【感想・ネタバレ】空から降ってきた男―アフリカ「奴隷社会」の悲劇―のレビュー

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なんとも切ない。貧困から脱したかった、賄賂が蔓延る国から出たかった、等々理由はあるだろうけれど、やっぱり彼女の元に行きたいというのが大きかったんだろうなあ。ロマンティック過ぎるかな。

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2020年08月05日

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・アイデンティティを保つムスリム
様々な国の血が混じり、アフリカなど色々な国を渡り歩き、数カ国語を操れるジェシカは自分が何者であるか分からなかった。しかし最初の夫の影響でムスリムになり、イスラム教徒というアイデンティティを保つことができた。キリスト教徒だった頃は宗教的な自覚をあまり持たなかったようだ。イスラームの何が人々をそこまで信仰深くさせるのか、まだ私にはまだわからない。

・差別する側とされる側
モザンビークがポルトガル植民地だった時にそこへ渡った人はポルトガル人の中でも裕福ではない人達だった。だからこそ植民地において富への執着がすごかった、という旨の記述がある。これがアフリカ全体に共通することならば、黒人差別はそのような貧しい白人の余裕の無さから生まれたのではないか。
植民地時代は白人が黒人を奴隷としていた。時代が変化した今は黒人が黒人を奴隷としている。ジェシカはメイドさんを人として扱いたかったが、大富豪の黒人一家はそうは考えていなかった。ジェシカはそこに大きな違和感を感じている。

・裕福を知ったマタダ
村にいた頃は大人しく良い子だった。しかし都心に出稼ぎに行き、世の中には富める人がいる事を知ってしまった。そして身近にジェシカが居るからこそ、尚更自分の境遇に嫌気が刺してしまった。最後の方ではイマームに家族はいないと言っている。貧乏社会と縁を切りたかったのだろう。

・汚職文化のモザンビーク
いくら役人に金を払っても出生証明書やパスポートが出来上がらない。富めるものは富み、貧しい者は貧しいまま。

・独立後の混乱
植民地から独立してもその後に待つのは内戦。独裁政権を転覆してから国内が収集つかなくなるのと同じ。

・法に守られる社会
アフリカは賄賂社会であり、金さえあれば警察だって何だって操ることができる。そしてムスリム文化も手伝って、夫婦の揉め事に警察は口を挟まない。家族、親戚間で解決すべき事柄だからだ。
しかし欧州では家庭内問題に法の力を及ばせることができる。人は家族単位でなく個人単位で見られるのだ。

・筆者のイスラーム理解について
筆者は終始ジェシカとマタダに性的関係があったのに、ジェシカは否定しているのではないかと疑っている。しかしムスリムに相当強く影響されていた2人が婚前交渉に及ぶ事は例えひとつ屋根の下にいた事実があっても考えられない。本来であれば同室に寝ることすら神に反している上に婚前交渉を冒すことは、当時究極に追い詰められ、神にすがるしかない2人には起こりえないと私は思う。
私の仲の良い敬虔なムスリムの友達は「イスラムでは正式に夫婦間以外の性交渉を認めていない点で非常に優れている。神に反することはできないから。」と言っていた。

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2018年01月31日

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ネタバレ

[その先を目指して]着陸態勢に入った飛行機から落ち,ロンドンのアスファルトに叩きつけられた一人の男。新聞のベタ記事を飾るようなそのニュースに興味を持った著者は,「空から降ってきた男」の素性を知ろうとするのだが,彼が直面したのは,移民をめぐる大陸をまたいだ一つの厳しい現実であった......。著者は,日本人として初めて英国外国特派員協会賞を受賞した小倉孝保。


着眼点だけで満点を与えたくなるノンフィクション。ニュースで数字として取り上げられることの多い移民問題ですが,マタダという男性の人生を通して見ることによりその複雑な背景事情を浮かび上がらせることに成功しています。

〜欧州を目指す人の波の裏に何があるのか。普段は集合体でしかとらえることのない移民現象を,マタダの人生を通して,具体化してみせることが可能だと思った。〜

それにしてもこの終焉は切なすぎる☆5つ

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2016年11月21日

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ある快晴の朝、着陸態勢に入った飛行機からロンドン郊外に転落し、命を落としたモザンビーク出身の黒人青年。無謀と見える密入国に駆り立てた背景に何があったのか。丁寧な取材が掘り起こす衝撃の事実と、アフリカの今を活写する傑作ルポルタージュ。

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2016年06月20日

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 これは貧困と搾取が生み出した、一人の男の悲劇的な恋の末路だ。

 ロンドン、ヒースロー空港近郊の道に頭から血を流した男が横たわっていた。
 近所の住人は朝、外で大きな音がするのを聞いた。
 現場検証に来た警察官は、ヒースロー空港へ着陸していく飛行機を見上げていた。

