あらすじ
四歳の春。巨大団地を出て、初めて幼稚園に向かった。この四〇〇メートルが、自由を獲得するための冒険の始まりだった。忘れたランドセル、家族への違和感、名づけの秘密……。錯綜する記憶の中で、母に手を引かれ、世界を解明する鍵を探す。生きることに迷ったら、幼き記憶に潜ればいい。強さと輝きはいつもそこにある。稀代の芸術家による自伝的小説。
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Posted by ブクログ
僕の幼年時代。それは幻の時間である。
小学校よりも前、あの頃の自分がしていたこと、何を考えていたか、どうやって生きていたのか。
ほとんど記憶がない。
記憶を手繰り寄せると、最初に出てくるのは幼稚園の入口の坂の下に生えていたグミの木の実をチマチマ摘んでは食べていた記憶を思い出す。
幼いころの記憶はあいまいで、いつ俺が俺になっていったのか分からない。
だから、筆者が今でも私小説として四歳児だったときの自分を書くことができるのがすごいと思う。
読んでいると、確かに幼いころの世界は今とは違って見えていたことを思い出す。
天井の木目をいつまでも眺めていたり、ベランダから見下ろす景色と部屋の中の世界との違いを感じていたり、太陽が当たる硝子戸の桟が仕切る直線の上は明るく下は暗かったり。
あの頃の自分の世界と、今の俺の世界とでは不連続だ。
筆者は自分の世界と、周りを取り巻く世界に違和感を幼いころから感じ、その違和感を今でも持ち続けているようだ。
誰にとっても当たり前の世界に疑問を感じた末に「東京ゼロ円生活」や「独立国家のつくりかた」につながっていく。
幼いころにしか持ちえない世界が懐かしい。