のしれない憂鬱をぶらさげて、ただじっとわたしのことを見る。(P.135)
海沿いの古いホテルで働くことになったみつみ。「人間はみな罪を犯して生きている」という頼子さんの言葉を信じ、行き場の無い感情を出さずにいる登場人物たちの閉塞感。みつみは母に全てを縛られて生きてきて、今度は自分が母になるという時、どんな母親を理想として思い描くのだろう。たんたんと、みつみのホテルで働き、あるカメラマンと出会い、不倫相手の家に行き、別れを告げる様子がえがかれている。かつて自分を縛りつけ、勝手に死んだ母。そして、頼子さんもまた、義母に虐げられ、夫にも手をあげられ、自分を守るために夫を殺していた。罪と許しという大きなテーマの中で隠していた、思い出さないようにしていた過去が明るみになった時、みつみと頼子さんの交わってはいけない運命が重なってしまう。女は唯一、子が産め、神聖な聖母のような描き方もされているが、子を守るためなら他人を殺すこともでき、強い生き物であり、男より執念深く、恐ろしい生き物でもある。自分が殺した女の横で出産をするという生と死の対比、死体から流れ出る血液の赤と、出産の赤の対比が美しくも残酷であり、インパクトのある終わり方で頭に残った。
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中山咲 著「血と肉」、2017.1発行。今年28歳の中山咲さん、初読み作家です。「血と肉」、この作品は純文学でしょうか、そんな気がします。次の作品、注目したくなりました。期待しています!
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舞台は東京から半日掛かる田舎の古ぼけた海辺のラブホテル「コート・ダジュール」
不倫相手の子供を身ごもり、一人で生む決意をした高橋 光海(たかはし みつみ)が主人公です。
凄く大きな出来事は起きないまま、ホテルに連泊しに来た客、カメラマンの石岡琢磨との出会いがあったり ホテルの一室で聖書の勉強会があったり、物語は淡々と過ぎて行きますが そこからは想像が付かなかった壮絶なラストが待っていました。
タイトルからイメージしたグロテスクな描写も少しあり、インパクトが残る作品でした。
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生まれながらにしての罪と許し。
不倫相手の子を妊娠し、相手の家庭を壊して逃げるようにラブホの住み込みの仕事をすることになったみつみ。
雇い主の頼子さんが行なっている怪しげなミサに参加して
頼子さんが言うには、人が抱えている罪と、それを神に許してもらうことができるということだった。
子供だった頃、絶対的な存在だった不安定な母によって
窮屈な日々を過ごしてきた記憶。
あっけなく関係が壊れていった不倫相手とめちゃくちゃにしてきたその家族のこと。
日に日に大きく成長していく腹のなかの子供。
温厚で物静かな頼子さんが、実は昔に旦那を正当防衛で殺していたことを知ったみつみ。
最後がなんとも、びっくり。
人の弱さを信仰することによって保つことは、それはそれでありだけど
子供という逃げ場のない存在にそれを押し付ける行為って、ゾッとするね。
そして、女って生き物は執念深く、強い。
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未婚の母になる決意をした光海が田舎のラブホテルで働く。上品で優しいオーナーの老婆は罪の許しを求め一室を教会とし、母による食の呪縛の元育った光海の事情の秘密は薄布を一枚一枚捲るように明らかになる。謎めいたどきどき。不倫の決着の熱。穏やかさが終盤でゆっくりと確実に崩れる緊張感。独特の説得力。結末は心配。