 男の名はジョゼ・マタダ。
 アンゴラ発ヒースロー行の飛行機の車輪格納庫に忍び込んで密航しようとしたが、高度一万メートル、マイナス60℃の酸素の薄い空気で体力を消耗し、着陸時に扉が開いたときに落下して時速200kmで地面に叩きつけられて墜落死した。
 
 奴隷社会の絶望と、一人の女性に希望を賭けた。
 アフリカ社会の現代を追うノンフィクション。

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2018年05月08日

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「貧困は相対的なものである」この意味を正しく認識し直した。比較対象を認識しなければ、貧富の差に気付くこともなく、貧しさに悩むこともない。生きてていくのがやっとであったとしても、生まれ育ったコミュニティで生活していく、それが幸せだったのかもしれない。1日あたり何ドル以下の極貧生活という表現に意味はない
物質的豊かさを求めて、故郷を捨てて国外まで出稼ぎに行く。グローバリゼーションの影の部分がこの事件なのであろう。
しかし、もう過去には戻れない。

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2016年12月20日

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ネタバレ

2012/9/9-0750AM
ロンドン警視庁に緊急通報が入る。
ロンドン西部、リッチモンド・アポン・テムズ区、モートレイクのポートマン通りに人が倒れて死んでいるように見える、とのこと。

普段は静かな住宅街に、多くの警察官が集まり、現場での捜査が始まった。
しばらくすると、警察官は上空を気にし始めた。
現場はヒースロー空港から13キロ程度。
被害者は、どうやら現場上空で着陸のために車輪を出したとき、格納部から墜落したようだと考えられた。

身元確認などで捜査は難航するが、次第に状況が明らかになってゆく。
亡くなったのはモザンビーク出身の男性、ジョゼ・マタダ。
死亡した日はマタダの26歳の誕生日だった。

おりしも事件の日はロンドンパラリンピックの閉会式。
世界が一つにまとまり、スポーツの祭典が大団円を迎えるその日に、アフリカから逃げ出してきた一人の若者が息を引き取った。

「未だに、世界には命の危険を冒してでも、海を渡る事を熱望する人がいる。彼らが、命と引き替えにしてまでも手に入れたいものとは何なのだろう」(p.27)
集団として“移民問題”を論じるのではなく、今回の事件について、一人の男性の生涯を取材することで、社会の不平等な実態を暴くドキュメント。

「慎重な性格だった」と家族が語る男性が、飛行機の車輪の格納庫でヨーロッパを目指すなどという無謀な行動に出たその理由について、ともに考えられる作品。

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2016年10月15日

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 ヒースロー空港の直前で着陸態勢に入ったアンゴラからのBA便の主脚格納部から墜落して死亡した26歳の男の人生を追うノンフィクション。主題はアフリカ人がアフリカ人を奴隷のように扱う現状と、行政の不正、絶対的な貧困なんだけど、僕が興味を持ったのは、その男性が欧州を目指すことになった要因の一つとなった女性の人生。実はこちらも凄まじい。
 女性は82年生まれ。父親は英国人で母親はスイス人。母方は祖母がブラジル人で祖父がドイツ人。国籍はスイスとドイツで、望めばイギリス国籍もすぐに取れる。日常的に母親のフランス語、父親の英語、祖父母のポルトガル語とドイツ語に囲まれて育った。2歳の頃から家族でサハラ砂漠に渡り、ランドクルーザーで移動しながら、モロッコ、アルジェリア、モーリタニア、マリ、ニジュール、ナイジェリア、カメルーン、チャド、中央アフリカと行く先々で車を止めてテントを張った。そのように7歳まで暮らした。その後高校まではジュネープにある、国連の機関に働く人たちの子女が通う国際学校で教育を受ける。高校在学中にカメルーン出身で富豪、2歳年長の同じ高校の男性と結婚。18歳でイスラム教に改宗。そのあと同居することもなく、高校を卒業してイギリスの大学で学ぶ。2008年に南ア、ケープタウンの豪邸で一緒に住むようになるが、まるで幽閉されているような生活。ただ、お金の心配だけは無用であった。そこで、住み込みの庭師だった件の男性、墜落した男性と出会う。そして、二人でケープタンウの豪邸を脱出。男の故郷、モザンビークに逃げるが、資金もつき、路上での生活に。死の間際まで追い詰められて、母を頼って一人ベルリンへ。そこで生活を立て直して、ジューネーブへ再び。カメルーン人の夫と正式に離婚して、今はガンビア人の夫と暮らしている。
 
 いやはや、こんな人生もあるんだ。何々人とか、国籍は何々・・とか、そんなことを完全に超越している。こんなふうに、いずれ地球人になっていくのかなー、と感じたのであった。

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2016年07月18日

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