【感想・ネタバレ】株式会社の終焉のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

今日は水野和夫先生の「株式会社の終焉」。なかなかの力作ですが(お前が言うなよ~って怒られそう)、全部は紹介しきれませんので、最後の方をちょちょっと詳述します。

まず1000兆円の国・地方の借金だが、ストックとしての800兆円にも及ぶ国債をこれ以上増やさないことだ。

そのためには毎年のフローとしての国債発行額をゼロにするべきであるとする。それによって国債発行残高の増加に歯止めがかかるとのことだ。

次に、2015年度には8.8兆円と歳出100兆円の8.8%を占めていた国債利払い費が、マイナス金利によって、近い将来ゼロになることが考えられることから、それによって節約できた8.8兆円を国債の償還と社会保障関連のサービスの充実に充てることだという。

そして、国債管理庁を設立して、国際資金繰りのショートが起きないようにすることが大事であるという。これは日銀が適任だと水野先生は主張する。

また銀行(メガバンク、地銀)の預金1363兆円の53.3%が貸し出しで、残りの5割弱が国債などの有価証券投資であり、預金に占める国債保有と日銀預け金(市中銀行の日銀への預金)の合計の割合は37.9%となっており、異次元の金融緩和を始めた直前の2013年(35.4%)と比べても大して変わってない。

これは預金取扱金融機関が日銀に国債を売却して受け取った分を、日銀に預けているからである。

この結果、2015年度末で、預金取扱金融機関の日銀預け金は267.1兆円と、2011年の2011年の31.5兆円と比べて235.6兆円増加している。

つまり、預金取扱金融機関1363.2兆円の預金のおよそ4割が、国債とリンクしているといっていい。

これでは預金者がいくら預金を各金融機関に1000万円ずつ分散させても、その預け先である国内金融機関がどこの国債に投資しているのであれば、それは預金者が国債のリスクを負っているとの同義だ。

会社が倒産すると、株価が基本ゼロになるので、株主はリスクを負っているといわれていた。しかし、株式は証券市場で自由に売買できるので(公開企業を前提とする)、売却することで、リスクを回避することができる。

もちろん、倒産した株主を購入した人はリスクを被る。2015年に倒産した企業の負債総額は2.04兆円だった。日本の株式会社の株主資本は598.5兆円なので、比率にすればリスクが顕在化するのは、わずか0.3%である。リーマンショックの時でもその値は2%台半ばだった。

それに対して、預金者が間接的に保有する国債は預金の4割に相当する506.5兆円と巨額で、圧倒的に預金者の方がリスクを負っていることになる。

これには次の仮定をする。

「株主のリターン>預金者のリターン」となっているので、預金者のリスクを株主のリスクより低くすべきだと考える(A1)
「預金者のリスク>株主のリスク」なので預金金利を株主のリターンよりも高くすべきと考える(A2)

A1のケースの場合、国の借金を減らしていく政策をとり、かつ、日本の潜在成長率を高めていくことだ。

しかし、現在のようにROE(株主資本利益率)が8%弱のときに、預金金利を3%まで引き上げるには、潜在成長率もおよそ3%に高める必要が出てくる。これは、通常、資本コストは5%と言われているために、ROE8%から5%を引いた3%がリスクを負わない人が受け取るリターンとなるからだ。

次にA2のケースは、預金金利を株主のリターンより高くすることで、正常な関係に戻そうとするというものである。しかし、預金金利をROE(≒8%)以上にするのは、常識的に考えて無理がある。

次に、もう一つには現実を認めようとするケース(B)である。
預金者はハイリスク・ローリターンで我慢しろ、株主はハイリターン・ローリスクで当たり前だとするケースだ。

この考え方は「国民国家」の時代が終わり、「資本の帝国」の時代に変貌したと認識すれば正当化される。「国民国家」の時代には、預金者はローリスク・ローリターン、株主はハイリスク・ハイリターンが正常だったが「国民国家」の時代に正常だったことは、「資本の帝国」の時代には異常になるからだ。

「資本の帝国」とは一級市民の株主と二級市民の預金者からなる階級社会だ。国民は平等であるという近代の理念に反するという点で、「資本の帝国」は「反近代」であって、反動勢力なのだ。

とこのように、本書の一部を紹介してきたが、上記に続いて、「株式会社の終焉」について、水野先生の議論が展開されている。興味を持った方はぜひ本書を手に取って欲しい。

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2017年08月13日

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