あらすじ
ロンドン郊外の住宅地の路上で、ひとりの黒人青年がB777から墜落し息絶えていた。彼の持ち物はわずかな現金と携帯電話だけ。ジュネーブ、ケープタウン、アンゴラ、モザンビーク──SIMカードに残されたデータを頼りに事件の謎を追い、真相に迫るなかで見えてきたのは、現代の奴隷社会と言うべき過酷な現実だった。
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Posted by ブクログ
[その先を目指して]着陸態勢に入った飛行機から落ち,ロンドンのアスファルトに叩きつけられた一人の男。新聞のベタ記事を飾るようなそのニュースに興味を持った著者は,「空から降ってきた男」の素性を知ろうとするのだが,彼が直面したのは,移民をめぐる大陸をまたいだ一つの厳しい現実であった......。著者は,日本人として初めて英国外国特派員協会賞を受賞した小倉孝保。
着眼点だけで満点を与えたくなるノンフィクション。ニュースで数字として取り上げられることの多い移民問題ですが,マタダという男性の人生を通して見ることによりその複雑な背景事情を浮かび上がらせることに成功しています。
〜欧州を目指す人の波の裏に何があるのか。普段は集合体でしかとらえることのない移民現象を,マタダの人生を通して,具体化してみせることが可能だと思った。〜
それにしてもこの終焉は切なすぎる☆5つ
Posted by ブクログ
2012/9/9-0750AM
ロンドン警視庁に緊急通報が入る。
ロンドン西部、リッチモンド・アポン・テムズ区、モートレイクのポートマン通りに人が倒れて死んでいるように見える、とのこと。
普段は静かな住宅街に、多くの警察官が集まり、現場での捜査が始まった。
しばらくすると、警察官は上空を気にし始めた。
現場はヒースロー空港から13キロ程度。
被害者は、どうやら現場上空で着陸のために車輪を出したとき、格納部から墜落したようだと考えられた。
身元確認などで捜査は難航するが、次第に状況が明らかになってゆく。
亡くなったのはモザンビーク出身の男性、ジョゼ・マタダ。
死亡した日はマタダの26歳の誕生日だった。
おりしも事件の日はロンドンパラリンピックの閉会式。
世界が一つにまとまり、スポーツの祭典が大団円を迎えるその日に、アフリカから逃げ出してきた一人の若者が息を引き取った。
「未だに、世界には命の危険を冒してでも、海を渡る事を熱望する人がいる。彼らが、命と引き替えにしてまでも手に入れたいものとは何なのだろう」(p.27)
集団として“移民問題”を論じるのではなく、今回の事件について、一人の男性の生涯を取材することで、社会の不平等な実態を暴くドキュメント。
「慎重な性格だった」と家族が語る男性が、飛行機の車輪の格納庫でヨーロッパを目指すなどという無謀な行動に出たその理由について、ともに考えられる作品。